イッシュ地方のあらゆる暴力と欲望を掻き混ぜた、暗黒の街
街の人間の心は真っ黒に擦れていて、外界とは違った独特の雰囲気を醸し出している
当然、人間だけではなく、ポケモンも同じだ
この街に住まうポケモンには三種類の生き方がある
一つ、トレーナーの所有物
街ではポケモンバトルが盛んであり、血気盛んなトレーナーが日々、そこいらの路上で激しいバトルを繰り広げている
好まれるのは、戦闘に向いているような獰猛なポケモンである
二つ、街に住む野良
トレーナーに捨てられたポケモンが、街の路地裏や廃ビルを根城にしている
野良同士の生存競争や人間による駆逐があるため、主なポケモンは皆、野生での生存能力に優れるものである
三つ、産業利用としてのポケモン
外の街、あるいはどこかの集落から連れてこられたポケモンである
バトルとしての利用価値はなく、商品としての価値がある
主に、前者二つの環境に不適合なポケモンは、選択の余地なくこの末路を辿る
タブンネというポケモンがいる
素早く動くことに適していない短い手足、天敵から目立つピンク色の体毛、強い相手には媚びて許しを請うことしかできない無能さ
どれをとっても、戦闘には向かず、生存競争の中でも底辺に位置する劣等種と言えるだろう
だが、
ブラックシティのポケモン産業には欠かせない存在であり、一番多く利用されている商品だ
娯楽、愛玩、食肉、臓器、など、様々な利用方法で人間の生活を潤してくれるのである
今回は、ブラックシティでのタブンネ産業について、紹介していこう
タブンネが産業として使われるようになってからは、街でその姿をよく見かける
工場や闘豚場で労働する、
奴隷タブンネが主な個体だ
皆、身体を酷く痛めつけられており、腕や耳などの一部が欠損いているものも少なくない
共通するのは、どのタブンネも死んだ魚のような目をしていること。そして、奴隷の証である足枷や首輪爆弾、焼印だ
これにより逃げることもできず、死ぬまで馬車馬のように働くことになるのである
街のトレーナーにインタビューしてみた
「タブンネ? ああ、あの糞豚ポケモンね。そこいらにいるでしょ」
「バトルに使わないのかって・・・とんでもない! あんな雑魚、使い物にならないよ」
「この街のバトルは一対一が基本だからね。技マシン使うくらいなら他のポケモンの方がずっといいし」
「それに、あの顔と態度が気持ち悪いんだよねー 下手すりゃ相手のトレーナーに媚びる始末だし。まったく、こっちは金賭けた真剣勝負だってのに・・・」
どうやら街のトレーナーからの評判は悪いようだ
至る所でツバを吐かれ、空き缶を投げつけられ、背中にドロップキックを喰らうタブンネなどが目撃できた
マーケットで、奴隷タブンネを使った家業をしている男の話を聞くことができた
「あぁ? 糞豚をどう使ってるかって?」
「ウチは殴られ屋さ、最も、殴られるのはあの糞豚だがね」
話していると、丁度出稼ぎに行っていた奴隷タブンネが帰ってきたようだ
『イィィィ・・・ミビィィィィィ・・・・・・』
隻腕の奴隷タブンネが、フラフラと歩み寄ってくる
顔面はボコボコに膨れあがり、腹の毛皮も乱暴に毟られた後がある
「こいつは片腕が野良に食いちぎられていてな。しかも、希少種だかなんだか知らないが、生れつき不器用とかいう特性らしい」
「働き口がないから、優しいこの俺が雇ってやってるのさ」
『ミィィィ・・・・・』
痛みに耐えながら、タブンネは男に封筒を差し出した。本日の稼ぎだろうか
「一万・・・・・・今日の客は十人ってとこか」
「ほらよ、お前の取り分だ」
男はタブンネにオレンを一つ、投げつけた
腐りかけなのか、床にぶつかったオレンがびちゃり、と潰れる
『ミィ! ミィ! ミィ!』
タブンネは地面のオボンをびちゃびちゃ、くちゃくちゃと、音を立てて啜る
おそらく、これが街で唯一の、食事を得る手段なのだろう
「明日のノルマは20人。ハンッ、精々頑張りな・・・・・・」
男は、ニヤリと薄ら笑いを浮かべた
最終更新:2014年09月20日 00:27