ある日のこと、アルセウス様は極楽の蓮池の周りを歩いておりました。やがてアルセウス様は池の淵にお佇みになって、池の蓮の間からふと
下の様子をご覧になりました。この極楽の蓮池からは下の地獄の様子がはっきりと見えるのでございます。すると地獄の底では一匹のタブンネが
他のタブンネと一緒に蠢いているのが目に止まりました。このタブンネ、生きている頃は農地を荒らしたり、わざと糞尿を撒き散らしたりと悪行の限りを尽
くしましたが、とうとう人間に捕まり、そのまま地獄へと送られた次第でございます。そんなタブンネもたったひとつだけ良いことを致した事がございました。
それは、ある日「いやしのはどう」なるわざをもって一匹の怪我をしたバチェルを手当したことでございました。
アルセウス様はその善行を報いるために、このタブンネをこの地獄から救ってやろうとお考えになり、一本のバチェルの糸を遥か下の地獄へと下ろしました。
そのころ善行タブンネは、他の罪タブンネと共に血の池地獄で浮いたり沈んだりを繰り返しておりました。
ふとタブンネが上を見ると、いつも黒よりも黒い暗闇の中から、一筋の細い糸が光りながら自分の方へと
垂れてくるではありませんか。タブンネはこれを見ると、思わず手を打って喜びました。
「この糸にすがって上にあるらしい極楽へと行けば、もう針の山を歩かされることも、血の池に沈められる
こともないミィ」と思い、早速その糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命上へと登りはじめました。
しかし、自身の体重と力が釣り合っていないためすぐ疲れ、もう一たぐりも上へと行けなくなってしまいました。
そこで少し休もうと力をゆるめ、目線を下へと移した時でございます。
なんと、自分の後方では、数えきれないほどの罪タブンネたちが善行タブンネと同じ目的を持って
糸を登ってくるではありませんか。これではいくら丈夫な糸だろうと千切れてしまうかもしれません。
タブンネは叫びました。「何するミィ!、これは私のためのものだミィ!さっさと降りるミィ!!」
その途端、タブンネが掴んでいた糸が突然ブツリと切れてしまいました。「な、何でだミィ・・・?」
タブンネがそう呟く間もなく、善行タブンネは他の罪タブンネと共に、再び地獄へと落ちて行ったのです。
さてなぜ突然糸が切れたかといいますと、事の一部始終を見ていたアルセウス様が自分ばかり助かろうとする
善行タブンネの浅ましさに失望し、糸を切ったのでございます。アルセウス様は「やっぱり、タブンネは
タブンネだな」と言い残し、池を後にしました。
おわり
最終更新:2014年08月15日 13:29