公園で二人の子供がアイスを食べてると、子タブンネが目の前に現れました
お腹が減っているらしく、指をしゃぶりながら二人の持ってるアイスをじっと見ています
「ねぇねぇ、このアイス分けてあげない?」
「まだちっちゃいからお腹壊しちゃうからだめだよ、それにタブンネって何食べるのかわかんないよ」
結局二人はアイスを全部食べ終わると、棒をゴミ箱にほおり投げます
しかしそのうちの一本が外れて、地面に落ちてしまいました
そこに子タブンネがとてとてと小走りで駆け寄り、アイスの棒を拾いました
アイスががちょびっとだけしみ込んでほんのり甘い味がするアイスの棒を
子タブンネは美味しそうにかじかじくちゃくちゃと噛んでいます
子供たちはタブンネが可哀想に思い、話し合って明日ご飯を持ってきてあげようと決めました
「タブンネちゃん、明日タブンネちゃんが好きな物を持ってきてあげるからここで待っててね」
「ミィ!」
子タブンネは両手をあげてにっこりと笑いました、人間の言葉が分かるのでしょうか
翌日、子タブンネは子供たちから大量のオガクズをプレゼントされましたとさ
公園に住んでるみなし子タブンネ、公園に捨てられたお菓子や弁当の食べカスで飢えをしのいでいます
しかしその量は十分とはいえず、子タブンネは生まれてから一度もお腹が一杯になった事がありませんでした
昨日もコンビニ弁当の箱に残っていたわずかな乾きかけのごはん粒しか食べられませんでした
何かないかと公園をうろついていると、かすかに美味しそうな匂いが
「ミィ!」
子タブンネが見つけたのはブルンゲルス(ポテトチップス)の筒でした
奥の方を覗いてみると、まだ何枚か残ってます
子タブンネは筒の中に手をのばしますが、到底届きそうにありません
コロコロ転がしてみても、カラカラと音が鳴るばかりで中身は出てきませんでした
「ミッミッ!」
食べ物がすぐそこにあるというのに、諦めるわけがありません
子タブンネはポテチの筒に頭から入っていきます
「ミフーッ!ミフーッ!ミィッ??」
筒の中は暗く息苦しく、塩が目にしみましたがタブンネは気にせず入っていきます
が、腰が引っ掛かって止まってしまいました、どうしてもこれ以上は進めそうにありません
「ミッ、ミィー!フィィ!フィィ!」
それどころか筒が抜けなくなってしまいました
そして筒から足だけ出して走り回る子タブンネ、とっても滑稽な姿ですね
「フィィィ!フィッフィッ!フィッ!?」
水たまりで滑って転んでしまいました
水たまりの中で筒はふやけていき、タブンネは筒を破って何とか脱出することができました
「ミッ・・・ ミィ?」
タブンネが筒が破れている事に気づき、中を確認しますがチップスは無くなっていました
破れた時に泥んこの水たまりに落ちたのです
「ミッミッミッ・・・」
子タブンネは水たまりの中でパチャパチャとチップスを探し続けます
結局その日は、日が沈むまでチップスを探し続けました
でもいくら探しても見つかるわけはありません、チップスは水に溶けてしまったのですから・・・w
公園で暮らすみなし子タブンネ、毎日お腹を空かしています
夏の暑い日、子タブンネは公園にある池に行き、水でお腹を膨らます事にしました
すると普段は人気のない池に人が居て、なにやら手をパンパンとたたいているではありませんか
「ミィ?」
タブンネが水面を覗いてみると何やら赤い影が動いているのがわかります
それはコイキングでした、コイキング達は手を叩いてる人間の所へ集まってきました
そして何やら、人間が黄色い粒をばらまいて、コイキング達が口をパクパクさせてそれを食べています
「ミィィ…」
子タブンネはよだれを垂らしながらそれをじっと見ていました
(ぼくもいけにいたら、ごはんをもらえるかも)
タブンネはそんな事を考え、池に入りました
「ミッアプミッアプ」
そして手を鳴らしている人間の所に泳いでいきコイキングに混ざって水面で口をパクパクさせています
「な、なんだ、タブンネが混ざってるぞ・・?」
人間は困惑しつつも、ばらっと餌をばら撒きます
「ミッミッ!ゴボボボ、ミィ~!」
しかし餌はタブンネの口に入る前に、泳ぎの得意なコイキングに食べられてしまいます
その後人間は何回かパラ撒きましたが、タブンネは一個も餌を食べる事ができませんでした
「ミッ…ミグッ・・・ヒグッ・・・」
子タブンネは悔しくて、とうとうべそをかいてしまいます
「う~ん、あの子一個も食べれてないなあ、これならどうだ」
人間は紙袋の中の餌を全部ぶちまけました、兄もとの水面が餌の粒で覆われます
「ミィィ!」
タブンネは必死に餌を拾い集め、一個目を口に入れようとしたその時
グオオオオと池中のコイキングがすごいスピードで集まって来たのです
(参考動画)ttp://www.youtube.com/watch?v=0x97y5BVnu8&feature=related
子タブンネの周りは、コイキングでぎゅうぎゅうになりました
「ミフッ!ギュイッ!キューッ!フガフガ・・・」
これではもう餌を食べるどころではありません、
子タブンネはコイキングに押しつぶされそうになり、息をするのがやっとでした
なんとか陸に上がり、人間の足元辿り着き、ハアハア息を切らしてます
「ごめんなあ、まさかあんな事にあるとは…」
「ミィィ」
子タブンネは男の持っている餌の紙袋を無意識のうちに見つめてました
「あ・・・欲しいか?エサ、でももう無くなっちゃったんだよ」
「ヒグッ… エグッ…」
タブンネはめそめそと泣きだしてしまいました
あんまり可哀想なので男はもうひと袋餌を買い、袋ごと子タブンネに渡して帰りました
「ミィ!ミィ!」
子タブンネは嬉しそうに手を振って男を見送ります
しかしこの餌はとても硬く、水でふやかさないと子タブンネには食べられそうにありません
子タブンネは池の水でふやかそうと考えました、が、この池に餌を入れるという事は・・・
翌日、子供たちの間で「公園で泣きながらコイキングに餌をあげる子タブンネを見た」という話題があったようです
まいどおなじみ公園で暮らすみなし子タブンネ
今日もお腹はペコペコです。
お菓子の袋やコンビニ弁当のカラを探しますが、今日はなかなか見つかりません
クリーンアップ大会があって、人間達がゴミをみんな持って行ってしまったのです
お腹がすきすぎて夜になっても眠れず、子タブンネが当てもなく公園をうろうろしていると
「ウゲッドボオゲェェェ!」ビタッビタッ
という気持ちの悪い音が聞こえてきました
飲み過ぎて公園で休んでいたサラリーマンが嘔吐したのです
「ミィ?」
子タブンネはおそるおそる近づいてみると、ベンチに寝ている人間と、何やらドロドロした物が地面に落ちています
ドロドロした物に恐る恐る近づいてみると、なにやらごはん粒や枝豆の欠片、トウモロコシの粒などが混ざってます
「ミッミィィ・・・」
かなり酸っぱい嫌なにおいがしましたが、お腹がペコペコな子タブンネはそんな事は気にしません
ちっちゃな手で固形の部分をきゅっと掴んでペチャぺチャと美味しそうに食べています
「ん… んあ?」
「ミlヒッ!?」
ベンチで寝てた男が目を覚ましまして、子タブンネと目が合ってしまいました
一瞬ビクッとして硬直する子タブンネ、もしかしたら怒られるのではと思って心臓がドキドキしてます
「おいおい、きたねぇなぁ~、そんなもん食うんじゃねえぇよ」
男は持っていたオリから稲荷ずしを一つ取り出すと、地面にポイッとほおり投げ、
そのままふらふらと何処かへ去って行ってしまいました
「ミッ?ミィィ!ミィィ!」
子タブンネはお稲荷さんに飛びつきました。
甘く味付けされた油揚げと塊のツヤツヤごはん、子タブンネにとっては未知のごちそうです
稲荷ずしを食べてる間、子タブンネは天にも上る心地でした
そしてそれを食べ終わった時、子タブンネは生まれて初めて「満腹」という心地を知りました
次の日、タブンネが公園で餌を探していると、昨日の男が現れました
「ミッミッ!」
子タブンネは昨日のお礼をしようとアイスのコーンの尻尾(子タブンネにとってはごちそう)
を持って、駆け寄りましたが、男はちょっと嫌な顔をして逃げて行ってしまいましたとさ
公園に住むみなし子タブンネ、毎日お腹がペコペコです
子タブンネが剥がすのに大失敗したコンビニおにぎりの包装を見つけて、
中にある海苔の切れ端を何とか取り出そうとがんばっていると
「チィィ…チィィ…」
と、何かのか弱い聞こえてきました
子タブンネが海苔を片手に見に行ってみると、小さな段ボール箱が
箱を開けてみると、うんちで汚れたボロきれと、小さな小さな生まれたてのタブンネが入っていました
まだ目も開いてないようです
そのタブンネの赤ちゃんは両耳がくしゃくしゃで、触覚もグネグネのいびつな形をしていました
つまりは、奇形です。きっとそのせいで捨てられたのでしょう
「ミィィ!」
子タブンネは驚きました、そしてうんちまみれの赤ちゃんタブンネを不憫に思いました
そして両腕をいっぱい使って赤ちゃんタブンネを抱きかかえて、どこかに連れて行きます
行先はあのコイキングのたくさんいる池でした
子タブンネは池の水を蓮の葉で掬い
赤ちゃんタブンネに水をかけて葉っぱでふきふきして綺麗にしてあげます
「チィィ!チィィ!」
綺麗にしてあげても、赤ちゃんタブンネは泣きやむ事はありません
子タブンネはとりあえず茂みにある自分の小さな巣に連れ帰りました
そして赤ちゃんを寝かせると、胸に自分の触覚を当てて心の声を読んでみる事にしました
(オナカガスイタヨウ、オナカガスイタヨウ、オカアサン、オカアサン…)
「ミィ…」
お腹が空いたと言われても、さっきの海苔は道中に食べてしまいました
子タブンネは必死に食べ物を探します、公園中を駆け回り
遂にはいつもなら絶対に入らないゴミ箱の中によじ登って入って
決死の大冒険&大脱出の末に弁当の空き箱を見つける事ができました
家に戻った子タブンネは指先にごはん粒をたくさんくっつけて赤ちゃんにそれをしゃぶらせます
赤ちゃんはちゅぱちゅぱと綺麗にそれを嘗め取りました、しかし、ペッとごはん粒を吐き出してしまいました
「ミッ、ミィィ!」
自分もお腹がすいてるのにこんな事をされてはさすがのタブンネもムッとしました
が、気を取り直してまた赤ちゃんの胸に耳を当ててみます
(オチチホシイヨウ、オチチホシイヨウ、オカアサン、オカアサン、ドコ…)
「ミィィ…」
もちろんお乳など用意できる筈もありません、子タブンネは困り果ててしまいました
考えた挙句、子タブンネは赤ちゃんを箱に戻し、人通りの多い目立つ所に置いてやる事にしました
子タブンネは寝床で寝そべって赤ちゃんが噴き出したごはん粒をつまみながら祈りました
どうかいい人に貰われますように、だれか赤ちゃんを助けてくれますようにと
しかし現実は非情でした、
翌朝、箱を見に行ってみると鳴き声が聞こえなくなっていました
貰われていったのではありません、赤ちゃんタブンネが鳴くのを止めていたのです
茹でたエビのように丸まって、硬くまぶたを閉じて
どうしたものかと思い子タブンネは触角を胸に当ててみました
しかし、そこからは何も伝わってきません、ひんやりとした不気味な冷たさ以外は
「ミッ・・・ミィィィィィ!!!!」
子タブンネはその場から逃げ出して巣にもどり寝そべってブルブルと震えていました
赤ちゃんタブンネが死んだ、たった一日で、何も食べなかったせいで
誰かが捨てたから?誰も拾ってくれなかったから?それとも、ぼくが何もできなかったから?
子タブンネの心はこんがらがっていました、自分もいつかああなるかもしれない・・・
その日は恐怖に震えたまま一日中巣の中で過ごしました
翌日、赤ちゃんタブンネは変わらない姿で箱の中で眠っていました
タブンネは箱ごと赤ちゃんを引きずっていき、
冷たくなった赤ちゃんを抱き抱えると、蓮の花が一面に咲きわたる池の中に浮かべてあげました
そこは公園の中とは思えない程幻想的で綺麗な場所で、赤ちゃんが眠るには最高の場所だと
子タブンネなりに考えたのでしょう
「ミィィ」
小さく手を振ってさよならをする子タブンネ、静けさのなかでいい所にいくであろう赤ちゃんを見守っています
しかし、その静けさは死臭を嗅ぎつけたコイキングが押し寄せてきて台無しになってしまいましたとさ
公園で暮らす腹ペコみなし子タブンネちゃん
タブンネちゃんの暮らす公園にはたまにジェラートの屋台がやってきます
なかなか美味しくてけっこう繁盛しています。子タブンネちゃんもそれが大好きでした
もっとも、子タブンネが食べられるのは捨てられたコーンの部分や
これまた捨てられたカップに少しだけこびりついた溶けたジェラートでしたが
ベンチの下で熱いお日様から逃れてポイ捨てされるのを今か今かと待ちわびる子タブンネ
しかし今日に限ってはポイ捨てがぜんぜんありません
なぜかというと、ジェラートの屋台の前に「ポイ捨て禁止」の看板が
もっとも、字が読めない子タブンネには知る由もありませんが
「フィィ・・・」
待てども待てどもポイ捨てが無く、しょんぼりな子タブンネ
ベンチ下から出て辺りを見回してみると、
人間達が子タブンネの大好きなコーンやカップをプラスチックのゴミ箱に入れていくではありませんか
「ミィィ!」
子タブンネは一目散に駆け寄ります、箱の中から甘い香りがぷうんと漂ってきます
上って中に入って取ろうとしても、プラスチックの壁はつるつるで登れそうにありません
「ミッ!」
子タブンネの目の前でまたひとつアイスのコーンがゴミ箱へ捨てられました
「ミッミィィ、ミィ!」
子タブンネはゴミ箱に文句を言います、ゴミ箱が答えられるはずはありませんが
(どうすればぼくもごちそうをもらえるんだろう・・・このこはただ口を開けてるだけなのに)
いろいろ考えた結果、子タブンネはゴミ箱の真似をすることにしました
「ミワァ~~」
まっすぐ立って上を向いて、大きく口を開けてアイスを投げ入れられるのを待ちます
「ふぅ~、おいしか… な、何コレ?」
女の子がアイスを捨てようとすると、子タブンネちゃんと目が合ってしまいました
「ハガッ!ハガッ!」
ちっちゃな指で大きく開けた自分の口を指さしています、ここに入れてくれと伝えてるのでしょう
「こ、ここに捨てればいいの・・・?」
女の子はコーンの部分を、子タブンネの口に突っ込みます
「フゥッフゥッ!フィイ~♪」
そのまま一気コーンをバリバリと食べる子タブンネ、女の子はプッと噴き出してしまいました
「ふふふ、お腹がすいてたのね」
女の子はちょっと幸せそうな顔で去って行きました
「ミッミィミィ~♪」
子タブンネは食べ終わると、女の子の姿が見えなくなるまで手を振り続けました
「ミアガッ!」
見えなくなったら、さっそく次を狙います、しかし次に飛び込んできたのは、火のついたタバコでした
ジュッ「ミッミグァゴエッ!」
すごく熱いわ変な煙はでてるは熱いわで最悪でした。子タブンネは慌てて口から吐き出します
「ん・・・なんだ? …ああっ!ご、ごめんなぁ~」
煙草を投げたサラリーマン風の男が駆け寄ってきました
「ん、おっお前はゲロのタブンネ!」
その男はあの子タブンネにゲロと稲荷ずしをご馳走してくれたあの男でした
「ミヒェ~ン!ミビィィィィ~!」
子タブンネは熱さとびっくりしたのとで泣きやみません
「ど、どうしよう・・・ そうだ!」
男は屋台でジェラートの一番小さいの(カプリコぐらいの大きさ)を買うと、子タブンネの眼前にさしだしました
「ほら、これやるから泣きやめよ」
「ミェェ~・・・ミィ?」
目の前に刺し出されたジェラート、子タブンネきょとんとしたままは両手で受け取ります
「ほら、食べていいんだぞ」
「ミィィ!」
子タブンネは大喜びでジェラートにかぶりつきました
今まで食べた事の無いような冷たくてとろける甘みが口の中一杯に広がっていきます
「ははは、うまいかうまいか」
子タブンネは夢中でジェラートを舐め続け、コーンまで一気に食べつくしました
食べ終わってお礼をしようと見回してみても、すでにその男は立ち去っていました
「ミィィ…」
子タブンネは少し残念そう、この子タブンネはかなり義理がたい性格のようです
しかし一番小さなジェラートといっても子タブンネには大きすぎたようで
その日は一晩中寒気と腹痛に苦しみましたとさ
賛否両論公園で暮らすみなし子タブンネちゃん。今はお腹がペコペコどころじゃありません
全然足りない上に偏っている栄養と、孤独なホームレス暮らし
それらは幼い子タブンネの身体をじわじわと蝕んでいました
子タブンネはある日をさかいに、身体を動かすのがおっくうになっていきました
少し歩いただけで疲れてしまいご飯を探すどころではありません
巣の周りにある茂みのわずかな朝露を集めてちびちびとすするのみがその日の食事でした
「ムィィ…」
もちろん猛烈に腹は減りますが、どうしても身体が動かないのです
3、4日もそんな暮らしが続くと、とうとう寝床から起き上がれなくなってしまいました
「フィー…」
自分の心臓の音がいつもより強く聞こえました。それだけではありません
いつもなら気にも留めなかった風が吹く音、葉っぱがこすれあう音、地面から伝わってくる遠くからの足音
全ての音が大きく聞こえてきます。まるで世界が透明になっていくように
子タブンネは自分が生まれてきて、今まで何をしてきたかを思いだしていました
公園でいろんな物を拾った事、コイキングに餌をとられて悔しかった事、何度も餌をくれた優しいお兄さん
硬い餌をくれたおじさん、どういうわけかオガクズを大量にくれた人間の子供
そして思いだすと悲しくなるからと、心の奥底に閉じ込めておいた思い出が鮮明に蘇ります
お母さんタブンネが傍にいてに居て、一緒に餌を探した事、一緒に眠ると温かかった事
ふわふわで柔らかいお腹、優しくてきれいな声、温かい眼差し
公園の外から聞こえてきた車のブレーキの音、オカアサンの大きな声、そして帰ってこなかったオカアサン
つらい記憶を思い出してしまっても、不思議と悲しくはありませんでした。
なぜかこれから、自分はオカアサンがいる所へ行けると思えたからです
「フィィ… フィ・・? ピィィ!」
しかしその感覚は、正体不明の大きな恐怖にかき消されました
子タブンネの巣の上でふわふわと漂う紫の炎、正体はランプラーです
魂を食らうポケモンで、死にゆく者にとってはこれ以上恐ろしい物はありません
「ミィ!ミィッ!ミィイイーー!!!」
子タブンネの魂は既に滅んだ肉体から離れ、ランプラーに引き寄せられていきます
何の抵抗もできません、このまま永遠に、業火で焼かれ続ける…
子タブンネは誰にも聞こえない叫び声をあげました、その時です
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
何か青くて、巨大で、ゴツゴツしてて長い物がランプラーに食らいつきました
ギャラドスです、池に棲むコイキングの一匹が進化したのです
噛みついたまま大きな口で噛み砕き、ペッと吐き出しました
ランプラーはそれでもまだ動けるようで、一目散に逃げて行きます
魂だけになったタブンネにはギャラドスの気持ちがよくわかります
「イッショニオヨイデ タマニゴハンモクレル オトモダチ イキテルウチニ タスケラレナクテ ゴメンネ」
子タブンネは自分がコイキングを毛嫌いしていたのを恥ずかしく思いました
子タブンネとギャラドスは一緒に夜空を飛びました
満点の星空の中で、子タブンネは自分が行くべき場所が分かる気がしました
ギャラドスが気がつくと、いつの間にか子タブンネは居なくなっていました
翌日、ギャラドスは子タブンネの亡骸を池に沈め、コイキング達に魚葬させました
次の年、夏になると公園の池には綺麗なピンク色の蓮の花が一面に咲きわたっていましたとさ
辛口エンド おしまい
賛否両論公園で暮らすみなし子タブンネちゃん。今はお腹がペコペコどころじゃありません
全然足りない上に偏っている栄養と、孤独なホームレス暮らし
それらは幼い子タブンネの身体をじわじわと蝕んでいました
子タブンネはある日をさかいに、身体を動かすのがおっくうになっていきました
少し歩いただけで疲れてしまいご飯を探すどころではありません
巣の周りにある茂みのわずかな朝露を集めてちびちびとすするのみがその日の食事でした
子タブンネは真夜中に眼が覚めます、あまりにもお腹がすきすぎていたのです
何とか食べる物を見つけようと這いつくばって外に出てみると
なにやら覚えのある酸っぱい臭いが漂ってきます。あの青年の吐いたゲロでした
「う、うう~ またやっちまったあ~~。オエッ」
前にあった通りだらしなくベンチにねっころがっています
「ミ゙ィィ~… ミ゙ィィ~…」
子タブンネは地面にぶちまけられたゲロにずりずりと這い寄っていきます
おなかが擦れて身を焼かれるような痛みですが、それでもアレを食べたかったのです
「ミィィ…」
やっとの思いで辿り着くと、ゲロを小さな舌でペロペロと嘗めています
もう物を噛む力も残っていなかったのでしょう
「あ゙~あ゙~・・・ あん?」
男は自分のゲロを何かが嘗めている事に気がつきます
それがあの子タブンネであると気付くのに時間はかかりませんでした
子タブンネは気付かれたのもわからずに弱々しくゲロを舐め続けています
「おうおう、そんな俺の・・・ん?」
男がタブンネの様子がいつもと違う事に気がつきます
けづやが無くなって耳も垂れさがっており、目もしょぼしょぼしていて一目で体調不良だと分かる有様でした
(ひょっとして、この前ジェラートなんぞ食わしたから腹でも下したんじゃあるまいな)
「ミ、ミイイ…」
男はすっくと立ち上がると、子タブンネの首の後ろをひょいとつまんでふらふらと何処かへ行ってしまいました
翌朝、男が目が覚めるとそこは自宅ではありませんでした
2段ベッドがいくつも並んでいる大部屋で、大勢の少年たちが眠っています
訳もわからぬまま外に出てみると、そこはポケモンセンターの宿泊施設のようでした
「あ、お目覚めですか?タブンネちゃんは元気になりましたよ」
「は、は、はあ?」
ジョーイさんの話はこうだ、男が酔っぱらったまま子タブンネを持ってきて、その場で寝てしまった
タブンネを診察したら重度の栄養失調だったので、点滴を打ってやったという事である
「ミィ!」
男が子タブンネの病室へ行ってみると子タブンネはすりおろしたオボンの実を食べながら元気に挨拶した
「退院は出来ますけど、今後の栄養バランスに注意が必要な状態です、こちらで指定したフーズを適量与えてください」
「あ、あの、こいつは俺のポケモンじゃなくて、公園で一匹だけで暮らしてたのをたまたま拾ってきただけなんです」
「こ、この小ささでですか?母親も無しに、いままでよく生き延びてきたものですね・・・」
「治療が終わったら、元いた場所に返してやろうと思うのですが」
「絶対だめです!そんなことしたら後一カ月、いや一週間も生きられません!
この年頃のタブンネは誰かの助けがないと生きてはいけないんですよ!」
結局男は根負けして、子タブンネを自分のマンションに連れて帰る事にしました
「ミィ?」
子タブンネは男の部屋で不思議そうにキョロキョロしています
「おい、タブンネ、これからは一緒に暮らすんだ、まあよろしくな」
「ミィ?ミィ!」
子タブンネはにっこりと笑って右手をあげた、子タブンネなりのあいさつなのです
部屋で適当に遊ばせておいて、ふと気付くと子タブンネは窓から公園の方をじっと見ている
生まれてからずっと暮らしていた公園、いろいろと思い出という物があるのでしょう
その後子タブンネは「ゲロ太郎」と名付けられ、やや無愛想な飼い主とずっと一緒に暮らしましたとさ
甘口エンド、おしまい
最終更新:2014年07月21日 16:43