タブンネと奥様

さて、私が今宵お話し致しますのは…
私が仕える奥様の美貌と、その美に携わるポケモンのお話に御座います。

幼い時分より奥様の元へと仕えておりました私ですが、記憶の中の我が主の美しさは衰えを知らず
変わらぬ美を称えた周囲からキュウコン夫人と呼ばれております。

えぇ、それはもう美しゅう御座いましてね。

無論、その美を保つ秘訣があるのですが…
何分学の無い身故、お聞き苦しい話となるかもしれません。
何卒、何卒、ご容赦の程を……。




あれは私がまだ、奥様に仕えて間もない頃の事。
奥様はイッシュ地方に住むタブンネというポケモンに興味をもたれまして。
私の主な仕事といえば、そのポケモンの遊び相手でした。

それがまだ幼い個体ながらに、やんちゃ盛り。
目を離すとすぐ何処かへ行ってしまい心休まる暇も御座いません。
奥様のお気に入りは私であって欲しいという浅ましい願いからも、私、あの子タブンネを好きにはなれませんでした。


そんなタブンネを奥様が渇望するようになった事件…

事の発端は、奥様が大切にしている香水瓶に、件の子タブンネが興味を抱いてしまった所から始まります。

「チ…チィ?チィ~♪」
ほんのりと甘い香りが気に入ってしまったのでしょう。

瓶が割られてしまう前に止めなければ、
そう思った私を制して奥様は

「離しなさい」
「チ?」
「それを離しなさいと言っているのです」
「チィ」
奥様に懐いていた子タブンネはふにゃっと笑顔を見せると、
言った通りに香水から手を離そうとしました。

パリン、と繊細な音がたったのは一瞬で
子タブンネが頬を抑えてぽかんとした後
大きな声をあげ泣きじゃくるまで、本当にあっと言う間でした。

続く
最終更新:2014年06月29日 13:40