とある野生タブンネがお腹を空かせて街の近くを物欲しげにウロウロしていた時。
一人の変なオッサンに声をかけられた。
「ねえ、そこのタブンネちゃん。キミ、可愛いね~。よかったらテレビに出てみない?
実はおじさんはタブンネちゃんが主役のテレビ番組を作ってる監督なんだ。
こうしてたまに外に出て新しいアイドルタブンネちゃんをスカウトしてるの。
どう、キミ出てみない?テレビに出たら皆の人気者になれるし、ギャラで美味しい木の実もた~くさん貰えるよ」
「ミッミィ?」
このタブンネ、人間に可愛いと言われたことなんか一度もないし、野生の世界の辛酸をそれなりに舐めてきた子、
そんな子にとって『皆の人気者になれる』『美味しい木の実もた~くさん』という甘い言葉はあまりに魅力的で
ついホイホイと怪しいオッサンの後に付いて行ってしまったのだった。
オッサンがタブンネを案内したのは大きなビルの一室、テレビ撮影のスタジオ。
高い天井にライトが幾つも煌めき、町のジオラマが部屋の中央にでんと置かれている。
ジオラマを囲むのは無数のカメラ。大勢の人間がそれらの間を忙しそうに行ったり来たりしていた。
「ここでタブンネちゃんを撮影するんだよ。楽しみでしょう」
「ミッミィ♪」オッサンの言葉に嬉しそうなタブンネ。
でも、ちょっと待てよという風に考え込んだ後、オッサンに「ミィミィ」と何かを聞いた。
オッサンはタブンネのテレビ番組を作っているだけあってタブンネの言葉がわかるのか
「ああ。何をすればいいのかわからないって?」とタブンネに言った。
「簡単だよ。あのジオラマを踏んだり蹴ったりして壊してくれればいいの」
「ミミッ?」
「ん?壊しちゃっていいのかって?いやいや!キミ野生の子でしょう?
野生のタブンネのワイルドな可愛さを表現するためなんだから、豪快にぶっ壊してもらわないと困るよ~」
「…ミィ~?」なんだか納得いかない様子だが監督と名乗るオッサンの言う事は聞くつもりみたいのタブンネ。
「じゃっ、テレビに出るための特殊なオシャレをしないとね。
あっちにメイク係さんがいるから言う事を良く聞いて綺麗になるんだよ」
オッサンの言葉に従い部屋に入るタブンネ。鏡の前にちょこんと座って美人のお姉さんにメイクアップしてもらう。
「…ミミィ~?」タブンネはメイクが進んでいくにつれて不審げになっていった。
なぜならタブンネに施されたメイクはボコボコした皮膚に変な角、コロモリみたいな羽と
どう見てもタブンネ的には綺麗とは程遠いものだったからだ。
でもお姉さんは怪獣みたいなメイクをされたタブンネを撫でながら
「うん、最高!とっても良くできたよ!これなら子供たちも大喜びだわ!」と、しごくご満足のご様子。
こうなると野生のタブンネも「今ニンゲンさんの間ではこれが綺麗なのかなぁ…」と思わざるをえなかった。
「メイクできたかい?おおっ。最高じゃないか。メイクさんの腕もいいけど、
素材のタブンネちゃんが最高だからだね!じゃあ早速撮影開始だ。スタンバイOK!」
オッサン監督の言葉に従ってスタジオが動き出す。場の緊張感にタブンネもドキドキしてきた。
「シーン6、スタート!」カチン!
オッサンの言葉とカチンコの音を合図にジオラマにとてとてと走り出すメイクされたタブンネ。
「(豪快にブッコワス…)ミギャオ~。ミミィ~」
短い腕や足を懸命に振り回してタブンネ的に思い切りジオラマ模型の家々を壊していく。
が、傍目から見ると単にじだんだでも踏んでいるようにしか見えなかった。
「タブンネちゃん!もっと思いっきり!もっと迫力のある絵が欲しいんだよ!」
「(思い切り…?)ミギャァ~~オン!ミギャ~ン!」
オッサンの言葉を受けて体の動きを激しくして、ボディプレスやヒップアタックまでしてジオラマを壊すタブンネ。
スタジオ中にズシンズシンと軽い地響きまでひびく勢いになっていった。
「そう!いい感じだよ!そこだ!そう!最高だよ、その壊しっぷり!いいぞ!もっと!」
オッサンの褒め言葉に嬉しくなるタブンネ。それに何だか物を思い切り壊すのが楽しくなってきた。
「ミギャァオオ~~ン♪ミギャ~~♪」
「よし、いいぞ!そろそろ登場シーン行こう!」
調子にのって暴れまくるタブンネの前でオッサンがどこかへ合図をした。と、その時。
「エルエルッ!」シュンという音と共にテレポートでエルレイドがタブンネの前に現れた。
「ミミィ?!」いきなりの事にビックリするタブンネ。競演のポケモンさん?聞いてないよ?と思いながら
どうしよう、とタブンネがオッサンの方を向きかけた瞬間。
エルレイドの正拳突きがタブンネの鼻先に思い切りめり込んだ。
「ミバァァァ!」鼻血ブーしながら後ろに倒れかけるタブンネ。
しかしそれをエルレイドは触角を掴んで止め、今度は強烈なハイキックをタブンネの側頭部に叩き込んだ。
「ミガァァ!」痛みに目の前で星が飛ぶタブンネ。
「おお!上手くなったじゃないか!今のは良い絵になったよ!」興奮したオッサンの声。
「ミヒィ…ミギュウゥ…?」側頭部の強打でクラクラする頭でどういう事なの?と必死で考えようとするタブンネだが
「エルレイッ!」考えが纏まる間も無くエルレイドのパンチを腹部に受け、ジオラマを壊しながら吹っ飛んでいった。
「今だ!必殺サイコカッター!!」オッサンの指示に従いエルレイドが仰々しいポーズをキメながら
肘の刃を伸ばし、体の前後でクロスさせて
「エルレイッド!」という掛け声と共にサイコカッターが発射された。
吹っ飛んで受身の取れないタブンネにそれが避けられるハズもなく
「ミッ…」という微かな声を断末魔としてタブンネは頭頂部から股まで縦に真っ二つにされてしまった。
左右に割れた胴体から血や内臓が派手にブチ撒けられる。
「よっしゃあ!カーット!」カチン!
オッサンはカチンコを鳴らした後、嬉しそうにエルレイドに近づいて頭を撫でた。
「いや~。さんざんお前を叱った甲斐があったわ。よくここまで上手くなったもんだよ。
これで今週のタブンネQも撮影終了だ。いい絵が撮れたしきっと視聴率も上がるな!」
「エルエルッ♪」オッサンの言葉に嬉しそうなエルレイド。
実はオッサン監督が言っていたタブンネが主役のテレビ番組とは
『ネンブータ博士によって産み出された超巨大タブンネの怪獣が正義の味方エルレイマンに成敗される』という番組
タブンネQの事なのであった(スポンサー:タブンネ虐待愛好会)。
タブンネQに登場するタブンネ怪獣は全て実際のタブンネが特殊メイクで扮したものであり
タブンネ怪獣のヤラレシーンが(グロ断面図にはモザイク入り)迫力あって最高と
一部の特撮マニアにはウケているようである。
勿論、一般のお子様や保護者にはグロすぎると大ブーイングで視聴率的には最悪なのだが
監督のオッサンは「まだ迫力が足りないのか!ようし!次こそもっと派手にモツをブチ撒けるぞ!」と
正反対の方向に熱意を燃やしているようで、タブンネQが続く限り
スタジオの一室でこのタブンネのようにモツを晒して横たわるタブンネは絶えないであろう…。
お わ り
最終更新:2014年08月15日 14:00