ワイパー

「チュイピィ♪」 「チィチィ♪」 クチャクチャ
今、俺の目の前でベビンネ二匹が木の実を食べている。多分兄弟だろう。
口の周りを木の実の汁だらけにして夢中になって頬張っている。

それにしてもだ、ベビンネ達は今自分達が一体どこで木の実を食べているのか理解しているのだろうか?
そこは俺の車のボンネットの上だぞ、ちょっと長期運転に疲れたから仮眠をとって起きてみればこれだ。
おかげでボンネットの上は木の実の食べカスだらけ…まったく困った奴らだな。
「スピィ……」 「チィ……」
木の実を食べ終えたベビンネ達は腹が膨れて眠くなったのか、ボンネットの上で大の字になって眠り始めた。呑気なものだ。
しかし困ったな…このままじゃ車が動かせないぞ。
「チュイ……」 「ピィ……」
………………
ベビンネの幸せそうな寝顔を見て、俺はちょっと悪戯をしてやりたくなった。

パーーーーーーーッ

「チヒィ!?」 「チビッ!!」
クラクションを鳴らしてみると、ベビンネ二匹は飛び起きた。驚いてボンネットから落ちそうになったり、耳を押さえてコロコロ転げ回ったりしている。そういえばタブンネって耳がよかったな。
少しして、俺はクラクションの音を止めてやった。まだベビンネ二匹はボンネットの上にいる。これで逃げると思ったんだがなぁ…
「チ…チビェェェェン!!」
すると弟と思わしきベビンネが大声で泣き出した。まぁ、幼いベビンネには少しきつかったかな。
「チフーーッ!チガーーッ!!」
兄ベビンネの方は弟の頭をよしよしと撫でて、こちらに幼いなりにも威嚇をしてきた。
そしてペチペチとフロントガラスをたたき始めた。タブンネにしてはなかなか勇敢な奴だな。
だが、このままでは爪とかでガラスが傷付くかもしれないから、やめさせなくてはいけない。
俺はワイパーを動かしてみた。

カッチカッチカッチカッチ
「チ!?チギィ!!」

兄ベビンネはワイパーに下顎を打たれて、後ろに仰け反った。その姿が少し笑えた。
「チィ…チィ!」
兄ベビンネは、涙目になりながらも再びフロントガラスに攻撃しようとしているが、ワイパーがそれを邪魔してできないでいる。
「チィィ!!」
動いているワイパーに兄ベビンネは掴み掛った。押さえつけて動きを止めるつもりなのだろう。
「ヂィィィ!!チィィィ!!」
でも逆にワイパーに振り回されている。上にいったり下にいったり大忙しだ。
俺はワイパーのスピードを上げた。

カチカチカチカチカチカチ
「チュピ!ヂュィイイ!ヂイイイ!」

ブンブン振り回される兄ベビンネ、遠心力で涙や鼻水が辺りに飛び散っている。
ワイパーが壊れそうだからこれ以上はやめた。
ワイパーから手を放した兄ベビンネは、振り回されたことにより、かなり酔っていた。フロントガラスに手をついて「ヂェ…ェ…」と今にもさっき食べていた木の実を吐き出しそうだ。
じゃあ、冷たい水でも浴びせてスッキリさせてやろう。俺はウォッシャースイッチを押した。

シャーッ
「チピィ!!」

驚いてフロントガラスから離れる兄ベビンネ、その際濡れていたのでボンネットの上で滑って顔面を打ち付けていた。
「チェェェェェン!!」
鼻血を出しながら、ついに兄ベビンネも泣きだしてしまった。

「ヂィヂーィ!!」
今度は、さっきまでべそをかいていた弟ベビンネがブンブンと手を振り回しながら向かってきた。
弟ベビンネが、フロントガラスに攻撃する瞬間を狙って俺はワイパーを動かした。

カッチカッチカッチ
「チビ!フィィィィ!」

すると、俺が想像したよりも面白いことになった。何と弟ベビンネの小さな手が、ワイパーとガラスの間に挟まってしまったのだ。
ワイパーが動くたびに弟ベビンネの手はガラスに擦り付けられる。まるで俺の車がベビンネに強制的にガラスを拭かせているようだ。
「フィ!フィァァァ!チビィィ!」
摩擦による痛みに弟ベビンネは泣き喚く。
俺の車を汚したコイツらにはちょうどいいおしおきだな。
「チィ……チェェン……」
ワイパーを止めた頃には、弟ベビンネの手は真っ黒になっていた。汚れもたくさんとれたようだ。

「チィィ…」 シャ~~…

アッ!コイツ車の上でお漏らしなんかしやがったっ!!
さすがの俺もこれにはキレた。車から降りてベビンネ2匹を掴むと、弟ベビンネのお漏らしに擦り付ける。

ゴシゴシ
「ピィィィィィ!!」「キュピィ!チュィィィ!!」

お漏らしをベビンネで拭き取った俺は、黄ばんで尿臭くなった二匹を木に叩き付けて車を発車させた。
帰ったら念入りに洗車しないとな…
最終更新:2014年06月29日 14:08