虐待の記憶

飼っているタブンネがまた子供を産んだ。「また」というのは、前にも勝手に外で交尾をして子供を産んできたことがあったからだ。
その時しっかりとうちではタブンネは一匹しか飼えないんだぞ、と注意したんだがなぁ…

結局、その時産んだ子タブンネは俺の友人が引き取ってくれた。そして、今回産まれた子タブンネもその友人が引き取ってくれるということで話が付いた。

「ミィミィ、ミミィ!」
「チィチィ!」

しかし困ったことにタブンネがなかなか子タブンネを渡してくれない。
前にも子供を取られたからだろうか「こんどこそはぜったいに渡さない!この子は私が育てるんだもん!」とばかりに子タブンネを抱き締めて俺を睨み付けてくる。
子タブンネの方も「ママからはなれるのいやだよぅ!」とタブンネのぽってりした腹にキュッと縋り付いてとても離れそうもない。まったく、困った奴らだ…

そこで俺は友人に相談した。友人は策を考え、ゾロアークを俺に貸してくれた。
家に帰った俺はさっそくそれを実行した。
まずはタブンネに強力な睡眠薬入りの木の実をやって眠らせ、別の部屋に移す。
「ミクゥ……ミィィ……」
タブンネは口の周りに木の実のカスをつけてぐっすりと眠っている。これなら隕石でも落ちてこない限り当分は起きてくることはないだろう。

俺はゾロアークをボールから出し、眠っているタブンネに化けるように指示をした。
ゾロアークはすぐにタブンネに化けてみせた。さすがにそっくりだ、見分けがつかない。
そしてそのタブンネに化けたゾロアークを子タブンネの元へ向かわせ、対面させる。

「チィチィ♪」(あ、ママ!どこにいってたの?)

子タブンネは嬉しそうにゾロンネに駆け寄ってきた。どうやら本当のママと勘違いしてくれたようだ。

「チィ!チィチィ♪」(ママ、おなかしゅいたよぅ!おいちいおちちちょうらい♪)

ゾロンネに甘えた声を出して鳴く子タブンネ。
ゾロンネはニッコリと笑って子タブンネを抱き上げる。

「チィチ~ィ♪ チッ!?チピィィィ!!」 ドスッ

そしてそのまま子タブンネを壁にたたきつけた。俺はその様子をビデオで撮影する。

「チィ…チュィィ……」(うぅ…いたいよぅ…ママきゅうにどうちたの…?)

子タブンネはぶつけた箇所をさすりながら涙目でゾロンネに訴える。
そんな子タブンネを無視してゾロンネは子タブンネの尻尾に手をかける。

「チィ!チィチィィ!!」(いたいっ!ママやめてよぉ!しっぽをひっぱらないでよぅぅ!!)

ゾロンネは構わずギリギリと尻尾を引っ張り続ける。

ブチッ!
「ヂィィィイ!!」

あまりの痛みに尻を押さえて転がり回る子タブンネ。
そして、自分の尻尾が抜けてしまったことに気が付いて大きなショックを受けていた。

「チィィ…グスッ、チェェェン…」(わたちのだいじなだいじなしっぽが…グスッ…いつもかわいいねってママもいってくれたのになんでぇ…)



「ミッ?ミミィミッ、ミィ!?」(あれ…私はいままで何を…?あっ、ぼうやがたいへん!!)

自分の尻尾を両手で抱いてえぐえぐ泣く子タブンネを見て、ゾロンネは急に我に返ったような演技を始めた。

「チ、チィィ?チィチィ…」(ママ?いつものやさしいママにもどったの?)
「ミッミッ、ミィ!」(ああっ、ぼうやごめんね!いますぐママがいやしのはどうをしてあげるからね!)

子タブンネはホッとしたような顔をしてゾロンネに自分の千切れた尻尾を渡し、クイッと尻を突き出した。
いやしのはどうでくっつけてもらおうとしているらしい。
ゾロンネは両手を前にかざし、そこから子タブンネの大きさに合わせた小さな波動を放った。

「ヂピャァァァァアア!?」

ただしそれは、優しいいやしのはどうではなく、邪悪なあくのはどうだった。
子タブンネは吹っ飛ばされて床をゴロゴロとのた打ち回る。

「ヂィィ…ヂュピィ、チュピィィ……」(ママ…ひどいよぉ…わたちなんにもわるいことちてないのにぃ…)

ゾロンネはそんな子タブンネ尻尾をかえんほうしゃで燃やした。
子タブンネの小さな尻尾は一瞬で消し炭になった。

「チィヤアアアァァ!!」

痛みで動けない子タブンネは真っ黒になり、ボロボロと崩れ落ちていく尻尾を泣きながら眺めているしかなかった。

その後もゾロンネの子タブンネ虐待は一日中続いた。


「ミィ~ィ…」

翌朝、タブンネのあくびがきこえた。やっと起きたようだ。

「ミッ、ミィ、ミィィ!」(あぁっ、ずい分長い間寝ちゃった!ぼうやお腹すかしてるだろうなぁ)

タブンネはすぐに子タブンネの元へ向かった。しかしそこでタブンネが目にしたのは、尻尾を無くし、全身痣だらけになって部屋の隅でプルプル震えている子タブンネだった…

「ミィィイイ!?」

そのあまりにひどい姿に悲鳴をあげるタブンネ、子タブンネはタブンネを見ると、より一層怯えだした。

「ミィミィィィ!?ミッミッ!!」(どうしたのぼうや!?一体何があったの!?)

ボロボロの子タブンネに駆け寄り、抱き上げてやろうとするタブンネ。
しかし子タブンネは「ヂィィッ!!」とその手を払い除けてタブンネから逃げ出す。

「ミッミッ!」(ぼうや、どうしたの?ママだよ?)
「ヂィィーー!チギィーー!!」(いやーーっこないでぇ!こっちこないでぇ!!)

子タブンネは激しくタブンネを拒絶して逃げ回る。

「ミミィ、ミィィ?」(どうしちゃったのぼうや…ホラ、いやしのはどうしてあげるよ?)

タブンネが子タブンネに向けて両手を前にかざすと、子タブンネはさらに大声で泣き叫び、失禁までした。
眠りから目を覚ましてみれば、いつも「チィチィ」と甘えてきていた我が子からの拒絶…
タブンネは訳が分からないという顔をしている。


「タブンネッ!」ドスッ
「ミヒィッ!!」

俺はそんなタブンネを怒鳴りつけて腹を思い切り殴った。
ゲホゲホと苦しそうに腹を押さえて涙目になるタブンネ。

「お前昨日自分が子供に対して何をしたのか忘れたのかっ!?」
「……ミィ?」

やはりタブンネはまだ訳が分からない様子だったので俺は「とぼけるな、これを見ろ!」と昨日撮影したビデオを見せてやった。

「ミィィィ!?」

タブンネが驚くのも無理はない、そこに映っているのは子タブンネを虐待する自分の姿なのだから…

「まったく、よく自分の子供にあんなひどいことができるよな…」
「ミッミッ!ミィィッ!ミィィッ!」

全く記憶のない虐待にタブンネは必死にフルフルと首を振って否定する。

「まだとぼけるのか!?ここに映ってるのは間違いなくお前だろっ!?」ガッ
「ミィ、ミィアィ!ミヤァァ!!」

俺はタブンネの頭を掴んで画面に押し付ける。タブンネは目をつぶって首を振り、否定を続ける。

「じゃあ何で子タブンネはあんなに怯えてるんだ!? お前は何でもすぐに忘れるよな、昔っからそうだ!
食い物を食べ散らかすなと言っても食い散らす!トイレの場所を教えても辺りかまわず垂れ流す!
一匹しか飼えないと言っても勝手に子供を産んでくる!挙句その子供を虐待したことまで忘れるのかっ!?そんな奴に母親の資格なんてないっ!!」

「ミェェェェェーーン!!」

タブンネは泣き崩れた。


翌日、俺は友人に子タブンネを渡した。
母親にひどい虐待をされたこともあり、子タブンネはタブンネから離されても何の抵抗もなかった。
タブンネも、自分には母親の資格がないことを理解したようで、友人に優しく抱かれる子タブンネを虚ろな目をして見詰めているだけだった。
当然俺がこっそりゾロアークの入ったボールも渡したことには気付かなかった。

あれ以来もうタブンネは子供を産んでくることはなくなった。それ以前に部屋に引き籠るようになっていた。

一か月後、俺は友人に子タブンネはどうしたのか訊いた。

「ああ、うちのボーマンダの餌にしたよ、あいつ前に子タブンネ食って以来大好物になってたからな」

大好きだった母親に虐待を受け、やっと解放されたと思ったら餌にされた子タブンネはさぞかし良い味を出しただろうな、と思っていると家の中からタブンネの悲鳴がきこえた。
そういえばあいつ耳が良かったっけ、まぁどのみち母親の資格をなくしたあいつには関係のない話だがな。


おわり
最終更新:2014年06月29日 14:15