わたしの家には、お友達のタブンネがいます。
タブンネは夜、家のすみっこにおいてある小さなケージの中でねます。
昨日の夜ねているタブンネを見ていたら、タブンネはなんだかねぐるしそうでした。
ケージとタブンネの大きさはほとんど変わらず、とてもせまいのです。
来たばかりのころはケージの半分におさまっていたタブンネだけど、今ではとびらから中に入ることもできません。
よく考えてみれば、タブンネは毎日ごはんを食べておやつを食べて、遊んでねるだけの生活をしています。
わたしとちがってタブンネはおとなしいせいかくであまりうんどうは好きじゃなく、家でのんびりするのが好きみたい。
でも、このままじゃタブンネはどんどん太っていって、もっとくるしくなっちゃうかもしれません。
だいえっと、させた方がいいのかな?
次の日わたしはタブンネをつれて外に出ました。さいきんこもりきりだったタブンネにとっては久しぶりのお外です。
タブンネは「みぃみぃ?」とないていて、それがわたしには「どうしたの?」と言っているように聞こえました。
わたしはタブンネのぶにぶにしているおなかにあなぬけのひもをグルグルと巻きつけているのです。
ちょっとくるしそうだけど、うんどうぎらいなタブンネは無理やりにでも引っぱらないと走らないのでがまんしてもらいます。
ひもを強く引っぱって、出発進行!タブンネは急に走り出したわたしについてこれず、ころんでしまいました。
「もう、しっかりしてよ」
ころんだタブンネを起こしてあげて、もう一度かけ声を上げて走り出しました。今度はタブンネもがんばってついてきてます。
いっぱい走って、うんどうして、だいえっとしようね!
まずは近くの公園までやってきました。わたしやタブンネがまだ小さいころはここでよくあそびました。
むかしのようにすべりだいをすべろうとすると、タブンネがなかなかすべってくれません。
どうしたの?と言うとタブンネは困ったようにみぃみぃないて体をよじります。
よく見るとタブンネの体はすべりだいにすっぽりとはさまっていて、身うごきがとれないみたいです。
前はこのすべりだいをいっしょにたくさんすべっていたのに、こんなに太っていたなんて…。
悲しくなったわたしは、タブンネを絶対にやせさせてあげようと思いました。
ひとまずタブンネをすべりだいから抜けさせるために、後ろから強く押します。
「み゛、みぃっみ、みぃ゛!」
タブンネがちょっと痛そうだけど、このままの方がかわいそうだからがまんしてね。
ぐいぐい押してもけっても、逆に引いてみても、タブンネはすべりだいからぬけだせません。
ここでわたしはふと思いつきました。水でぬらせばすべりが良くなって、ぬけだせるかな?
早速わたしは水をさがします。このこうえんは水のみ場がないので、水たまりのどろ水をゴミばこの中にあったペットボトルに入れます。
そしてそれをタブンネのおしりのあたりにかけてもう一度ぐいぐいと押してみます。
すると、ずるずるとした音を立ててタブンネがすべりだいを少しずつすべっていきます。
なんとかすべりだいをだっしゅつしたわたしたちは、こうえんで遊ぶのはやめてまた走り出しました。
しばらく走っていると、タブンネはぜぇぜぇと息をあらくして、くるしそうにしています。
そろそろお昼の時間なので、一度きゅうけいにしました。
おかあさんにもらったおべんとうを取り出すと、タブンネはうれしそうにみぃとないて、さいそくするように両手をさし出します。
でもここでごはんを食べたら、せっかくうんどうしたのにまた太ってしまいます。
「タブンネの分はないよ」
そう言うとタブンネはすごくビックリしたかおをして固まりました。
かわいそうだけど心をオニにして、わたしはタブンネの前でおべんとうを食べます。
その間タブンネは物ほしそうなかおでわたしのことを見つめていたけれど、知らないふりをしました。これはタブンネのためなのです。
すると、タブンネが見たこともないようなこわいかおをして、わたしのおべんとうを取ろうとおそいかかってきました。
とつぜんのことでよけれず、半分くらいのこっていたおべんとうが地面に落ちてしまいます。
すなだらけになったごはんをタブンネはむさぼります。すなの味にかおをしかめながら、それでもよだれをたらして必死に食べます。
「みっ…みふぅ……っ!み゛、みっ…」
ぐちゃぐちゃ、じゃりじゃり。汚い音を立てながらわたしのおべんとうをむさぼるタブンネが、なんだかとても汚い生き物のように見えました。
タブンネはわたしのおたんじょうびにプレゼントしてもらった大切なお友達です。
でもわたしには、今のタブンネのことをお友達だともかぞくだとも思えなくて、なんだか泣きそうになりました。
ごはんを全部食べ終わったタブンネは満足そうにゲップをして、その場にねころびます。
いつもタブンネはお昼ごはんの後必ず横になってねむるのです。
でも今はだいえっと中。食べた分もしっかりとうんどうをしなければいけません。
わたしはいやがるタブンネを無理やり引っぱって、また走りだします。
タブンネは最初はいやそうに走っていましたが、5分くらいするとまた地面にねころびました。
砂だらけどろだらけになったタブンネはあくびをして、そのままねむってしまいました。
太りに太ったタブンネはとっても重くて、わたしにはとてもじゃないけどねむったタブンネを引っぱることなんてできません。
どうしよう、うんどうさせないと、だいえっとさせないといけないのに。
とりあえずこのままごろごろとねかせるわけにはいかないので、かわいそうだけどわたしはタブンネを起こすことにしました。
「タブンネ起きて、起きて!」
タブンネのだらしないかおを思いっきりけります。するとタブンネは「みぶぅ!?」とつぶれたようなひめいをあげて飛び起きました。
「おはようタブンネ。ねちゃダメだよ、いっぱいうんどうしないと」
タブンネはいやいやをします。さいきんタブンネはこのようにわたしの言うことをあまり聞いてくれなくなりました。
昔は、昔はとってもすなおでやさしくて、本当に仲良しだったのに。今はこんな、ぼうりょくをふるわないといけないなんて。
なんだかかなしくなってきました。すっごくすっごく、かなしくて、なみだが出そうになりました。
ここでわたしが泣いたら、タブンネはしんぱいしてくれるかな?それとも、わたしのことなんかにかまわず、またねちゃうのかな?
わたし達、いつからこうなったんだろう?
今日はもううんどう中止。家に帰りました。タブンネは家についたとたんうれしそうにしてどろだらけの体で中に入ります。
するとおかあさんがひめいをあげました。だって今のタブンネはすごく汚れていてとっても汚い。きれい好きのおかあさんにはたまりません。
おかあさんはタブンネをつれておふろ場に走っていきました。それをぼんやりと見ていたわたしは、おべんとうを台所に置いて自分のへやに行きました。
そして夜、おとうさんがしごとから帰ってきて、夜ごはんの時間になりました。
ケージの中でねていたタブンネはもそもそと起きだして、みぃみぃとないてご飯をほしがります。
わたしはおとうさんとおかあさんにタブンネのことをそうだんして、だいえっとさせてあげたいのとおねがいしました。
するとふたりともさんせいしてくれて、しばらくはタブンネのご飯をけんこうてきにお魚とサラダだけにすることになりました。
今までタブンネは木の実だけでなく、おかしやお肉など人間の食べるものをわたしたちをいっしょに食べていました。
そのけっかがこれなので、みんなでまずはタブンネの食事からかいぜんしていこうね、という話になったのです。
とうぜんタブンネはそんなことは知らず、出てきたご飯にかおをしかめました。
こんがりとやけたおいしそうなシャケとしんせんなやさいのサラダ。タブンネは不満そうなかおをしてみぃみぃなきます。
「今日から暫くはそれがタブンネちゃんのご飯よ。我慢してね」
おかあさんがやさしくそう言うと、タブンネはおこって魚とサラダのお皿をほうりなげました。
ガッシャーン!と大きな音を立ててお皿はわれて、食べ物はぐちゃぐちゃ。それにかまわずタブンネは木の実を入れているカゴにむかって走り出します。
するとおとうさんがこら!とおこってタブンネのうでをつかみます。タブンネはみぃみぃないてあばれて、おかあさんはわれたお皿をかたづけて。
…なに、これ。
あの後タブンネは木の実をおなかいっぱい食べて、またケージでねむりはじめました。
リビングではわたしとおとうさんとおかあさんが、くらいかおをしてテーブルをかこんでいます。
「タブンネにも困ったものだな…」おとうさんがつかれたようにつぶやきました。
わたしのせいなのかな?わたしがタブンネがほしいって、おとうさんにおねがいしたから?
わたしがタブンネを甘やかして、きちんとしつけなかったから?どうしてこうなっちゃったんだろう?
ごはんを食べておふろに入って、わたしは自分のへやのおふとんの中で色んなことを考えていました。
タブンネをやせさせるにはどうしたらいいんだろう。タブンネにいい子になってもらうにはどうしたらいいんだろう。
どっちが先?やせさせるためにいい子にするの?いい子にするためにやせさせるの?
そもそもなんでやせさせるの?どうして太ったの?
ぐるぐるぐるぐるとわたしのあたまの中はこんがらがって、だんだん何も考えられなくなってきました。
気晴らしにテレビをつけてみると、ふしぎなばんぐみがやっていました。
『こんなに太っていた○○さんですが、脂肪吸引の結果見事なプロポーションに…』
しぼうきゅういん?しぼうきゅういんって何?
わたしはパソコンを使って色々しらべました。しぼうきゅういん、脂肪吸引。文字どおりしぼう、体についたお肉を取っちゃうんだって。
「これならタブンネも…」そう、うんどうぎらいなタブンネもだいえっとができるのです。
このしゅじゅつはとうぜんだれでもかんたんにできるものではないし、たくさんのお金もかかります。
そもそも、ポケモンのしぼうきゅういんなんて、どこでもとりあつかっていない。まぁ人間のびょういんのサイトだからとうぜんなんだけど。
しかしわたしにはいいあんが思いうかんだのです。
わたしのタブンネのとくせいは『さいせいりょく』。ちょっとやそっとのけがはすぐになおってしまうのです。
つまり、わたしがタブンネのしぼうを少しずつけずり取ってしまおうということ。
でもお家の中でやったらおとうさんとおかあさんになんて言われるかわからないので、どこかべつの場所でやらないと。
数日後、家の近くにある迷いの森と言う場所にタブンネをつれて行きました。
ここは特に入り組んだ森ではないのですが名前のとおりになぜか迷ってしまう、ふしぎなふしぎな森なのです。
そんなあぶない森に人が来ることはめったになく、わたしはこの数日間森をたんさくしたので迷わない自信もあります。
万が一のためにあなぬけのひもも2本用意したし、じゅんびはばんたん。しゅじゅつの開始です。
まずは持ってきた丈夫ななわでタブンネをしばりあげます。うでと足、両方をきつくしばればタブンネはみうごきがとれません。
大きな声を上げるとだれかが来てしまうから、口にもなわをまきつけてかませます。
しばられたタブンネの姿はなんだか大きなハムのようで、けらけらと笑ってしまいました。
そして家から持ち出した包丁を取り出します。するとしばられていやそうなかおをしていたタブンネは目を見開いて包丁を見つめます。
大丈夫だよ。ちょっとだけいたいけど、もしかしたらものすごくいたいかもしれないけど、タブンネはすぐにけががなおるもんね。
「ふっ…ふーっっ!!フ……!」
うごけないのに、必死ににげようとするタブンネ。それがなんだか気に食わなくて、わたしは包丁をタブンネのおなかにつきさした。
「ふぶぅぅぅぅううぅっ!?」おどろいたように息をあらげるタブンネ。最初はやさしくするつもりだったけど、それもめんどうになってきた。
そのままないぞうは傷つけないように、しぼうをスライスするように少しずつ切り取っていった。
中から血がぴゅーぴゅーふき出して来て、わたしにもかかります。
でもわたしはあらかじめカッパを着て、首元にはタオルをまいて、服が汚れないようにきちんとたいさくをしていたのでした。
タブンネの『さいせいりょく』は決してあっというまに全てのけががなおるわけではなく、時間をかけて少しずつ自分の体をさいせいしていくのです。
だからしゅじゅつも少しずつ、きゅうけいをはさんでじっくりと行う必要があります。
ブンネはとっても辛そうです。でもうんどうはいや、ごはんもがまんできない、そうなるとやせるためにはしぼうきゅういんしかないのです。
きずがだいぶなおってきたら、またタブンネのおなかをそいでいきます。少しずつ、少しずつ。
「ふ、ぶふ……ッ!う゛、フ、ムブぅ…!?」
タブンネはなみだをながして、おしっこもらして、けいれんしてました。血のにおいとおしっこのにおいがまざってすごくくさい。
目はどこを見ているのかわからなくて体は血まみれで、このまま死んじゃうんじゃないかと思いました。
でも、なぜかわたしはタブンネが死んでも特にかなしくないな、と思ってしまいました。
あんなに大好きだったタブンネのこと、今のわたしは好きじゃないのかな。友達なのに、トモダチなのに…。
タブンネのおなかはお肉がなくなってどんどん小さくなってきました。
あんなに大きかったおなかの中はほとんとがしぼうで、それがなくなったタブンネの姿はまるで昔のようでした。
おなかのきずがふさがったら、うでやかおも少しずつ切っていきます。1日だけじゃ終わらないから、何日もかけて。
そしてタブンネは見事やせることができたのです。
まんまるおなかはスッと、ととのっていて、ぶるぶるしていたうでや足も元のふにふにとしたやさしいやわらかさを取りもどしました。
ほんの少しきずあとがのこっているけどタブンネのふわふわとした毛でかくれてわかりません。
そして何より、あれ以来タブンネがわたしの言うことを聞いてくれるようになったのです。
うんどうはあいかわらず好きじゃないけどおさんぽをするし、いつまでもゴロゴロとねていません。
またわたし達は、元のお友達にもどれたのです。
あの時にテレビをみて、しぼうきゅういんのことを知れて本当によかった。タブンネと仲良しにもどれて、本当によかった。
タブンネのだいえっと大成功!
最終更新:2014年07月21日 16:51