たぶおどし

「チビッ!」   「フィッ!」  「チィィ!」

数分置きに庭の方からきこえてくる子タブンネの短い悲鳴…
これはうちのししおどしの音だ。

俺は家の庭でオレンやオボンの木を何本か育てていて、それらを盗みに来る害獣対策のために作ったものだ。
しかしうちのししおどしは他の物とは少し違うところがある。
一般的なししおどしの石が置いてある部分が首だけを出して埋められている子タブンネになっているのだ。

よって、竹筒に溜まった水が吐き出される度に子タブンネの頭はポカリとその竹筒にたたかれ、
「チビッ!」と短い悲鳴があがるという訳だ。


この子タブンネは、数日前に木の実を盗みに来たタブンネが連れていた子供で、
取っ捕まえてやろうとしたが親のタブンネには逃げられて、逃げ遅れた子タブンネは捕まえられたのでこうして役に立ってもらっている。

ししおどしを作って以来木の実を盗まれる被害は大分減った。
音(悲鳴)で害獣を驚かせるだけでなく、木の実を盗むとこうなるという見せしめとしての効果もあったようだ。

「フィィ…フィィ…」
しかしその分子タブンネもかなり衰弱している。
ちゃんと餌(主に出来損ないの木の実等)はやっているが、ししおどしは一日中動かしているので無理はない。
毎日毎日頭を固い竹でたたかれ続ける子タブンネはほとんどまともに睡眠もとれないのだろう。
よく見ると、コブだらけの頭も薄く禿げてきている。

そんなある日「ミィーー!ミィィ!!」「チィー!チィチィ~!」と庭が騒がしい。
出て行ってみると、一匹のタブンネがししおどしの前でミィミィ鳴いていた。
そして子タブンネの方もそのタブンネに向かって鳴いている。

…おかしいな、普通のタブンネなら音(悲鳴)に驚いてすぐに逃げ出す筈なんだが…と最初思ったがすぐにわかった。
あのタブンネはこの前逃がした子タブンネの親だ。
その証拠にタブンネは子タブンネを助けるために短い手で穴を掘りだした。

このままではせっかく作ったししおどしが壊されてしまう…
俺はししおどしを作るのに使った竹と鋸を持って、必死に子タブンネの体を掘り出そうとしているタブンネの背後に近付いた。
タブンネは耳が良い筈だが、子タブンネを助けるのに意識が集中しているせいか気付かれることはなかった。

「そりゃっ!」

俺はタブンネの無防備な頭目掛けて竹を振り下ろした。

「ミヒィィィ!!」 「チィィィ!?」

頭を押さえて地面に倒れ込むタブンネ、親に助けてもらえると思っていた子タブンネはいきなり登場した俺を見て驚きの声をあげた。
俺は容赦なく倒れているタブンネの全身を竹で滅多打ちにする。
「ミビャア!!ウビィ!!ミィィ!!」 「チィィ!?チィィ!!」
子タブンネは「ママをいじめないで!」とばかりに鳴くが俺の耳には入らない。
タブンネがほとんど動けなくなるまで殴ったら、満身創痍のタブンネに馬乗りになり、首に鋸を当てる。

「ミィ……ミィィ……ミヤァ……!」
俺が何をしようとしているのか気付いたタブンネは目に涙を浮かべてやめるように懇願する。
子タブンネも、唯一動かせる首を必死に振りながら「ママを助けて!」と泣き叫ぶが知ったこっちゃない。
俺は鋸を思い切り引いた。

「ウビィィィィィーーーーー!!」 「チィィィィ!!」

タブンネの首に鋸が入り込み、噴き出した血が俺の服を染める。
絶叫を上げ、何とか逃れようと弱った体をグニグニ捩るタブンネ、俺は鋸をもう一度引いた。

「ミギぃぃィイイィィ!!」 「チヤァァァァ!!」

子タブンネも鋸が引かれる度に悲鳴をあげる。

その後、半分程切ったらタブンネは絶命した。その顔はこの世の物とは思えない程苦痛に歪んでいた。
ししおどしに目をやると、子タブンネはショックで気絶していた。

俺は子タブンネが気絶している間にタブンネの首を胴からブチリと千切り取り、その首に管を通して水道に繋ぎ、口から水が出るように改造した。
それをししおどしの前にセットしたら完成だ。
さっそく蛇口をひねってみると、管を通ってタブンネ(首)の口からチョロチョロと水が出てきた!
タブンネの口から出た水でししおどしは動きだし、「チュピ…」と子タブンネは目を覚ました。

「フィァァアアアアアァァァッ!?」

直後子タブンネは大絶叫、助けに来た親が首だけになってしかも不気味に口から水を出していれば当然の反応か。

「チィィ~~」
子タブンネは涙腺が崩壊したんじゃないかと思う程涙を流して泣き出した。親の死を悟ったのだろう。
子タブンネが流した涙で地面の色が変わっていく。
「チィィ…チべッ!…グスッ…ヂィ!…チェェ…チビッ!…」
ししおどしが動いているので子タブンネの泣き声と悲鳴が交互にきこえる。
子タブンネは一体どういう気分だろうな、自分に苦痛を与えるししおどしが動く原因となっている水を出しているのが自分の親だなんて…
最も今はそれどころではないようだが…


このタブンネの首が新しく加わったししおどしなら前以上の効果を見せてくれるだろうと期待したが、
結局この暑さのせいでタブンネの首は一週間と持たなかった。子タブンネの方も、毎日親の首がドロドロに腐っていく様子を見せられたからか、それから三日後に死んでしまった。
目には涙が乾いてカピカピになった目くそが大量にこびり付き、鼻もひどい腐臭に耐えかねて何度も地面に擦り付けたのか皮が捲れて組織が半分見えているというこれまたすごい死に顔だった。

そこまでなら別に良かったのだが、タブンネ親子の死臭を嗅ぎつけてか、この辺ではあまり見かけなかった肉食ポケモンや大型の鳥ポケモンがうちの庭に来るようになってしまい、木の実を狙う害獣どころではなくなってしまった。



おわり
最終更新:2014年07月14日 21:56