尻尾無しの末路

「ミィィィィィ!」
ヤグルマの森にタブンネの絶叫が響き渡る。
「んー素晴らしい。もっといい声で鳴いておくれよ」
冬だというのにタンクトップ一枚の、ボデビィル選手ばりの筋肉質な男が光悦とした表情で言った。
「ゴーリキー、けたぐりだ」
ゴウと咆えると、ゴーリキーは満身創痍で立っているタブンネの足を蹴った。
「ミブォ!」
タブンネは強かに顔を地面にぶつけ、動かなくなった。
「ぬるぅい! じっつにぬるい! せっかくサンドバッグのかわりになるタブンネが沢山いる巣を見つけたというのに……」
男は鋼のように鍛え上げられた体を動かし、後ろを向いた。
「もーういなくなってしまったぁ! ガッデェム!」
そこにはタブンネの死骸がうず高く積み上げられていた。

不意に近くの草むらから何かが飛び出してきた。男はそれに気づき、軽い身のこなしでかわした。
「んっんー? まだ残っていましたかあ……」
舌なめずりをする男の目の前には、赤黒く尻尾の無いタブンネがいた。
「ゴーリキー、けた」
男が指示を出し終わる前に、タブンネは跳んだ。鈍重なタブンネにあるまじき行動に、ゴーリキーと男は目を見開いた。
「ミィ!」
ちょいとタブンネが手を振った瞬間、ゴーリキーの四肢があらぬ方向に曲がった。
「サイコキネシスですか……」
男は苦悶の表情でのたうち回るゴーリキーをボールに戻し、また別のポケモンを繰り出した。カイリキーだ。
「ンッミィ!」
カイリキーが駆け出すのを見て、再びタブンネが手を振る。
が、カイリキーの進みは止まらず、あっという間にタブンネの所へ辿り着いた。
「ゾロアーク、ナイトバーストだ」
カイリキーの姿が歪み、ゾロアークに変化した。ゾロアークはタブンネの懐に潜り込むと、両手をタブンネの腹に押し付けた。
「ミッギュオ!」
至近距離から放たれたナイトバーストによって、タブンネは木に叩きつけられた。

「グッジョォーブ! さらに辻斬りで動けなくしてしまいなさい!」
息つく暇も無く、タブンネの体にゾロアークの爪が襲い掛かる。その間に、男はオーベムを出していた。
「んっふふ、君の力であのタブンネの技を忘れさせて欲しいんだけど」
オーベムは小さく頷くと、血塗れになってうずくまるタブンネの頭に手を当てた。
「ミガガガガガガガガガ!」
カッと目を見開いてタブンネは痙攣した。
「ミィィィィィ!」
オーベムが手を離すと、タブンネは力なく倒れた。そこへ男がやってくる。
「んんー俊敏さ、的確に弱点を突けう判断力、敵を前にして恐れない精神……素晴らしい素材だ」
男はタブンネの腹を蹴り上げた。
「ミッグ!」
タブンネは小さく悲鳴をあげ、男を睨みつけた。
「しかしその態度が気に食わない。力の差は見せつけた。もうどうしようも無いんだ、分かるだろう?」
それでも目を逸らさないタブンネを、男は呆れ顔で蹴り飛ばした。
「まあいい、私は君を気に入った。従順になるまで調教して、必ず私の僕にしてあげよう」
男はキリキザンを出し、タブンネの耳を切り取るよう命令した。
「僕ということは仲間でも家族でもない。これはその証だ。君はこれから奴隷として生きるんだ」
風のように早くキリキザンは腕を振った。直後、二つの耳が宙を舞った。
「ミギャアアアアア!」
数秒遅れてタブンネが叫ぶ。男はタブンネを仰向けに寝かせると、腹をナイフで切りつけ、文字を書いた。
タブンネの腹には負け豚と刻まれた。
「これからたっぷり可愛がってあげよう」
ガクガクと震える怯えた目つきのタブンネに微笑を投げると、男はモンスターボールをタブンネに落とした。
「さあ、お家へ帰ろうか」
そこには大量のタブンネの死骸だけが残った。
最終更新:2014年08月11日 23:10