腹下し

散歩をしていたとき、電柱の近くに段ボール箱が置いてあるのを見つけた。
箱には「ひろってください」と書かれていて、蓋を開けると中にはタブンネが4匹いた。母と、子が2匹、赤ん坊が1匹。
最近捨てられたのだろう、特に衰弱している様子は無かった。
ママンネは、どうか恵んでくださいとでも言うように悲しげな顔でミィミィと鳴いていた。
僕はこのタブンネ親子を連れて帰ることにした。可哀想だと思ったからじゃない。虐待するためだ。

家に付くと何も知らないタブンネ達は感謝するようにミッミッと鳴いた。
とりあえずトイレと餌場の場所を教え、悪いことをしたら追い出すと言い聞かせた。

時計の短針が6を指した。そろそろ夕飯の時間だ。
自分の夕飯をさっさと作り一人で食べる。
食べ終わると同時に大きな腹の音が鳴った。音の主、子タブンネはミィィと不満げに鳴いて餌を求める。糞生意気な奴だ。遠慮がちに餌をくれないかと聞いたママンネを見習え。
「ああ、ごめんごめん。すぐに用意するから」わざとらしく答えて餌を作る作業に入る。
材料はオボンジャム(2瓶)と三角コーナーの生ゴミとついでに風呂場の排水溝に詰まった髪の毛だ。
鼻を洗濯バサミでつまみ、ゴム手袋で腐ったゴミとジャムを混ぜて特製タブフードの出来上がり。
「お待たせ、オボンのジャムで作ったポケモンフードだよ」
「ミッミッ!クチャクチャ」「ミッミッ!ペチャペチャ」
子タブンネ達は意地汚くゴミを貪る。ママンネは抱っこしている赤ンネに分けながら大人しく食べる。
「おいしいかい?」
「ミッ!ミッ!」「ミィミィ」「ミッミッ」「ピィピィ」
みんな気に入ってくれたようだ、バカめ。この後が楽しみだ。

効果は一時間ほど経ってから来た。
「ミィッ!?」「ミャア!?」
子タブンネどもがいきなり叫び出しトイレに駆け込んだ。トイレの中からは下品な騒音が響き、水の流れる音が何回も聞こえた。
ママンネは顔面を蒼白にして台所へ向かい、流しにゲロゲロと汚物を吐き散らした。
ママンネの通った後は赤ンネの糞で汚れている。その赤ンネは口から泡を吹いて痙攣している。
予想以上の効果だ。真っ黒い糞を片付けながらそう思った。
子タブンネどもが戻ってきたのは時計が一回りしてからだった。ピンクの体は脱色したかのように生白く、顔はげっそりとしてやつれていた。
ママンネは自分に構わず赤ンネの看病をしているが、体を舐めるだけで何が良くなるというのか。

「大丈夫かいタブンネちゃん?一度に食べ過ぎたからお腹が痛くなったんだね。このお薬を飲めば良くなるよ」
そう言って薬とコップ一杯の水を出した。子タブンネは薬は嫌いだろうが、良くなると聞いて我先にと口に入れる。
かかったなアホが!下剤腹裂刃!!
10分もするとタブンネ達は体調がよくなるどころかさらに青い顔になって再びトイレに走っていった。
「ミャアアアアアアッ!!!」
叫び声が喧しい。血便でも出たのだろうか。
ママンネは激しく痙攣しながらヘドロを放つ赤ンネを抱きしめ、恐ろしい顔で僕を睨み付けている。
もっとも、タブンネのする恐ろしい顔など間抜け面にしか見えない。
腹に蹴りを入れてやると引き吊った顔になり、爆発寸前の腹を短い両手で押さえながら庭に飛び出して行った。
取り落とした赤ンネは口を大きく開け、目を剥いた顔で死んでいた。
脱水によりすっかり骨と皮だけになってしまっていたそれを、草むらで爆音と共に排泄しているママンネの顔面に投げ付けた。
ママンネは鼻血を噴いて吹っ飛び、気絶した。

「ミッ、ミヒィィ……」
子タブンネが一匹戻ってきた。もう一匹が来ないので様子を見に行くと、糞の山から顔だけを出した姿で気を失っていた。
戻ってきた方の子タブンネを呼び、糞豚を起こすように言う。子タブンネは嫌々ながら糞豚を揺さぶる。
「ブミャァ……」糞豚はようやく目を覚ました。
「ネンブタちゃん、すっかり汚くなったね。綺麗にしなくちゃね」
そう言ってレバーを思い切り引くと、ゴゴゴと音がして糞の山が蟻地獄のように下がって行く。
糞豚は慌てて山から脱出しようとしたが出る体力が無かった。僕も糞豚に出てこられると掃除が大変なので、あのスッポンするやつで糞豚の頭を押さえ付けた。何より詰まるといけない。
子タブンネは僕の足にすがりながらミィミィ鳴いている。糞まみれでも兄弟なのだろう。
子タブンネを蹴り飛ばしながら腕に力を込めると、バキバキという骨の折れる音がした。糞豚は絶望の表情で濁流に飲み込まれた。子タブンネは涙を流している。愉快愉快。

トイレから出るとそこにはママンネがいた。四つん這いになり歯を食い縛っている。豚みたいな格好だが、どうやら怒っているようだ。

「やあママンネちゃん、ごきげんよう」
「ミフーッ!ミフーッ!!」
僕は目の前のこいつをバカだと思った。こんな威嚇でよくポケモンやってられるなと心底呆れた。
「ミィィィグャアアアアッ!」
突進しようとしたママンネの顔面にスリッパが突き刺さる。倒れたママンネに子タブンネが駆け寄る。
僕は子タブンネを掴むと、ハーハーと荒い息をしているママンネの大口にその頭を突っ込んだ。
「ハー、ハー、ハミグッ」
「ミィミィ!ミィミィ!」
ママンネは呼吸が上手くできなくなりもがいている。子タブンネは口の中で鳴くのみだ。
「そーれ」
ママンネの顎と額を掴んで一気に口を閉じさせてやると、ブチッと音がして胴体だけの子タブンネが床に落ちた。
ママンネはショックで子タブンネの頭を飲み込んでしまった。子タブンネの頭から流れた血を口から垂らすと、その直後、狂ったように絶叫した。
「ミィィィィィィイヤァァァァァァァ!!」
ママンネは逆上して捨て身タックルをしてきたが、子タブンネの胴体を投げてやると再び顔面に当たり、無様に転がりながら吹っ飛んでいった。
「ミ…ミッ……ミィィ」
ごめんね、子供たち……と呟くママンネを引き摺って外に連れ出した。もうすっかり夜だ。今日も冷え込むだろう。
「さようなら、ママンネちゃん。君のせいで子供たちが死んじゃったね」
「ミィ……ミィ……」
「君のせいで子供たちが死んじゃったんだよ。君が子供たちを殺したんだよ」
「ミィ……ミ……」
ママンネは希望を無くした顔でうわ言のようにミィミィといつまでも呟いていた。
僕は何だか苛ついてきた。バケツに冷水をくみ、しつこく鳴き続けるママンネに勢いよくぶっかけた。
「ヒャアアァァァ!!……」
ママンネは歯をガチガチ鳴らしながらふらふらとどこかへ逃げていった。
今回は何だか全体的に締まりが無かったような気がする。もっと派手に殺した方が楽しかっただろうに。
とりあえず、また新しいオモチャを探さなきゃなあ、と思った。
最終更新:2014年08月11日 23:06