愛情というもの

「ミィィィッ!」
タブンネが叫び声を上げながら殴りかかる。
殴られた相手は「ミィッ!?」と悲鳴を上げ、床の上を転がる。
殴ったのはタブンネ。殴られたのは子タブンネ。血のつながった実の親子だ。

実はこの親タブンネ、生まれた時から飼い主によって虐待を受け続けてきたのだ。
愛護団体に助け出してもらい、さらに保護施設内の他のタブンネと結婚して子どもも生まれたのだが、
幼いころから愛情を受けることなく育ってしまったため、子どもを愛する方法がわからないのだ。
子どものことはかわいいし、たくさんかわいがってあげたい。
しかし、暴力以外に思い出せることは何もなく、子どもに手を上げることしかできないのだ。

殴られるたびに立ち上がり、親の元に向かいヨタヨタと歩いていく子タブンネ。
その努力が実り、ついに親タブンネが両腕で子タブンネの体を抱きしめる。
子タブンネの触覚を通して、親タブンネの気持ちが流れ込んでくる。

大好きだよ。ごめんね。大好きだよ。ごめんね。大好きだよ…………

子タブンネは安心し、親タブンネの大きなお腹にもたれかかる。
しかし、いきなり親タブンネに突き飛ばされ、転んだところを何度も殴られる。
優しく抱きしめてもらうこともできず、子タブンネは涙を流す。
そんな子タブンネの姿を見て、親タブンネもまた涙を流す。

ここは愛護団体の所有するタブンネ保護施設のひとつ。
虐待を受けていたタブンネたちが集められているのだが、彼らは愛情というものを知らない。
そして、ここで生まれた子タブンネたちも愛情を知らずに成長する。
悲しみの連鎖は終わることなく、延々と続いていく。

(おわり)
最終更新:2014年06月24日 20:56