たぶんねだいえっと・ハッピーエンド編

わたしには、とっても大切なお友達のタブンネがいます。
今日はタブンネといっしょにライモンシティをおさんぽしています。
このライモンシティは遊園地やミュージカル、ライモンジムやバトルサブウェイやスポーツをするためのドームなどたくさんのしせつがあります。
街は広くて人もとっても多くて迷いそうだけど、わたしにとっては生まれたときからいる街なので自分のにわのようなものなのです。
タブンネと街をぶらぶら運動がてらに歩いていると、何やら広場の方で人だかりができています。
一体なんだろう?もしかしてカミツレさんがいるのかな?
カミツレさんはモデルで、更にこのライモンジムのジムリーダーなのです。とっても人気で、彼女が街を歩いているとよく人が集まります。
人だかりに向かうとそこにいたのはカミツレさんではなく、変な服を着た人達でした。
皆同じような灰色の服を着て、その左右にはふしぎなマークの描かれたハタ。
そしてその灰色の人達の後ろから歩いてきたのは、これまた変な服を着た緑の髪のおじさんでした。
その人はとっても怖い顔をしていて、それでもうっすらとほほえみながら口を開く。
「ワタクシの名前はゲーチス、プラズマ団のゲーチスです。今日皆さんにお話しするのはポケモン解放についてです」
おじさんの話はかんたんだった。ポケモンとわたし達の今の関係は決して対等ではなく、ポケモンをかいほうしようと言うこと。
どうしてポケモンとはなればなれにならなきゃいけないの?どうして今のままじゃいけないの?
わたしはタブンネとさよならしなきゃ、ダメなのかな?

周りの人を見ると皆色々な顔をしていたけど、ほとんどふくざつそうなかなしそうな顔でした。
かわいいせいふくを着たお姉さんはエモンガをだきしめて辛そうな顔をしていた。
私より小さい男の子は泣きながらちょっと小太りなおじさんにだきついていた。
かさをさしたピンクのお姉さんはそんなのおかしい、と小さく吐きすてるように言った。
黒いコートを着たお兄さんはずっとふきげんそうな顔をしててよくわからなかった。
そして、私の近くにいた緑の髪のお兄さんはずっと無表情だった。
その人の顔を見ていると、ぱちりと目が合ってしまった。無表情なだけじゃなくて目もぼんやりとして暗くて、なんだか怖い人だった。
怖い緑のお兄さんはこっちに向かって歩いてくる。そして私の前に来ると、タブンネをじっと見つめたのです。
「キミのタブンネ、キミによく懐いているんだね」
お兄さんは少し笑ってそう言ってくれた。わたしとタブンネは色々あったけど、仲良しだもん。
「でも…」と言ってお兄さんはだまる。でも、何?わたしになついてるけど…何?
「少し乱暴みたいだね。それでもタブンネはキミの事がキライじゃない、大切なトモダチだと言っている」
らんぼう?たしかにわたしはおてんばだってよく言われるし、タブンネが言うこと聞いてくれない時はちょっと痛いこともした。
それでもわたし達はお友達だよ。タブンネもそう言ってくれて…、言って……?

「お兄さん、タブンネがなんて言ってるかわかるの?」
「そうだよ。ボクはトモダチと会話ができるからね」
いいな、わたしもタブンネとお話できたら、もっともっと仲良くなれるのに。どうしてお兄さんはポケモンの言葉が解るんだろう?
でもそれなら、わたしはタブンネに聞きたいことがある。
「お兄さんはさっきのお話聞いてたよね?わたしのタブンネに、わたしと別れてやせいに帰った方が幸せなのか、聞いてくれない?」
良いよ、と言ってお兄さんはタブンネの前にかがむ。わたしにはよく分からないけど会話、してるのかな。
「タブンネは食事や寝床に困るから、今から野生には戻りたくないと言っているよ」
「…それだけ?わたしのことは何も言ってないの?」
「キミのことはトモダチだと思っているけど、乱暴してくるのは嫌だって」
らんぼう…わたしだって、好きでタブンネにいやがらせしてるわけじゃない。タブンネに傷ついてほしくなんてない。
タブンネはわたしといっしょにいることよりも、ご飯やねる場所の方が大切で、幸せだと感じるのかな?
大切な友達だって、かぞくだって思っていたのはわたしだけなのかな?
「お兄さんは…お兄さんは、さっきの話どう思う?」
ポケモンは、タブンネは、わたしとさよならして、かいほうしてあげた方が良いと思う?
わたしはうつむいてしまって、お兄さんの顔は見れなかったけど、少し辛そうな声でお兄さんは言いました。

「ポケモンは…、人から開放されるべきだと思う。一緒に居たらどんなに仲良しでも、お互いに傷付けあってしまうよ。キミ達みたいに」

わたしは家への帰り道、タブンネと手をつながずに歩いた。
いつもはわたしが引っぱるようにして歩くから、タブンネはふしぎそうな顔をしてぽてぽて後ろから追いかけてきた。
らんぼうしてくるのはいやだって、タブンネはそう言った。わたしが手を、タブンネを引っぱってい行くのもらんぼうなことなのかな?
…わたし、タブンネといっしょにいない方が良いのかも。次の日、わたしはタブンネをつれてヤグルマの森へ行った。
おとうさんは、ここでタブンネをつかまえてきたんだって。つまりここがタブンネのこきょう。
昨日のあのお話の後ふたりだけ、自分のポケモンを逃がしている人がいた。その人達はとても辛そうで、ポケモンもかなしそうな顔だった。
ずっといっしょにいたポケモンとの別れ。それは自分の体の一部を無くしてしまうことと同じだと思う。
それでも、それがポケモンやわたし達にとって良いことなら、そうするべきなのかもしれない。
だから、わたしは今日タブンネをここで逃がすことにしました。
「タブンネ…今までたくさんひどいことしてごめんね。わたしタブンネのこと本当に好きだったよ」
「みぃ…?みぃ、みっみ?」
タブンネは首をかしげてる。まゆをよせて、不安そうな顔をしている、と思う。
わたしは今までタブンネの表情やたいどから勝手にタブンネの心をりかいしたつもりになって、勝手によろこんで勝手におこってた。
でもそれは間違っていたんだ。わたしはタブンネを傷つけていたんだ。
「それじゃ、ばいばい……」
タブンネを置いて出口へ向かう。わたしはタブンネ以外にポケモンを持っていないから、出口のすぐそこでお別れ。
このままスカイアローブリッジをわたって、4番道路を抜ければすぐにライモンシティ。タブンネがいなくても平気です。
しかしタブンネは、わたしのお腹にうでを回して、止めてきました。

「みぃみぃ!みぃ…みいみぃみ!!」
タブンネを見ると、泣きながらいやいやをしていた。また、わたしはタブンネのことを傷つけてしまったのかな。
わたしといればいるほど、タブンネは傷ついてボロボロになってしまう。もう傷つけたくなんかない。
「はなして、タブンネ」はなして、はなして…。そう言ってもタブンネは首をふるだけでうでをはなそうとはしない。
どうして?タブンネはわたしのこと好きじゃないんでしょう?
だって、キライじゃないってだけで、スキだとは言ってくれなかった。わたしよりご飯やねどこをゆうせんした。
友達だけど、かぞくだとは言ってくれなかった。わたしの良いところより悪いところへの文句を言った。
タブンネはわたしのこときらいなんだ。きらいになっちゃったんだ。今だってわたしの言うことを聞いてくれない。
仲良しの友達だと思ったのに、戻れたと思ってたのに…。
「いいかげんにしてッ!はなして!!」
タブンネの短い手を引っ叩いた。タブンネは目を見開いて、なみだもふかずに、わたしの顔を見つめた。
「タブンネはわたしの家でご飯を食べて、ねむるだけで満足なんでしょ。わたしのことはきらいなんでしょ!!」
そのままタブンネの顔を叩く、たたく。何度も何度も叩いた。叩く度にタブンネはみぃみぃひめいを上げた。
もっと、もっとタブンネを傷つけたら、タブンネはわたしから逃げるかも。
そう思ってわたしはタブンネを叩き続けた。タブンネの顔はどんどん赤くなっていく。ほっぺがはれて、虫歯になったみたい。
最初はパーの手で叩いていたけど、いつの間にかグーの手でなぐっていた。パン、なんてかわいた音じゃなくてドス、とにぶい音がする。
「ぶっ、ふ、ぅ!み゛ぅッあ゛、みぃいいい゛ぃぃいぃッッ!!」

顔をなぐって、お腹をけって、耳を引っぱって、タブンネをたくさん傷つけました。
タブンネの顔はパンパンにはれてへたくそなねんどの作品みたいにボコボコでした。体もしゅじゅつのあとなんか気にならないくらいボロボロ。
顔がはれてて思うように声が出ないみたいで、タブンネはぶひぃぶひぃとかすれた声でブタのようになきました。
なみだと鼻血とよだれがまざったピンク色の汁で汚れた手をわたしにのばして、何かをうったえます。
『行かないで』これは違うかな。だってこんなにいやなことしてるんだもん。『どうしてこんなことするの』タブンネが言うこと聞かないから。
そうだよ、タブンネがわたしの言うこと聞かないからいけないんだ。それなのに痛いのはいや、ってそんなのわがままだよ。
わたしだって悪いことをするとおこられるし、叩かれたりもする。ここまで、ひどくはないけどね。
タブンネはわたしにとって本当に大切な存在だった。たんじょうびプレゼントだったからじゃない。タブンネだから大切だった。
どんなにわがままでもぐうたらでも、やさしくてかわいくてわたしの大事な友達で、かぞくだった。
でもタブンネはそうじゃない。タブンネにとってわたし達はご飯をくれてふかふかのベッドでねかせてくれるつごうの良い存在だった。
「ぶひぃ…、み゛、ひぃ……」
弱々しくなくタブンネ。相変わらず手はわたしに向かっている。
タブンネはわたしといたいの?それともわたしといることで得られるものがほしいの?
わたしには分かりませんでした。そのまま、タブンネの手を足でけってヤグルマの森を出た。
森を抜ける最後まで、わたしの耳にはタブンネの汚い泣き声が聞こえていた。

「あら、お帰りトウコちゃん。タブンネちゃんはどうしたの?」
家に帰るとおかあさんが夜ご飯のじゅんびをしていました。わたしはタブンネみたいにおかあさんのお腹にうでを回してだきつきます。
どうしたの?とおかあさんが聞いてくるけどわたしはなみだをたえるのにせいいっぱいで、声を出せなかった。
そして夜、おとうさんも帰ってきてご飯を食べている最中。
わたしはお昼の怖い人のお話のこと、お兄さんのこと、タブンネを逃がしてきたことを話しました。
ふたりはわたしの話を真剣に聞いてくれて、少しかなしそうな顔をして言いました。
「タブンネちゃんは森に帰っちゃったのねぇ…」
「トウコがそれで良いと思うのなら、お父さん達は構わないよ」
ごめんね、おとうさん。せっかくわたしのためにつかまえてきてくれたのに。そうあやまるとおとうさんは頭をなでてくれました。
「でもあのタブンネちゃんってちょっと性格悪かったし、野生に帰った方が良かったのかもね」
「躾が甘かったな…。前に食事を制限させた時なんかは酷かったし、悪い子じゃないんだがトウコには合わなかったかな」
ポケモンのかいほう。わたしはタブンネをかいほうしました。
ポケモンと人は共にいるべきではないと、あの時のおじさんは言っていました。
たしかにそうなのかもしれません。わたし達はお互いがお互いに不満を持って、すれ違いながら同じ時間をすごしました。
でも、やっぱり、わたしはポケモンが好き。タブンネだけじゃなく、この世界の全てのポケモンのことが好き。
本当はいっしょにいたいと思う。今は無理でも、いつかまた。
あのお兄さんも、ポケモンが好きなのかな…。

数年後、ライモンシティのとある家の前では一人の少女と母親が別れの言葉を交わしていた。
「お母さん、それじゃあわたし行ってくるね」
「気を付けてね。何かあったらすぐに連絡するのよ」
「大丈夫!わたしもう子供じゃないし、ポケモンだっているんだから!」
少女が鞄の中のボールを一つ取り出し宙に向かって投げると中からバニプッチが飛び出してきた。
そしてそのまま彼女はバニプッチと共に旅立ったのだ。その顔は希望に満ち溢れていた。
「まずはサンヨウシティに行って、ちゃっちゃっとバッジを手に入れちゃうんだから!」
意気込む少女に応えるように鳴くバニプッチを抱きしめ、南へと走り出す。
後に彼女はジムやバトルサブウェイなど、様々な場所で活躍の跡を残すトレーナになるのだ。
幼い頃に植え付けられた『ポケモンと人との関係性』に関する想いや悲しみを乗り越えトレーナーの道を選んだトウコ。
残念ながら、逃がしたタブンネの事は時が経つにつれ忘れていってしまうのだった。
そして、彼女と別れた後のタブンネがどうなったかはまた別のお話。
~Happy End~
最終更新:2014年07月30日 23:34