科学者はタブンネがお好き

僕の名前はタブンネスキー。
タブンネ虐待愛好会に所属している科学者だ。
さて、虐待愛好会に所属している僕だが、実はタブンネのことが大好きだ。
そんな僕が虐待愛好会に所属することになった経緯を紹介しよう。

僕はタブンネのことが大好きだ。
だからこそ、経験値や虐待を目的に、タブンネがひどい目にあうことが許せなかった。
どうすればタブンネたちを救うことができるだろうかと必死に考えた。
そして考え付いた方法がこれだ。

強いタブンネを「造れば」いい。

タブンネたちが弱いからお手軽な経験値タンクとして狩られてしまうわけだし、
大した反撃ができないから一方的な暴力の対象にされてしまう。
しかし、タブンネたちが強いポケモンになればそういうことは起こらないはずだ。
目標が決まった僕は猛勉強を始めた。

勉強を始めてから数年。
ある有名な大学に入り、そこをトップレベルの成績で卒業することができた。
目標の達成まであと少しの所まできていた。
しかし、それはなかなかに厳しいことだった。

僕のことを受け入れてくれるところがなかったのだ。
最初は歓迎してくれる雰囲気なのだが、強いタブンネを造りたいという僕の目標を聞くと、
誰もが僕のことを追い出すのだ。
ポケモンの体を改造するなどもってのほかだと言って。

僕は頭を抱えた。
なぜ誰も理解してくれないのか。
強いタブンネを造ることはそんなに悪いことなのか。
そんな途方に暮れていた僕に声をかけてくれた人がいた。
タブンネ虐待愛好会の会長だった。

虐待愛好会に誘われ、最初は断った。当たり前だ。
僕の目標とは正反対に位置する団体だ。
タブンネをひどい目に会わせる彼らのもとに所属する理由がない。
それでも会長は熱心に僕のことを勧誘し続けた。

やがて僕の中に、入ってみようかという気持ちが芽生えてきた。
会長が提示してくれた条件や研究設備はかなり魅力的だったし、このままでは行く場所がない。
それに、虐待する彼らの近くにいれば、虐待を止める方法が見つかるかもしれない。
こうして僕は、タブンネ虐待愛好会に所属することになった。

虐待愛好会でぼくが最初にやったことは、タブンネを調べることだった。
強いタブンネを造るためには体の隅々まで知ることが必要だ。
解剖したり、大量の薬物を投与したり、脳みそや内臓に電極を差し込んだり。
少なくはない数のタブンネが犠牲になってしまったが、タブンネの未来のためには仕方のないことだ。

いろいろなデータを取り、タブンネの体のことが理解できた。
次はいよいよ、タブンネの体を実際に使った改造手術だ。
手術台の上のタブンネは不安そうにしていたが、強くしてあげるというと笑顔になった。
強くなるということはタブンネたちにとっても嬉しいことなのだ。

炎ポケモンのように、炎を生み出す器官を体内につけてみた。
「ミッギャ、ミォォォ!? ミヒィィィィィィィ!」
体の内側から燃え尽きてしまった。

電気ポケモンのように、発電器官を体内に取り付けてみた。
「ミガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
感電して死んでしまった。

それならばと、水ポケモンのように、体の中で水を作れるようにした。
「ミポッ、ゴボボッ……ガハァッ! ミッ、ミッ、ゲホッ!」
陸にいるのに溺れ死んでしまった。

改造手術が思った以上の成果を上げられずに、完全に行き詰まった。
周りからは「虐待のデパート」なるあだ名をつけられた。嬉しくない。
そんな僕を見かねたのか、会長がアドバイスをくれた。
タブンネの長所である耐久力を強化すればいい、と。

それは的確なアドバイスだったと思う。
タブンネを強くしようとするあまり、タブンネの持ち味をすっかり見失っていた。
耐久型ポケモンというのもなかなかに強いスタイルではないか。
さっそく、新たな改造手術に取り掛かった。

岩ポケモンの硬さを身に着けるために、体中の組織を岩と交換した。
「ミィ……ミグゥ……ミッハ……」
岩の重さに耐えられずに押しつぶされてしまった。

鋼ポケモンの耐性を与えようと、体の表面から内臓に至るまで金属でコーティングした。
「ミ……ハァハァ……ミガガ……」
重くて動けないどころか、金属アレルギーを起こしてしまった。

格闘を無効化できるゴーストタイプにするために、殺してから生き返らせることにした。
軽量化もできるので一石二鳥だ。
「…………………………」
タブンネは生き返らなかった。

何をやっても上手くいかず、途方に暮れてしまった。
周りからは「タブンネ殺しのパイオニア」なるあだ名をつけられてしまった。
そんな僕を見かねたのか、ふたたび会長がアドバイスをくれた。
たぶんねの「さいせいりょく」を利用してはどうだろう、と。

目から鱗だった。
ポケモンの持つ特性を生かさない手はない。
こうして、さらに新しい改造手術に取り掛かることにした。
虐待愛好会を憎む僕にアドバイスをくれるとは。
会長はものすごく器の大きい人なのかもしれない。

今度の改造手術は見事に成功した。
どんなダメージを受けてもなかなか倒れず、回復力も高いタブンネを造ることができた。
さらに、死ににくいタブンネができたことで、今まで以上に無茶な改造手術ができるようになった。
普通のタブンネなら死んでしまうようなことでも、新しいタブンネなら耐えることができるのだ。

そして現在。
僕は今日もタブンネの改造手術に精を出している。
あれから何度も実験と手術を繰り返した結果、さらに死ににくいタブンネを造り出すことができた。
虐待愛好会の人間からも一目置かれるようになった。

この死ににくいタブンネは本当にすごい。
1か月食事を与えなくても、飢えと乾きに苦しみながらも生きている。
内臓が破裂しようが、全身の骨が砕けようが激痛に苦しみながらも死なない。
さらには、文字通り「首の皮1枚」つながっていれば、そのままの状態でも生き続けることができる。

何より大きいのは、麻酔をしなくても改造手術ができるということだろう。
本来ならショック死するようなハードな手術も、この新しいタブンネなら耐えられる。
体を切り開き、骨を砕いていくたびに上がる絶叫は、手術を彩る鮮やかなメロディーだ。
涙を流しながら絶望の色を浮かべる青い瞳も、本当に愛おしい。

手術室につながる廊下を歩いていると、会長とすれ違った。
僕の隣にいるタブンネを見ると、これから手術かねと尋ねられる。
ほかの会員といっしょに新しいアプローチを試すことを伝えると、会長が笑顔を浮かべる。
私の見込んだ通りの男だ、とお褒めの言葉までいただいた。

僕の隣を歩くタブンネは無表情で、鳴き声一つあげない。
問題ない。これからいくらでも表情を変えて、絶叫を上げるのだから。
手術室の扉を開けると、みんなすでにスタンバイしていた。
みんな期待に満ちた表情をしている。僕も楽しみだ。

タブンネを手術台の上に乗せる。タブンネの死ねない改造手術のスタートだ。
もはやタブンネを強くすることなどどうでもいい。
僕はただ、タブンネ苦痛にゆがむ表情と絶叫を聞きたいのだから。
さあタブンネ、今日も僕たちを楽しませておくれ。

僕はタブンネのことが大好きだ。
終わりのない地獄に絶望するタブンネの姿が、本当に大好きだ。

(おわり)
最終更新:2014年06月24日 20:57