イッシュ地方出身の新米トレーナーが、相棒のタブンネを連れてシンオウ地方に行った時のこと
「ミッミッ♪」
「タブンネー、あんまり遠くに行くんじゃないぞー」
俺たちは今、リッシ湖という場所でキャンプを張っている
この湖にはアグノムという伝説のポケモンがいるらしく、そいつにひかれてやってきた
「ミー?」
湖面を不思議そうに見つめるタブンネ。イッシュにはそれらしい湖なんてないもんなぁ
「じゃあ俺は夕食の準備してくるからな。そこに居ろよ」
「ミッミッ~♪」
手なんか振っちゃって、やっぱり可愛い。ちょっと親バカかなw
俺が鼻歌なんか歌いながらカレーを作っていたら
ジャボッ ドブン!
何かが水に落ちる音がした。まさか―――
いそいで駆け付けると案の定タブンネが溺れていた。あいつは泳げるはずなんだが、
まずいことにゴルダックに引っ張られている
ボーっとしてるところを狙われたんだろう。迂闊だった。そりゃこうなる
俺は目をつぶって水面に飛び込んだ…と言いたいところだが、最悪なことに俺はカナヅチだ
いつもタブンネに波乗りさせてたからな…
パニックになっている間にもタブンネは遠ざかっていく――
近くにあるホテルの人を呼んで戻ってくる頃には、全てが手遅れになっていた
ご主人さまと離れ離れになってしまったタブンネちゃん
目を覚ますと洞窟のような場所で、青いポケモンに覗き込んでいます
「うーん……」
お、おかしいなぁ?私はゴルダックさんに湖の中に引き込まれて、それから……
そして、このポケモンはなに?ここどこ?
「あのぅ、あなたは?」
目の前に居る(浮かんでた)青いポケモンに話しかける
「…………」
なにも答えてくれなかった。でも、状況から察するに私を助けてくれた、ってことでいいのかしら
「あ、私はタブンネっていうの。よ、よろしくね」
笑顔を作ろうとしてもひきつっちゃって上手くいかない。マスター早く助けに来てぇ―――
そのまま三十分くらい睨めっこ(ただしどっちも笑わない)を続けていたら、青いポケモンがやっと口を開いてくれた
「美味しいの?君」
「はぇ?」
つい間抜けな声が出ちゃったけど、美味しいって?
「ねぇ、ユクシー!エムリット!こんな奴見たことあるかい?タブンネとか言ってるけど」
すると、どこからともなく二匹のポケモンが現れた
姿は青いポケモンに似ているけど、頭の色が違う
「新種のポケモンかな?私は知らないねぇ」
と、ピンク色
「こんなに丸々として間抜けそうな…よくここまで成長できたもんだよ」
失礼なのは黄色いほう
「え…えぇ?待って、私を食べる気なの?」
色々言いたいことはあったけど、一番気になっていたことを
「だーかーらー、ゴルダックにぃ…」「大体さぁ…」「きっとこいつは…」
三匹は会議に夢中で全然聞いてくれなかった。うぅ――――
「あ―――あのう!」
三匹の意識を自分に集中させようと大声を出してみた。一生分の勇気を使いきっちゃったかなぁ…
「うるさいな。なんだい、おデブちゃん?おなかでも減ったのかなぁ?フフフ…」
黄色い奴は本当にむかつく!でもここは我慢しないと、マスターにまた会うためにも――
「あ、あの!私がここに居る理由とか、あなた達のこととか、教えてくださいっっ」
でも…
「やだよ。めんどくさい。それぐらい自分で考えたらどうだい?」
あっさり拒否されちゃった。
でも、不思議なことに、青いポケモンを見ていると、勇気が沸々と湧いてくるの
「私っ マスターにまた会いたいんですっ!」
どうやらここはそんなに広くないみたい。私の声がぐわぁんぐゎんと響きわたる
三匹は呆気にとられてるのかこっちを見たまま(黄色は何故か目を瞑ってるけど)何も言わない―――
最初に口を開いたのは青いポケモン
「あぁ。僕の力のせいでちょっと興奮気味かな?しかしまぁ、意思のない奴の力は増幅すらしないし……」
またわけのわからない返答。そもそも返答なのかしら。ただの独り言?
「君に一から説明するのは難しいことじゃない。でも僕が面倒くさい。だから、ユクシー?頼むよ」
「あーい。ほら、こっちを向きな、お デ ブちゃん?」
むっとして振りかえってから後悔した。これは罠だった
黄色の閉じた瞳がいっぱいに開かれている。そのまま私は気絶してしまった―――
目を覚ましたらふと、奇妙な感覚に襲われたの。
何か大事なことを忘れて…いや、思い出せない感じ。
それはもう、私が誰なのかということすらも――――
「ユクシー、君はどこまでの記憶を消したんだい?」
「記憶末梢の力ってのはね、対象の時間を戻すようなもんなのさ。
おデブちゃんの記憶は胎児まで遡った……つまりなーんにも覚えてないはずだよ」
「そうかいそうかい。それよりも早くこいつの感情を抜いてしまおう。 けっきょくこのままじゃ、無限ループになる」
「お前の能力は発動まで時間がかかるんだからしょうがないだろうよ…」
目の前の三匹のポケモンたちが話しこんでる…
でも、どういう意味かしら?
まったくわからない。そんなことよりも、お腹すいたなぁ…
マスタァ… て、誰だっけ――――
「そろそろ、三日たつかな」
「これでおデブちゃんはもう、生きた屍同然ってわけだ」
「結局何者だったのかな。このピンク」
「でもちょっと惜しいかなぁ。僕の力に反応するほど強い意志を持ったポケモンだったし」
「いまさら言われてもねぇ。でもこいつはユクシーの言うとおり肉付きもいいし、久々に美味しい肉が食べられるんじゃない?」
「当初の目的、すっかり忘れていたよ…」
「一応言っとくが、私のせいじゃないぞー」―――――
体を動かそうとしても、動いてくれない。
大切な人がいたような気がするけど、思い出せない。
考えるのが、もう面倒くさい。
そもそも私は、誰だっけ――――
最終更新:2014年08月03日 23:45