雪だるまンネ

いつも経験値にされているから、人気者になって皆と仲良くしたいタブンネさん。
雪が降る寒い日、震えながらタブンネさんがいつものように草むらから人間の様子を伺うと、子供たちが楽しそうに雪遊びをしていました。
タブンネさんは混じりたさそう指をくわえますが、誰も気づいてくれません。
「もう雪合戦あきちゃったなー。なんか別のことしようよ」
「なにしようか」
「一番でかい雪だるまを作った人が勝ちってどう?」
「よっしゃあ決定、いくぞ!」
この会話を聞いて、タブンネさんは閃きました。これでわたしもにんきものだミィ!
タブンネさんは草むらを離れて何かをしだしました。
子供たちの雪だるまは、凶悪といっても過言ではないほどに巨大なものになりました。
満足気に頷く子供たち。
「ん、あれ誰が作ったんだ?」
一人の男の子が指差す先には、見るに耐えないほどみすぼらしい雪だるま。
凸凹で、顔もろくに作り込まれていないそれを見て、子供たちは憤慨しました。
「こんな弱っちいのを僕たちの雪だるまの隣に作ったの誰だ! ぶっ壊してやる!」
一番大きな子が、その雪だるまに近づいて行きます。
「待ってブンちゃん、あいつ動いてるよ!」
確かに雪だるまは動いていました。
「おばけ雪だるまだ!」
「怖い!」
「うわあ、どうしよう!」
子供たちは混乱し、バタバタと走り回ります。その振動さのせいか、雪だるまの顔の部分がぱっかりと割れ、中身が露となりました。

「ミッミッ!」
雪だるまの正体はタブンネさんでした。
いつもなら石を投げてくる子供たちは、笑ってタブンネさんを見ています。
「なーんだ、タブンネだったのか」
「怖かったー」
ワイワイ騒ぎだす子供たちに、タブンネさんは身を包む雪の冷たさに震えながら精一杯の笑顔を振り撒きます。
「ミッミッ! ミッミッ!」
仲良くしてね、とでも言っているのでしょう。
しかし子供たちの表情に友好的な色は見えません。それもそのはず、子供たちの遊び場のひとつであった草むらは、タブンネさんが住み着いたせいで
立ち入り禁止となったのです。
確かに、タブンネさんの丸々と太った体は子供たちにとっては脅威となり得ます。
「あの野郎……俺達の遊び場を取って笑ってるんだ!」
「もう怒った。皆、タブンネをこの草むらから追い出してやろう!」
おお! と盛り上がる子供たちを見て、タブンネは身の危険を感じて逃げ出そうとしました。しかし、他のタブンネに作ってもらった雪の体は思った以上に硬く、びくともしません。
その努力もむなしく、タブンネさんは子供たちに囲まれてしまいました。

「まずは逃げられないように体を固めよう」
雪を掬い上げ、タブンネさんの体を補強する子供たち。瞬く間に、タブンネさんは顔以外の部分を雪で覆われてしまいました。
「ようし。皆、砲撃準備!」
子供たちはタブンネさんから距離をおくと、一斉に雪玉を握り始めました。
「発射!」
沢山の雪玉が、タブンネさん目掛け飛びます。顔に雪玉が当たる度に、タブンネさんは小さな悲鳴をあげます。
「撃ち方やめ!」
大分雪に熱を奪われ、ぐったりとしているタブンネさん。
「ミィミィ……」
どうしてこんなことするの? わたしはみんなとなかよくしたいだけなのに……。タブンネさんの訴えは、誰にも届くことなく白い息になって、霧散してしまいました。
「次は内から攻めるぞ!」
「ミゥーウーウー」
雪を溶かそうと一生懸命唾液を出しても、雪は全然溶けません。冷たさで、口の中が麻痺してしまいました。
二人がかりでタブンネさんの口をこじ開け、口の中にどんどん雪を詰めていく子供たち。必死な表情から、どれ程鬱憤が溜まっていたのか見てとれます。
「やめ! よし、次は……」
ごうん、ごうん。大きな鐘の音が響き渡ります。
「あ、もう晩御飯の時間だ」
「早く終わらせて帰ろう」
「お腹すいたー」

やっと終わる……タブンネさんがホッとして目をつむると、突然鼻っ面に激痛が走りました。慌てて目を開けると、拳を振りかぶった男の子が目の前に立っていました。
「えい!」
「ミヒィ!」
子供のパンチですが、流石に無防備な顔には痛いものです。タブンネさんの鼻から血が流れました。
「あ、血だ!」
「きったねー、皆逃げろ!」
明日、また遊ぶ約束をして、子供たちは散り散りに去っていきました。
あれから何時間も経ち、いよいよタブンネさんの全身の感覚が麻痺しています。
「ミィ……ミィ……」
本当なら暖かい穴の中で寝ている時間まで、タブンネさんは声を絞り出して助けを呼びます。
「ミッミッ! ミッミッ!」
殴られても蹴られてもいいから、誰かここから出して……悲痛な叫びは闇に溶け、タブンネさんは冷たい現実を叩きつられます。
「ミ……ィ……」
翌朝、タブンネさんは雪と同じくらいに冷たくなっていました。最後の最後まで絶望に歪んでいたであろう顔は、その表情をカチカチに固まっていました。
最期に皆と遊べてよかったね、タブンネさん!
最終更新:2014年06月24日 20:13