公園の子タブンネ

住宅街にある公園。
すべり台やジャングルジムといった遊具が多く設置されている。
その公園のはしっこの方には砂場がある。
その砂場で1匹のタブンネが遊んでいる。まだ体の小さな子タブンネだ。

子タブンネは砂場に穴を掘ったり、砂を集めて山をつくりながら遊ぶ。
小さな砂の山を、小さな手でポンポンと固めながら山の形を整えていく。
山の周りをヨタヨタと歩いている姿から、歩けるようになって日が浅いことがわかる。

「あーっ! またタブンネがいるー!」
「ほんとだー!」

突然の声に、子タブンネが砂の山に向けていた顔を上げる。
声の主は、公園の近くに住んでいる人間の子どもたち。
ここ数日の間にできた、子タブンネの遊び相手だ。

子どもたちは「タブンネあそぼー♪」と言って子タブンネのもとにやってくる。
子タブンネの方も「ミィィ♪」と笑顔を浮かべてそれに応える。
ポケモンと人間という違いはあれど、子ども同士なので波長が合うのだろう。
子タブンネと人間の子どもたちはいつものように遊び始めた。

子タブンネが鬼のまま終わらない鬼ごっこ
子タブンネだけ見つけてもらえないかくれんぼ。
子タブンネを埋めて、そのまま忘れてしまう砂遊び。
子タブンネもいっしょに蹴っ飛ばされてしまう缶蹴り。

子タブンネと人間の子どもたちは楽しい時間を過ごす。
しばらくすると子どもたちは持ってきていたお菓子を食べ始める。
それを眺めていた子タブンネもお菓子をもらい、みんなで仲良くおやつタイムだ。

子タブンネはもらったお菓子を全部は食べてしまわない。
食べ残したお菓子を、汚れてしまったふわふわの尻尾の中に大事に大事にしまいこむ。
そして、おやつタイムが終わると、人間の子どもたちが家に帰る時間だ。

「ばいばいタブンネ。またあしたねー♪」
「またあそぼうねー♪」

人間の子どもたちは子タブンネに手を振って公園から家に帰っていく。
子タブンネも手を振りながら笑顔で子どもたちを見送る。
子どもたちの姿が見えなくなると、子タブンネも公園を出て巣に帰ることにする。
オレンジ色のきれいな夕焼けを見ながら、子タブンネはヨタヨタと帰り道を急ぐ。

住宅街から離れたところにある小さな林。
そこが子タブンネの巣がある場所だ。
子タブンネが帰りつくころにはすっかり陽は暮れてしまっている。
ホーホーの鳴き声やムウマの姿におびえながら、子タブンネは暗い林の中を進んでいく。

「ミッミィ♪」

不法投棄された大きな衣装棚。それが子タブンネの巣だ。
無事に家にたどり着いた子タブンネは「ただいま」と言いながら巣の中に入る。
しかし、それを迎えるはずの親タブンネの返事はない。

親タブンネの姿は衣装棚の隅にあった。
2匹のタブンネがぴったりと体を寄せて、横になったまま動かない。
子タブンネは今日あったできごとを笑顔で親タブンネに聞かせはじめる。
人間の子どもたちと遊んだことと、おいしい食べ物をもらったこと。
子タブンネは尻尾から食べ残したお菓子を出すと、親タブンネの頭の横に置く。

とってもおいしかったから、おとうさんとおかあさんもたべてね。

親タブンネの周りを飛んでいるハエを追い払うと、子タブンネは眠る準備をする。
親タブンネの体の間に自分の体を潜り込ませる。
変な臭いはするし、温かくもないし、自分のことを抱きしめてもくれない。
それでも子タブンネにとっては大事な両親なのだ。

子タブンネはゆっくりと目をつぶる。
親タブンネといっしょに遊んだことを思い出しながら眠りにつく。
まだ幼い子タブンネにはわからない。
自分の両親が二度と目を覚まさないということがわからない。

おとうさんとおかあさん、はやくおきないかなぁ。




「そういえばタブンネこないねー?」
「そうだね。どうしたのかな?」

住宅街にある公園。
すべり台やジャングルジムといった遊具が多く設置されている。
近所に住む子どもたちの遊び場である公園。

かつてそこにいた小さなタブンネの姿はどこにも見えない。
あのタブンネがどこで何をしているのか。それを知る人はどこにもいない。

(おしまい)
最終更新:2014年06月29日 14:06