「ミィ♪」「ミッミ♪」「ミミィ♪」
小さな空き地に子タブンネたちの楽しげな鳴き声が響く。
3匹の子タブンネが捨てられていたモンスターボールを楽しそうに蹴っている。
そんな子どもたちを、お母さんであるタブンネがニコニコと笑顔で見守っている。
近くにある商店街に設置されている街頭テレビ。
そこに映し出されていたのはサッカーの祭典ワールドカップ。
エサを探していた時に見たその映像はタブンネたちを興奮させた。
サッカーのルールはわからなくとも、画面越しに伝わってくる迫力や熱気はよくわかった。
空き地に捨てられていたモンスターボールを蹴ることで、雰囲気だけでも味わっているのだ。
「ミィ~…………ミィッ!」
子タブンネの1匹が思いっきりモンスターボールを蹴飛ばす。
モンスターボールは大きくそれて、ニコニコと見守っていたお母さんタブンネのもとへと飛んでいった。
「ミッキャ!?」
飛んできたモンスターボールをお母さんタブンネは避けることができなかった。
ポコーンという軽い音を立てて、モンスターボールがお母さんタブンネの頭に直撃する。
突然のことに対応できず、お母さんタブンネがひっくり返る。
その光景を見て、子タブンネたちはあわててお母さんタブンネのもとに駆け寄っていく。
「ミィミィ」と鳴き声をあげながら、「ごめんなさい」「だいじょうぶ?」と倒れたお母さんの顔をのぞき込む。
お母さんタブンネはすぐに体を起こすと、子タブンネたちを安心させるように笑顔を向ける。
と、そのときである。
お母さんの頭に当たったモンスターボールがパカッと開いた。
「ミッ? ミィィッ!?」
タブンネたちが何か疑問を感じる前に、お母さんタブンネの体がモンスターボールの中に吸い込まれる。
目をパチクリとさせる子タブンネたちの前で、モンスターボールはパタンと閉じてしまった。
何が起こったかわからない子タブンネたちだったが、やがて鳴き声を上げ始める。
自分たちの目の前でお母さんが突然姿を消してしまった。
優しくて大好きなお母さんがいなくなってしまい、不安に襲われているのだ。
「ミィ! ミィミィ!!」
そのうち、子タブンネたちの1匹がモンスターボールを指さして激しく鳴きはじめる。
野生である子タブンネたちはモンスターボールのもっている機能は知らない。
だがそれでも、お母さんタブンネが消えてしまった原因が目の前のボールだということはなんとなくわかったのだ。
3匹でモンスターボールをペチペチと叩いたり、近くにあった石でゴツゴツと叩いてみたり。
色々なことを試してみるが、お母さんタブンネがモンスターボールから出てくる様子はない。
もともとは空き地に捨てられていたモンスターボール。おそらく壊れていたのだろう。
壊れていたはずのそれがたまたま作動し、お母さんを飲み込んでしまった。
そして、壊れていたということは正常に作動する保証はないということであり。
それはつまり、このモンスターボールが二度と開かない可能性もあるというわけで…………
それから数日たってワールドカップが終わるころ。
車につぶされてペシャンコになったモンスターボールと、その周りで涙を流す子タブンネたちの姿が目撃されたという。
(おしまい)
最終更新:2014年06月26日 23:59