タブンネ狩り

ここは、草むら。
雑草しか生えていない、ごく標準的な草むら。
おや、草むらの一角が揺れています。
それもかなり揺れは大きいようです。
どうやら、タブンネの群れが通ろうとしているようですね。
そしてそれに目をつけた2人のトレーナーさん。
お互い顔も名前も知らない者同士のようですが、互いに同業者を見るような目配せで、笑顔を交し合っています。
そしてお互い一つずつボールに手をかけ…ばっと飛び出していきました。
「ミッ!?」最後尾のタブンネ(♂)が気づいたようです。
しかしもう遅かったのです。
「ワカシャモ、そいつに二度蹴りだ。」
次の瞬間には、ボールから放たれたワカシャモ(♂)が、その力強い蹴りで彼の脳天を叩き割ろうとしていたのですから。

振り返った頭に綺麗に決まりましたね。1回でもう瀕死…いや、もう確実に死んでしまいました。
その時のぐしゃ、とも、ごきっ、とも取れるようなその音。崩れた頭から吹き出る綺麗な赤色。
その二つの要素が、振り返ったタブンネたちに恐怖を与えたのは言うまでもありません。
あわてて駆け出そうとして、一斉に走り出しています。さっきまでは整っていた列ももう崩れてしまいました。
しかし前方には巨大な影。その影の主は、ブニャット(♂)のものでした。
「ブニャット!のしかかりだ!」どうやらもう一人のトレーナーさんのもののようです。
その巨躯に似つかわしくない機敏な動作で、ふわりと空中に浮かびます。一種の優雅さまで感じられる、気品のある浮遊。
しかしそれがもたらすものは、優雅さや気品とはかけ離れた者の死です。
怯えて腰を抜かしてしまったタブンネ(♂)のお腹の辺りに、重力を味方につけた巨体が圧し掛かります。
「ミギャッ!ギギィッ!!」あらあら、とても醜い声ですこと。
腹部への一瞬の打撃が、彼の内臓を破壊してしまったらしく、その小さい口からは血があふれ出て、体を汚します。
「ミ…ギィ…ガヒュゥッ」目は細まり光を失い、ついに一回の大きな吐血の後に動かなくなりました。
体は醜い赤色に染まり、形はほぼ原形をとどめていません。
口からはまだ、だらしなく体液が漏れ出ていました。

ブニャットが死を見届けている間にも残り3匹のタブンネたちはその鈍足で逃げ惑います。
「逃がすものか!行け!」ワカシャモが後ろから掴みかかります。
運悪く捕まってしまったタブンネ。目はまだ生きる事を諦めてはいないものでした。
「つつくだ。」背中に繰り出される突付き。
ぶすっ。ぶしゅっ。びちゅっ。鋭い嘴が、タブンネ(♀)の背中に赤黒い穴を作っていきます。
「ミギャ!グイィッ!」背中に穴が増えるたびに、短い悲鳴を上げるタブンネ。
そしてその突きは上に押しあげられ、終に首に到達しました。
「ミギャアァッ!」彼女の悲鳴は一層大きなものになりました。それがワカシャモの心の油田に火をつけてしまったのでしょうか。
一層速いスピードで首や後頭部に突付き始めました。
その動きが止まったとき、嘴は濃い赤に染まり、ところどころに何かの繊維らしきものが付着していました。
そして当のタブンネは、もはや虫の息です。
倒れこんだ回りの草たちや地面を汚し、その首は半分以上千切れてしまっていました。
息をしようと必死に動かすたび、ひゅう、ひゅう、と痛々しい音が漏れ出します。
振り下ろされる嘴。次の一撃は、止めとなりました。

さて、2匹のタブンネたちは方向転換してとてとてと逃げています。
その内、前を走っていたタブンネ(♂)を狙っている第三者が居ました。
「よし、行け。」その言葉に呼応して一匹立ちふさがります。
そのポケモンであるグラエナ(♀)は、タブンネ狩りの必要が無いほどの強さを感じさせていました。
「かみくだく。」その命令の内容が最後まで言われる前、「だ」の音の辺りでもう彼女は飛び掛っていました。
迷うことなく牙が頬に突き立てられます。
牙が食い込み血が流れ、痛さのあまりに涙を流し…
なんてさせる余裕は与えませんでした。
ブチュリという音。「ミギャアァァァアアアッ!!」っという断末魔。そして、口の周りを赤く染めるグラエナ。
そうです。一瞬で噛み千切ってしまったのです。
「ア…ア…」その部分があったところを触ろうとしたところで、今度は腹部に噛み付かれてしまいました。
「アアァァァァ!アァァァァ!」必死にもがきますが、何せさっきまでは逃げていた身です。
あっけなく力尽きてしまいました。
ボロ衣のようなそのタブンネだったものからは、生臭い血の匂いが立ち込めます。
「よーし、良かったぞ~グラエナ~」第三者のトレーナーさんは、ビデオ片手にタブンネの残骸を映しています。
鳴き声さえ発しないものの上機嫌そうなグラエナとトレーナーは、残骸に一瞥して立ち去っていきました…。

残された一匹(♀)は気が気ではありません。目の前で仲間を惨殺されたのですから。
もはや半狂乱。見つからないように隠れるなどという考えは見つかるはずも無く、無闇やたらと走り回っています。
「あそこか!仕留めろブニャット!」「俺の獲物だ」とでも言いたげな声でトレーナーは指示します。
ブニャットは爪を立て、タブンネの頭めがけて飛び込みました。
しかしそれは少しばかりそれてしまいました。
タブンネの右肩を大きく抉るだけとなってしまったのです。
「ミギィィ!ミギィィ!」肩を抑えて転げまわるタブンネ。小さい手からは血がとめどなく溢れています。
今度は外さない。楽にしてあげるよ…。
その言葉を代弁するかのごとく、頭に爪が突き刺さります。
爪が視界に入ったときの顔は、大多数の絶望と、少しの開放される喜びが交じり合った顔でした。

周りにもう揺れる草むらはありません。
二人のトレーナーは、何も言わずにそれぞれの道に歩みを進めます。
そこに残ったのは、歩みを進める事ができなくなった、タブンネの遺骸だけでした。

おわり
最終更新:2014年08月15日 13:52