タブンネとキリキザン

夏の暑い日のとあるポケモンが住む町。そこにタブンネの一家がいました。
タブンネの一家は食べ物がとれない冬に備えて
きのみを集めたり畑を耕し、作物を作ったりしていました。

ある日、タブンネ一家が食べ物を家に運んでいたら、
木陰で踊っているキリキザンがいました。
「タブンネさん、こんな暑い日になにやっているんだい?」
「冬に備えて食べ物を集めているのです。
キリキザンさんも食べ物を集めたほうがいいですよ」
パパタブンネはそういうとキリキザンは
「暑い日に働くなんて時間がもったいないよ。夏は好きなことをしなきゃ」
と言ってまた踊り始めました。

そして寒い冬がやってきました。
踊ってばかりいたキリキザンは食べるものがありません。
「腹が減ったなあ。誰か食べ物を分けてくれるところはないかなあ」
そういいながらあたりを見回していると楽しそうな声が聞こえてきました。
「あの声はタブンネさんの一家だ、あそこで食べ物をわけてもらおう」
キリキザンはタブンネの家に向かって歩き出しました。

しかし、吹き付ける凍える風が容赦なくキリキザンをおそいます。
「寒くて体が思うように動かせない。もう少しなのに……」
それでもがんばってタブンネの家をめざし、歩きましたが
キリキザンの足は少しずつ遅くなり、とうとう動かなくなってしまいました。

が、キリキザンの動きは完全には止まっていませんでした。
キリキザンはさいわいにも寒いのには強かったのです。
凍える風で動きは鈍くなりながらも
一歩ずつ、一歩ずつ歩き、ついにタブンネの家に着きました。

「キリキザンです。食べるものがないのでわけてください」
キリキザンはパパタブンネに頼みました。するとパパタブンネは
「キリキザンさん、ここで踊ってください」
と頼みました。
踊れば分けてくれると思ったキリキザンは、
かじかんだ手足で一生懸命踊りました。

「踊りました。食べ物をわけてください」
キリキザンは改めてお願いしましたがパパタブンネは
「一生懸命食べ物を集めなきゃならない夏にそんなくだらない踊りを
していたから冬に苦労するのだよ。
けれど君の好きな踊りをいっぱいできて満足だっただろう。帰りなさい」
と頼みを断りました。

キリキザンは声をあらげ、
「ポケモンは助け合って生きていくものじゃないか!!
オレが困っているのはわかるだろ?助けてくれよ!」
と叫びましたが、
「それは真面目に正しく生きてきたものだけだ。
君みたいに遊んでばかりの怠けものを助けるものなどいない!
さっさと帰りたまえ」
と追い返そうとしました。

しかし、キリキザンは動きませんでした。
食べ物をくれないばかりか自分の大好きな踊りをバカにし、
説教をするタブンネに怒りがわいてきたのです。
キリキザンがワナワナと震えていると、長男タブンネが
「寒くて動けないの?僕が追い返してあげるよ」
と頭を前に突き出しました。どうやらとっしんで追い返すようです。

その瞬間、キリキザンは全力で長男タブンネにとびかかり、
脳天に全力の一撃をお見舞いしました。
不意の一撃にタブンネは頭から血を流しながら倒れ、動かなくなりました。
「お兄ちゃん!!」
そしてよちよち歩きの妹タブンネがかけよりましたが
キリキザンは妹タブンネの頭をつかみ、持ち上げました。

「この子供の命が惜しかったらみんな出ていけ!」
キリキザンは妹タブンネのほおに刃を突き付け叫びました。
「何をバカなことをするんだ!やめたまえ!」
とパパタブンネが言い返しますが、キリキザンは妹タブンネのほおに
切り傷をつけながら
「言っておくがオレは踊れば踊るほどパワーアップするんだ。
それにオレの行く手をじゃまするこごえるかぜ……
この風に負けまいとする気持ちがさらにパワーを与えていたのだ」
と笑みを浮かべ言いました。
その言葉をきき、パパタブンネは
「食べ物は分けてあげるから娘を返してください」
と頭を下げましたが、キリキザンは
「オレを怒らせた罪は重い。
このガキをこいつみたいにしてほしくなかったら
さっさと出ていけ!」
と長男タブンネの頭をふみながら言いました。

そしてついにパパタブンネたちは家を追い出されてしまいました。
追い出されるとき、キリキザンは妹タブンネをパパタブンネに投げつけ、
「いや~立派な家にいっぱいの食べ物が手に入ってうれしいなあ」
と笑いながら言いました。

キリキザンによって家、食べ物、そして長男タブンネを奪われたタブンネ一家。
妹タブンネと赤ちゃんタブンネはママタブンネに
抱っこされながらブルブル震えて泣いています。
「パパ、私たちこれからどうするの?」
ママタブンネが涙を流しながらパパタブンネに聞きます。
「今日のところは近所をまわって食べものをもらい、泊めてもらおう。
ポケモンは助け合って生きるものだ。きっとみんな親切にしてくれるさ」
パパタブンネは家族を元気づけようと明るい声で答えました。
「パパ……」
そんなパパの励ましに、ママタブンネと妹タブンネは元気が出てきました。

タブンネ一家はまず近所のチラチーノ一家に行きました。
「タブンネです。食べるものがなくなったので分けてください」
タブンネパパはチラチーノにお願いしましたが、
「夏に食べ物を集めなかったあなたたちが悪いんでしょう。
怠けものにあげる食べ物はありません。帰ってください。」
と断りました。
「違います、私たちは夏は一生懸命働いて集めました。
けど、キリキザンに奪われたんです!」
パパタブンネは必死に食い下がりましたが、チラチーノは
「この町にそんなことをするポケモンがいるわけないでしょう。
あなたたちは働かないばかりか嘘までつくんですか。
最低ですね。」
とあきれています。
「いえ、本当なんです。息子がそいつにやられて……
食べ物がダメならせめて一晩泊めさせてください!
明日からは自分たちでなんと……グワッ!!」
チラチーノはタブンネを追い返し、カギをかけました。

その後もタブンネ一家は近所をまわり、食べ物を恵んでもらおうとしましたが、
どの家にも「怠けものにやる食べ物はない!!」と断られてしまいました。
そして、一家は公園のベンチに腰掛けました。
そしたらパパタブンネが急に涙を流し始めました。
「私たちは一生懸命働き、今日までがんばってきたんだ。
何も悪いことをしていないのにどうしてこうなるんだ。
どうして一生懸命働いたのに食べ物がないんだ。
どうして踊ってばかりいたキリキザンが食べ物を手に入れているんだ。
どうして一生懸命働いた私たちを誰も助けてくれないんだ。
ポケモンは助け合って生きるものではなかったのか。ううっ……」
パパタブンネが泣き崩れていると、ママタブンネと妹タブンネもかけよります。
そして、家族全員でよりそいながら大泣きしました。
しかし、泣いたところで誰もタブンネ一家を救ってはくれません。
それどころか天候はどんどん荒れ、吹雪となってしまいました。


翌日、吹雪はやみ、太陽が出てきました。
タブンネ一家は吹雪の中ずっとよりそっていました。
が、身も心も冷たくなってしまい動かなくなっていました。
そんなタブンネ一家をみて町のポケモンたちは
「夏に食べ物を集めないとタブンネ一家みたいになるんだよ」
と子供たちに説き、その子供たちもまた子孫に語り継いでいきましたとさ。

(タブンネ以外は)めでたし めでたし
最終更新:2014年08月25日 01:39