ここはライモンシティ。そこに近くの森から出てきた3匹のタブンネがやってきました。
このタブンネは親子らしく、お母さんタブンネの後ろを小さな子タブンネ2匹がよちよちと歩いています。
「ミィ~♪」 「チィチィ♪」 「チィィ♪」
タブンネ親子は生まれて初めて見る人間の町に興味津々です。ブルーの瞳をキラキラと輝かせて周りの立派な建物や、綺麗な遊園地を見回しています。
しばらくして、お腹がすいた子タブンネ達、お腹がキュルキュルとかわいらしい音をたてています。
「チィチィ!」と鳴いて子タブンネ達はお母さんタブンネにそれを訴えます。
「ミィ♪」
お母さんタブンネは自分のふわふわの尻尾から、木の実を2つ取り出してそれを子タブンネ達に渡してあげました。
「チィ♪」 「チィチィ♪」
大好物の木の実を手に子タブンネ達は小躍りします。
ちょうど近くにベンチがあったので、タブンネ親子はそこで木の実を食べることにしました。
「チィ~~♪」 「チィ、チィ♪」 「ミィミィ♪」
ベンチに仲良く3匹並んで座って木の実を頬張るタブンネ親子はとっても幸せそうです。
「チュピ…」 「チ~ィ…」
木の実を食べ終えた子タブンネ達はお腹がいっぱいになって眠くなったのか、頭がコクコクとなっています。
「ミィ~~♪ミミィ~~♪」
そんな2匹を見て、お母さんタブンネは子守唄を歌ってあげました。
すると、子タブンネ達はすぐに「ピィ…」「チピュウ…」と寝息をたてて眠りました。
「ミピィ……」
お母さんタブンネも、子守唄を歌っているうちにウトウトと眠ってしまいました。
どのくらい時間が経ったでしょうか…
お母さんタブンネが目を覚ました頃には、辺りはすっかりオレンジ色の光につつまれていました。
あ、もう森に帰らなくちゃ、と思ったお母さんタブンネはまだスヤスヤ眠っている子タブンネ達を揺すります。
「ミィ、ミィミィ」
「チィ?」 「チピ…?」
子タブンネ達はまだ眠そうな目をキュッキュッとこすりながら目を覚ましました。
「ミィミィ」
寝惚け眼の子タブンネ達に、もう森へ帰るよ。と言ってお母さんタブンネは立ち上がろうとします。
「ミッ!?ミィミィィ!?」
「チィチィ!?」 「チビィィ!?」
ところが、何故かお母さんタブンネは立ち上がることができません。まるで、背中とお尻が吸い付いているかのようにベンチから離れないのです。子タブンネ達も同じ状況になっています。
「ミィィィ!?ミィミィ!!」
訳も分からずパニックになるタブンネ親子。
実は、このベンチはペンキを塗ったばかりの物だったのです。うっかり誰かが座ってしまわないようにベンチには「ペンキぬりたて」の貼り紙がしてありましたが、タブンネ親子はその意味を理解できずにベンチに腰を掛けてしまったのでした。
「ミィミィーィ!ミィミィ!!」
「チィーー!!」 「チビィーー!!」
必死にベンチから離れようと手足をバタバタさせますが、離れることができません。
それどころか、ベンチにくっついた背中の毛や尻尾が引っ張られて激痛が走るばかりです。
「ミィーー!!ミィミーーーーー!!」
自分達ではどうすることもできないと思ったお母さんタブンネは前を歩く人達に助けを求めて鳴きますが、みんな気にしないで通り過ぎていくか、面白そうに動けないタブンネ親子を見ているかのどちらかです。
「ミィ……」
「チィーーー!!」 「チピィーー!!」
しばらく鳴いてみても、状況は何も変わりませんでした。
どうして誰もタブンネ達を助けてくれないの?お母さんタブンネはそんなような表情を浮かべています。
子タブンネ達は、うごけないよー!ままたちけてぇ!とお母さんタブンネに助けを求めています。
人間は助けてくれないので、やっぱり自分で何とかしなくてはいけないと思ったお母さんタブンネは急に「ミィ!」と気合を込めました。
どうやら力ずくで剥がすことにしたようです。お母さんタブンネは自分の短い両足に力を込めます。
「ミビャァァーーー!!」
思い切り引っ張ったお母さんタブンネは、何とかベンチから離れることができました。
しかし、それと同時にお母さんタブンネの背中からお尻にかけての毛がベリベリと抜けてしまいました。
「ミビィィィウビャァァ……!!」
あまりの痛みにお母さんタブンネは背中とお尻を押さえてのた打ち回ります。
そして、自分の大切なピンクの毛が大量に抜けてしまったことに気が付きました。
「ミィィ!ミィミィ!」
ピンクの毛はしっかりとベンチにくっついてしまっています。何とかそれを剥がそうと頑張るお母さんタブンネでしたが、残念ながらそれは叶いませんでした。
「ミェ…グス…ミィィ…」
いつもきれいに手入れをしてきたピンクの毛並みが、まるでボロボロのチョッキのようになったお母さんタブンネは悲しくなって泣いてしまいました。
子タブンネ達も、大好きだったお母さんのふわふわの毛がみすぼらしくなってしまったことに涙を流します。
でも、お母さんタブンネに悲しんでいる暇はありません。子タブンネ達はまだベンチにくっついたままなのです。
「ミィ…ミィ…」
お母さんタブンネは、子タブンネ達をどうやって助けてあげれば良いのか困り果てました。
剥がそうと思えば、少し無理に引っ張れば剥がすことができますが、それをすれば子タブンネの毛も自分と同じようにボロボロになってしまう…お母さんタブンネはそれだけは避けたかったのです。
「今日はいい試合だったなー」
「でも疲れたわー」
ベンチの前で腕を組んでうろうろしているお母さんタブンネに、ライモンドームから出てきた数人の若者が近付いてきました。
「ミィィー!ミッ!ミィ!」
助けてくれるのかと思ったお母さんタブンネは、若者達に対して必死に手足を動かしてジェスチャーで今の状況を伝えようとします。
「ん?何だコイツ、何か言ってるぞ」
「どうしたんだろーな?」
「ミィーミィミッミィ!!」
「あ~疲れたわー」
すると、突然がたいの良い若者の1人が、ドスッと子タブンネのくっついたベンチに腰を下ろしました。
この若者は、お母さんタブンネの必死なジェスチャーに目がいっていて、ペンキ塗りたての張り紙と子タブンネの存在に気が付かなかったのです。
「ヂィィビャァアーーー!!」
動けない子タブンネは、そのまま若者の大きなお尻の下敷きになり、耐えきれずに断末魔をあげてプチリと潰れてしまいました。
「ミアアアーー!!」
妙な感触に気付いた若者はすぐに腰を上げます。
「うわっ、なんだこりゃ!気持ちわりーな」
「いこーぜ」
若者達が去った後、お母さんタブンネがベンチに駆け寄って見てみると、子タブンネは胴体に頭がめり込んで目も飛び出し、腕はあり得ない方向に曲がって息絶えていました。
「ミィヤアアアア!!」
子タブンネの変わり果てた姿にお母さんタブンネは再び悲鳴をあげます。残った子タブンネもそれを見て失禁しています。
その後、お母さんタブンネは潰れてしまった子タブンネに何度も何度もいやしのはどうをしてあげました。
でも、もう子タブンネが再びチィチィ♪とかわいらしい鳴き声をあげることはありませんでした。
「ミ…ミェ、ミェェェェン!!」
「グスッ、チビェェェェン!!」
お母さんタブンネと子タブンネは大声で泣きだしました。
辺りはすっかり暗くなり、賑やかだった遊園地も閉園して静かな夜の空気になった町に、タブンネ親子の泣き声が響き渡ります。
少しして、今度はフラフラとした足取りの男が泣いているタブンネ親子に近付いてきました。
「オイッ!」
「ミィ? ミグゥッ!!」
男は、いきなり泣き腫らしたお母さんタブンネの顔面をぶん殴りました。お母さんタブンネは、殴られた勢いで後ろにあった柵に激突します。
「夜中にピーピーうるせぇ声でわめきやがって!他人の迷惑ってもんを考えろオラッ!」
男はそう言ってお母さんタブンネのポヨポヨのお腹を固い靴底で何度も踏みつけます。
「ミヤァ!ミギャ!ミべッ!!」
「うらぁ、人様の静かな夜を邪魔してんじゃねえぞ! ヒック…」
どうやらこの男は面倒な酔っ払いサラリーマンのようです。
「ミィ…ミィミィ!」
「うるせぇっ!!」
「ミビャア!!」
涙を流してやめるように懇願するお母さんタブンネを、男は容赦なく暴行しはじめました。
お母さんタブンネのお腹や顔に男の拳や爪先がボスッ、ガスッとめり込みます。
自分の毛や子供を失ったことによる精神的な疲労と不意に食らった最初の攻撃のダメージにより、お母さんタブンネはほとんど抵抗ができません。
男の暴行は徐々にエスカレートしていき、そのうち「お前のそのポテ腹見るとあのクソ課長のこと思い出すわぁ!」「出世したからっていい気になりやがってっ!!」等と、タブンネとはまったく関係のない罵倒を浴びせはじめました。
その罵倒も、耳の良いタブンネにとってはとてもつらいものでした。
「チィーー!!チィチィチィ~~!!」
子タブンネは、目の前で母親がひどい暴行を受けていても、動くことができないのでやめてやめてと男に対して叫ぶことしかできません。
(最も、自由に動けたとしても状況はあまり変わらないと思いますが…)
そんな子タブンネに、お母さんタブンネの胸倉を掴んでいた男が目を向けました。
「んぁ?おめぇ俺に文句あんのかぁ?ええっ!?」
男はお母さんタブンネを突き放して子タブンネの方に足を進めます。
「チ…チィィ!チビィィャア!!」
子タブンネは慌てて逃げようとしますが、やはりベンチにしっかりとくっついていて、動くことができません。
気付いたお母さんタブンネは「ミィィ!」と男の足に縋り付いて必死に子供の元へは向かわせまいとしまが、男は「邪魔すんな!」とお母さんタブンネを蹴散らします。
「へぇ、かわいい肉球じゃねぇか…」
男は、子タブンネのハートの肉球を優しく撫ではじめました。その優しい動作に子タブンネはぷるぷると震えながらも困惑します。
肉球から手を放した男は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべてポケットからライターを取り出し、突然子
タブンネの肉球を炙りました。
「ヂビャァァァフィ!フィアアアアビィィィィィ!!」
恐らく生まれてから一度も経験したことのないであろう痛みに、子タブンネは身を捩じらせて大絶叫します。
「フィィィ!ピャアァァァァ!!」
どんなにもがいても、逃れることのできない痛み…子タブンネのハートの肉球は黒く変形し、肉汁がポタポタと染み出てきました。
「ミ…ミィィィーーーーー!!」 ドンッ
「おわっ!?」
子タブンネの肉球を炙り続ける男に、何とかボロボロの体に鞭打って立ち上がったお母さんタブンネがとっしんをしました。
不意の攻撃に男はライターを落としてよろけます。
夢中で子タブンネを助けたお母さんタブンネ。しかし、それが新たな災いを生んでしまいました。
「うぷっ……」
急に男の顔色が変わります。
ボロボロだったお母さんタブンネの攻撃は然程の威力はありませんでしたが、腹に命中したそれは、酔っぱらって暴れまくった男の吐き気を促すには十分すぎるものでした。
「ゲボォォ~~!!」
男は、ベンチにくっついた子タブンネの上に大量のゲロを吐き出しました。
「チ!?チャビィィィ!?」
「ミヒィィィ!?」
謎のヌルヌルした酸っぱい匂いのする液体を浴びせられた子タブンネは顔を顰めますが、それが焼けた肉球に染みて新たな痛みを作り出し、子タブンネは再び大絶叫します。
「ミィィィ!ミッミッ」
お母さんタブンネは、すぐに子タブンネの元へ駆け寄ってベトベトになってしまった体を丁寧に舌を使ってペロペロと舐めてあげました。
「いってぇなぁっ!」
「ビブィ!!」
でも、それも男によって制されてしまいます。
子タブンネを舐めてあげているお母さんタブンネの下顎を思い切り蹴り上げたのです。
自分の前歯がすべて舌に突き刺さり、お母さんタブンネの口からは血が噴き出します。
「ミブィビャア…!ミビィィィ!!」
「チィーーーーー!!」
その後も、お母さんタブンネをしばらく暴行した男は、そのうち気が済んだのか家路へと戻っていきました。
残されたのは、エグエグとしゃくりあげて泣くきれいなピンク色だった毛が気味の悪い色に染まり、異臭を発する小さなタブンネと全身痣だらけになり、大きな耳や触覚が千切れかけて口から血を流す成体タブンネでけだけでした。
「ミュ…ミュイ…フィ…」
お母さんタブンネはズルズルと子タブンネの元へ這いより、血だらけの舌でゲロまみれの子タブンネを舐めてやります。
「ミェ…ウェ…」
時折嘔吐きながらも、痛む舌で懸命に子タブンネのことを舐めてやっています。
子タブンネもそんな母親を「チィチィ」と気遣い、お母さんタブンネの舌を手でなでなでしてあげます。
「…ミィ♪」
お母さんタブンネの表情が少し綻びました。
お母さんタブンネは明け方まで子タブンネのことを舐めてゲロを落としてやり、ゴワゴワになってしまった毛並もしっかりと整えてあげて、焼け爛れた肉球にもいやしのはどうをしてあげました。
「チュィィ…」
しかし、ゲロの酸っぱい匂いまでは落ちなかったのか、子タブンネは自分の体の匂いをくんくん嗅いで涙目になります。
「ミィ、ミィミィ」
お母さんタブンネは、川で洗えばすぐに落ちるから大丈夫よと励まします。
そのうち、2匹は疲労と寝不足からか、ぐっすりと泥のように眠ってしまいました。
「おい見ろよ、これ」
「うわぁ~、ひどいなこりゃ…昨日きれいに塗ったばっかりなのにこんなに毛やゴミがくっついちゃってるよ」
「もうペンキが固まってるからうまくとれないぜ?どうする?」
「板を削ってもう一度塗りなおすしかないなぁ…」
お昼頃になって、お母さんタブンネはその話し声で目が覚めました。
「ミィ?」
見てみると、2人の男がベンチの前で何やら話し合っています。
「ミ、ミィィッ!!」
お母さんタブンネは慌ててベンチの前に立ち塞がります。今までさんざん人間にひどい目に遭わされてきたので、この男達も何か良からぬことをしようとしているのだろうと考えたようです。
「ん、何か変なのいるぞ」
「気にするな、板外して工場持ってくぞ」
男達は構わず作業を開始します。
「ミュイ!ミィミィミッ!!…ミィ?」
はじめは止めようとしていたお母さんタブンネでしたが、男達が子タブンネのくっついた部分の板を外しているのを見て動きを止めます。
そうか!この人達はタブンネのことを助けてくれるために来てくれたんだ! そうお母さんタブンネは思ったのです。
男達は、外した板を担いで運び出します。お母さんタブンネは「ミィミィ」と何度も頭を下げてお礼を言いながら後を着いていきます。(持ち前の再生力で歩けるまで回復した)
工場まで板を運び込んだ男達は、ある機械にその板をセットしました。
「ミィミィミッ♪」
きれいに剥がしてあげてね♪と機械をいじっている男に言うお母さんタブンネ。
男はまず、お母さんタブンネの毛が大量についている板をその機械にかけました。
激しい機械音が鳴り、瞬時に板の表面が薄く削られます。
「ミ……!?」
それを見たお母さんタブンネの表情が凍ります。
機械の正体…それは、電動鉋でした。
「ミィィ!!ミビィィィ!!」
事の重大さを理解したお母さんタブンネは機械を止めようと走ります。
「おい、勝手に入ってくんなよっ!」
しかし男が仕事の邪魔をしようとする者を許す筈もなく、手頃な角材でお母さんタブンネを滅多打ちにしました。
「ミヒィ!ミャア!ミアァ!」
子供の目の前で二度目の暴行を受ける羽目になったお母さんタブンネ、眠っていた子タブンネはその母親の悲鳴と機械音で目を覚ましました。
「チピィ…?」
起きたばかりで状況を把握できない子タブンネ、ですが自分の目の前の板が鉋にかけられていくのを見て、すぐに状況を察して狂ったように泣き叫んで暴れ出します。
「チュィーーーー!!チャア!チャアァァァ!!」
「ミィーー!!ミィーーミュィーーー!!」
お母さんタブンネは、男の足に縋り付いて必死に説得しようとします。
「さわるな!」
「ミビギャッ!!」
無情にもその顔に浴びせられたのは男の重い蹴りでした。
「チ!?チィィー!!」
もう一人の男が子タブンネのくっついた板を電動鉋にかけはじめました。
「チィ!チビィチィーー!!」
子タブンネは母親に助けを求めて手を伸ばします。
「ミィィィ!!ミヤァァァ!!」
当のお母さんタブンネは、男に馬乗りにされて身動きがとれません。
鉋の刃が子タブンネに迫ります。
「ヂィィヂビャチガャァァァァァァ………!!」
ヒラヒラと風に流されて、真っ赤な鉋屑がお母さんタブンネの元まで飛ばされてきました。
おわり
最終更新:2014年06月29日 14:13