タブンネを拾いました

俺の家の近所には小さな公園がある。
ある日公園の前を通りかかると、フェンスにタブンネが繋がれていた。
繋がれたまま、フェンスに寄りかかってじっとしている。
その時の俺は「子供がタブンネを散歩に連れていったついでに公園で遊んでいるのかな」程度に考え、そのまま素通りしてしまった。
次の日俺は朝早く出かけたのだが、公園の前を通るとタブンネがまだ同じ場所に繋がれているのが見えた。
おかしいなと思ったが、急ぐ用事なので構っても居られない。
夕方になってもまだいるようなら帰りに何とかしてやろうと思い、俺は走って通り過ぎた。

あたりがすっかり暗くなった頃、俺は自宅への道を歩いていた。
公園の前まで来ると、案の定タブンネはまだそこに座っていた。
いくらなんでもこれはおかしいと思い、そっとタブンネに近づいてみる。
側まで近寄ると、タブンネは俺に気づいてゆっくりと俺の顔を見上げた。
その顔を見てぎょっとする。
タブンネの顔はところどころ痣だらけ、口や鼻の周りには血のようなものがこびり付いている。
ピンクと黄色のふわふわの毛並みは所々擦り切れ、血が滲んでいる。右の触覚は付け根から赤黒く変色していた。俺は医者ではないのでよく解らないが、多分壊死しているだろう。
「お前、どうしたんだ・・・その怪我」
うろたえながら声をかけたが、タブンネは人形のように動かなかった。
これはただごとではない。医者に連れて行ってやらなくては。
そう思ったが、この時間既に病院は閉まっている。俺はとりあえずこのタブンネを家に連れ帰り看病してやることにした。
首輪に付いているチェーンをはずしてやる。
「俺の家がすぐ近くだから来るといい。歩けるか?」
そう問いかけたが、タブンネの反応は全くなかった。ぐったりとフェンスに寄りかかったままだ。
埒が明かないので、打き抱えて家まで運んでやることにする。
抱き上げた途端、それまで動かなかったタブンネが急にガタガタと震えだしたのが、俺の不安感を煽った。

タブンネを抱えて家に入った俺は、居間に新聞紙を敷いて足や尻が土まみれのタブンネをとりあえずそこに座らせてやった。
タブンネはまるで俺が見えていないかのようにガタガタと震えている。どうしたものか・・・
ポケモンを飼ったことなど今まで無かったのでフードなど勿論無いが、牛乳なら飲んでくれるだろう。
そう思い、俺は温かい牛乳の用意をするため台所に行く。ついでにサバ缶も開けてやろう。食うかな?
牛乳とサバを電子レンジで温め、居間に持って行くと、タブンネはいつの間にか部屋の隅に移動して小さくなって震えていた。
声をかけたり触ろうとしたりするとヒステリックな声を上げ、痙攣しているのかと思うほどガクガクと震える。
本当に、このタブンネは公園に捨てられる前はどんな仕打ちに合っていたのだろうか・・・
俺は何とかタブンネに信用してもらおうと、牛乳を見せたり頭を撫でたりといろいろ試してみたが、タブンネは一切動こうとしない。
もう夜も遅く疲れきっていた俺は、すっかり冷えてしまった牛乳とサバをタブンネの近くに置き、毛布を一枚かけてやってから自分の布団に入った。
俺が近くにいなければ何か口にするかもしれん。
そう思いながら、俺は眼を閉じる。隣の部屋から何か聞こえないかとじっと耳をすませていたが、気がつくといつのまにか朝になっていた。
最終更新:2014年07月07日 23:43