「苦しい生活をしている野生タブンネ募集中!みんなで楽園へ行きましょう!来る3日後の正午にヒウンシティの港で待ってます」
そんな立て看板がイッシュ地方の各地に突如立てられた。
タブンネは弱いが経験値が高く肉も美味いので長い間いいカモとして見られてきた。
森のタブンネは野生ポケモンの餌になり、道のタブンネはトレーナーに狩られ、街のタブンネは傷を舐めながらゴミを漁る。
いったい今までに何匹のタブンネが死んだのだろうか……。
そんなタブンネにとって、この看板は正に天から降ってきたチャンスであった。
3日後の正午、ヒウンシティにイッシュ中の全ての野生タブンネが集まった。
港には大きな白い船が五隻停まっていた。辺りには誰もいないが、船体には「タブンネ様専用船」とペイントされており、これが楽園への船であること容易に首肯できる。
タブンネたちは我先にとばかりに船にドヤドヤと乗り込んでいく。
船は全て三階建ての大型で、どれも豪華な装飾がされていた。
用意されていた広い部屋でタブンネたちが休んだり遊んだりしている内に船は汽笛を高らかに鳴らして出港した。
「この度はミィミィ号をご使用いただき誠にありがとうございます。ミィミィ号は二時間後に楽園へ到着する予定です。それ
まで船旅を
お楽しみください」
二時間後、船は小さな島へと付いた。タブンネたちは一斉に船を出る。
タブンネの目の前に広がったのは豊かな原っぱであった。日は暖かく、果物のなった木が生えている。
鳥は遊び、虫はさざめく。遠くには小さな家がいくつも見えた。
地面は湿り気を含み所々ぬかるんでいたが、ミズゴロウやドジョッチといったイッシュでは珍しいポケモンが住んでいるので
誰も不満には思わなかった。
今までクズを噛む生活をしてきたタブンネたちにとってここは楽園のようであった。
ミィミィ号は黙って出港していったがタブンネたちは気にも止めなかった。
せっかちな子タブンネが一番に飛び出していった。鳥を追いかけて走り、そして……突然バタリと倒れた。
「ミィッ!?」
子タブンネの母親が顔色を変えて駆け出す。しかし母タブンネは子の元へ辿り着く前に大きく痙攣し、泥の中に没した。
父親らしきタブンネの叫びが島中に響き渡る。しかし彼も二人へ向かう途中で倒れ、動かなくなった。
いったいこの親子に何が起こったのだろうか?
この島は大昔、戦争の舞台となった。
敵を効率良く確実に殺すための手段として、人間は改造を施したマッギョを使っていた。
味方の靴と違う足形が乗ったときに反応する機械を付けられ、激しく放電するように育てられたマッギョは対人地雷として
猛威を振るった。
やがて戦争は終わったがマッギョは回収されなかった。マッギョの寿命は長く、今でも生きていて人間を殺すために待ち構えているマッギョが無数にいるのだ。
タブンネが集められた理由は言うまでもなく地雷マッギョの撤去である。
タブンネたちは一瞬にして目の前で全滅した家族を見て、いったいどういうことかと振り返ったが既にミィミィ号は去った後だった。
代わりに看板が立っていたが、地雷マッギョが存在している事しか書かれていなかった。
タブンネたちは一気に地獄に叩き落とされた気分であった。
しかしタブンネに希望が無いわけでは無い。看板の後ろに大きな箱があり、その中には小型掃除機のような奇妙な機械がタブンネの数だけ入っていた。
これらは一種の地雷探知機であり、これを使うことで安全に地雷を撤去できるというわけだ。
地雷マッギョの出す微弱な電流に反応する残数計が腕時計の文字盤ほどの大きさの液晶モニタに表示されており、取り漏らしが起こらないようになっている。
しかしこれらの装備はタブンネを思いやったものでは無い。なぜならこの撤去活動は虐待愛好会によって計画されたものだからだ。
地雷撤去とタブンネ虐待の両方を実現する皮肉な善行である。
何にせよ地雷を全て取り除かないことには幸せな暮らしができないと理解したようで、タブンネたちは死んだ仲間に黙祷を捧げてから探知機を装着し撤去に向かった。
さっそくあちこちでミーミーミーと探知機が反応する。タブンネたちは慎重に歩を進める。先ほどの犠牲で3つの地雷が効力を失ったのか、モニタには97と表示されていた。
地雷に近づくにつれ探知機はミーミーからミヒイミヒイへと探知音を変える。ミヒイミヒイからミギャアミギャアへと変わったときは周囲50センチメートル以内に地雷が埋まっている証拠だ。
そのうち一匹のタブンネが地雷を掘り出した。マッギョのヒレに付いているアンテナ付き機械を取り、踏んづけて壊すとモニ
タの数字は96に変わった。撤去成功である。
と同時に数字は90へと減った。バチバチと激しい音がして6匹のタブンネが泥に埋まる。倒れたときにまた地雷に当たったらしく、頭や腕が吹き飛んでき肉になった。残数84。
地雷にされたマッギョはどれも高齢で、信号機もすっかりボロボロになってしまっている。
そのため放電させてしまった場合は機械を破壊して自身も感電死するので再び作動することはなく撤去数にカウントされる。
優しいポケモンと言われるタブンネにとって、自分のミスで自分だけでなく他人まで傷つくのはどれほど悲しいだろう。
またどこかで弾ける音と共に数字が減っていく。
そんな中、数匹のタブンネがいきなり騒ぎだした。
「ミヒイイイ!もう嫌だミィ!どうしてタブンネちゃんがこんなことしなくちゃいけないミィ!?」
騒いでいるタブンネはどれも耳に小汚いタグや破れたリボンが付いていて、かつては人間に飼われていたであろうことが伺え る。
「マッギョなんかそのうち寿命でくたばるミィ!可愛いタブンネちゃんが助けてやる義理なんか無いミィ!!」
眉を下げながら黙々と作業を続けていた他のタブンネたちは皆、ハッとしてリボンネたちを見た。
「確かに、楽園だと言われて来てみればひどい所ミィ、騙されたんだミィ!」
「タブンネちゃんはこんなところで終わるタブじゃないミィ!」
リボンネの言葉にタブンネたちは同調する。
「今こそ残ったタブンネちゃんたちで生き残るんだミィ!島から脱出するミィ!」
「「「ミィィイーーーーッ!!!」」」
タブンネたちは列を成して一斉に歩き出した。
しかし途中で地雷を踏み、次々と焼き焦がされて死んでいった。
「ミギャアアアーーッ熱いミィィィッ!!」
「フミィイイイイイイ!!」
「ミガガガガガガガガッ!!」
可愛いタブンネちゃんのプライドや知恵などカスのようなもので、何の役にも立たないことを彼らは理解していなかったのだろうか。
モニタに表示された数は0になったが悲しいことにそれを見る者は誰もいなかった。
ただ香ばしく焼ける肉の塊が自然の中に転がっていた。
数年後、旅のトレーナーが島を訪れた。
トレーナーの目の前に広がったのは豊かな原っぱであった。
日は暖かく、果物のなった木が生えている。
鳥は遊び、虫はさざめく。小さな家がいくつも並び、子供たちが跳ね回るたくさんの若いマッギョたちと遊んでいる。
トレーナーは島の入り口に立っている大きな石碑に気付いた。
石碑には「昔の争いの爪痕を癒したタブンネ達、ここに眠る」と書かれていた。
地雷が無くなってからこの島は平和になった。もう地雷に脅えることなく外に出られるのだ。
気候の良さも手伝い、今ではこの島はタブンネの犠牲によって平和を手に入れた楽園タブンネシアと呼ばれ、多くの観光客が訪れる人気スポットとなっている。
終わり
最終更新:2014年09月29日 18:10