イッシュ地方ヤグルマの森―
ここに住まう野生ポケモン達は、一週間ほど前に
タブンネ一家に頭を悩ませていた。
最初のうちは新たな仲間が増えたということで森のポケモン達からも歓迎をされていたが、
森の木の実は底なしの食欲によりあっという間に食いつくされ、糞尿を撒き散らし、それを悪戯に投げつけたり、
注意したポケモン達はタブンネによる攻撃を受け怪我を負う。
放置しておくと今の森の生活は崩れてしまうだろう。
この惨状に耐えかねた森のポケモン達は、今後タブンネのことをどうするか話し合った。
結果、満場一致でタブンネを森から排除するという決断へと至った。
翌朝からタブンネ駆除作戦は執行へと移された。
先陣を切ったのはエルフーン、タブンネの親子を見つけるとふわふわと近寄っていく。
構成は母タブンネに加え、子タブンネが1匹。父タブンネは木の実をとりに出かけているのだろうか。
このままでは森は完全にタブンネに侵食されてしまうだろう。
さて、タブンネ親子はというとエルフーンに気づかず、クッチャクッチャと森の木の実を貪り続けている。
「こんにちは、タブンネちゃん。僕はエルフーンだよ
お食事中にごめんねぇ~、あんまりタブンネちゃんのお子さんがかわいいからつい声をかけちゃった、
もしよかったら後でお子さんを抱っこさせてくれないかな?」
「嫌ミィ、タブンネちゃん一族以外にチビちゃんを抱っこさせるとチビちゃんが汚れるミィ、
それにここの森はタブンネちゃんのおうちだミィ!部外者は邪魔だからさっさと出て行くミィ!」
タブンネのその発言を受けて、エルフーンの顔は一瞬歪んだが再び笑顔で母タブンネの言葉に答える。
「へえ、タブンネちゃんのおうちなら仕方ないね。でもさあ、もう我慢できないんだよ。
タブンネちゃん、君のお子さんを僕にくれないかな?」
そう言うとエルフーンは親タブンネの足に向かってやどりぎのタネを撒いた。
瞬く間に親タブンネの足は蔓によって縛られ、身動きがとれなくなる。
「ミィ!?タブンネちゃんに何をするミィ!こんなことをしてただじゃ済むとは思うなミィ!」
タブンネはブヒブヒと抗議をし、すてみタックルで蔓を引きちぎろうとするが、
固く結びついた蔓は非力なタブンネに引きちぎれるはずもなく、母タブンネは壮大に転んでしまった。
「あはは、そんなブヨブヨの身体で僕の蔓が千切れるわけがないじゃん。
それじゃこのタブンネちゃんは貰っていくから、気が変わったら返してあげるよっ!」
エルフーンは子タブンネを抱えると森の湖へと向かっていった。
「まま、たすけてミィ!タブンネちゃん以外にはさわられたくないミィ!いやぁぁぁぁぁ!」
「チビちゃん!チビちゃん!!!!!!!チビちゃんが汚れるからさっさと離すミィ!」
「君たちよりは清潔な自信があるから、汚れることはないと思うよ。
僕も殺しなんて物騒なことはしないよ、こんなにかわいいお子さんを殺すわけないじゃん
まあ気が向いたら返してあげるよ、それじゃあタブンネちゃんにサヨナラバイバイ♪」
「「「「「ミィィィィィィィィィー!」」」」」
タブンネ親子の悲鳴がヤグルマの森にこだました。
エルフーンはやがてヤグルマの森の湖に到着した。
「さあタブンネちゃん、到着したよ。それじゃあせっかくだし面白いことをしようか、ちょっとまっててね。」
エルフーンは子タブンネに声をかけると、そっとふかふかの葉っぱの下に子タブンネを降ろした。
「ミィ!はやくおうちにかえすみい!おうちにかえるみい!たぶんねじゃないぽけもんなんていや!」
「まあまあ、こんなにいい場所なんだしゆっくりしていってよ。ちなみに僕の名前エルフーンだから覚えてね。」
そう言いつつエルフーンはもこもことコットンガードを生成している。
「これはね、コットンガードっていって・・・と言っても分からないか。
それはさておき、タブンネちゃん喉乾いてるよね?うん、きっとそうだよね。ここの泉の水を飲みなよ。
「べつにのどはかわいていないミィ・・・それにタブンネちゃんはオボンのみのじゅーすしかのみたくないミィ!
こんないずみのみず、きたないし、のんだらおなかこわしちゃうミィ!」
「そんな事言わずにとりあえず飲んでみなよ、呑まず嫌いはよくないよ、タブンネちゃん」
エルフーンはそう言うと蓮の葉で泉の水を掬いとって子タブンネの口に流し込んだ。
子タブンネはたまらず吐き出そうとするが、もこもことした何かに阻害されてしまった。
「好き嫌いはよくないなあ・・・タブンネちゃん?このコットンも泉の水も、残さず飲んでくれよ?」
先ほどエルフーンが生成していたコットンガードは子タブンネの口にねじり込まれていた。
エルフーンが泉の水を掬い、タブンネの胃に流しこんでいくたびに水は綿に吸われ、奥の方へと引きずり込まれていく。
「ミ・・・や・・・ミガァ・・・」
子タブンネは目に涙を浮かべながら小さな手足をばたつかせ抵抗するが、
その抵抗も虚しく綿はどんどん体の奥へと吸い込まれていく。やがて綿は先端が少し見える程度になっていた。
「まあこんな感じかな?タブンネちゃん、森自慢の水はおいしかったかい?まあそんな状態じゃ喋れないか。」
子タブンネはフゴフゴと鳴きながら、口元の綿に手を当ててそれを引っ張ろうとする。
「あ、その綿には触らないほうがいいよ?だって―」
子タブンネはその綿を動かした瞬間、涙を流して地面に這いつくばった。
「だってその綿、君の身体の中に入り込んでるからなあ!」
「まあ、そろそろ飽きてきたし、ママのところに返してあげるよ。それじゃあいこうか、タブンネちゃん。」
エルフーンは涙を流して未だ悶えている子タブンネを抱えて、先程のタブンネの巣へと戻っていった。
エルフーンがタブンネの巣に着くと、母タブンネは先程の場所に立ち尽くしていた。
身体には無数の擦り傷がついており、おそらく何度もすてみタックルで蔓を引きちぎろうとしたのだろう。
「ただいま、タブンネちゃん、いやあお子さんは本当にかわいいねえ。」
「ミィ!早くチビちゃんを返すミィ!返して私をこの蔓から離すミィ!早くしろミィ!」
「分かったよ、お子さんは気が変わったので返してあげる。
それにしても、まだその蔓切れてなかったんだね、情けないなあ。普通のポケモンならとっくに振り払ってる頃なのに。
まあ僕にもどうすることもできないしさ、頑張って!」
エルフーンはそう言うと、子タブンネを母タブンネへ向かって投げつけた。
母タブンネは蔓に足を取られて子タブンネを受け取ることができず、子タブンネは木に激突してしまった。
子タブンネの身体はささくれ立った木にぶつかり、木の皮により傷ついていった。
「だめだなあタブンネちゃんは、自分の子どもなんだからちゃんとキャッチしてあげないと。
もう一回いくから頑張ってキャッチしてあげてね!」
今度は見当違いの、茨の生い茂った場所へと子タブンネの身体は投げられた。
茨は子タブンネの血でところどころ赤く染まり、子タブンネは声にならない悲鳴をあげた。
「やめるミィ!どこに投げているんだミィ!パパが帰ってきたらただじゃおかないミィ、パパは強いミィ!」
「他力本願はよくないな、タブンネちゃん。ほら、キャッチできるまでチャンスをあげるから頑張って!」
そういうとエルフーンは再び母タブンネに向かって子タブンネを投げつけた。
これを繰り返すこと数回、ようやく母タブンネは子タブンネと感動の再開を果たすことができた。
エルフーンはそれを見て笑顔で、
「ママと会うことができてよかったね、おちびちゃん!ママとパパとお幸せにね!」とタブンネ親子を祝福した。
母タブンネは「チビちゃん、よかったミィ!本当によかったミィ!何かされなかったミィ?
タブンネ以外の種族に触られちゃったし、後で体を洗わないといけないミィ!」
「・・・あれ?チビちゃん、口から何かゴミが出ているミィ。分かったミィ、これのせいで喋れないミィ?
今ママが取ってあげるから、ちょっと我慢しててミィ!」
母タブンネが子タブンネの口元の綿に触れると、子タブンネは必死の形相で首を横に振り、小さな手で母タブンネの手を押しのけようとした。
「チビちゃん、痛いかもしれないけど、チビちゃんのためミィ。後でオボンのみをあげるから我慢してミィ。」
母タブンネは綿を口から引っ張る。なかなか抜けないのか、母タブンネの手に力がこもる。
子タブンネは耐え難い痛みから白目を剥き、涙を流し口からは血の泡を吹いている。
母タブンネは子タブンネの口から異物を取り出すということに夢中でそれに気づいていない。
やがて血などを吸って重量を上げた綿は子タブンネの口からすっぽりと抜け、母タブンネは思わずその衝撃で尻餅をついてしまった。
「ふぅ・・・ようやくチビちゃんのキュートなおくちを塞いでいたゴミがとれたミィ、・・・ミィィィィィ!?」
母タブンネが一息ついて先ほど子タブンネの体から出てきた綿を見ると、そこには子タブンネの血で真っ赤に染まった塊があった。
「ゲボォォォォォォオォォォォォオォォォォオォ!」
子タブンネはショックから赤黒い血を口から噴水のように吐き出した。
「チビちゃん!チビちゃん!しっかりするミィ!」
母タブンネは子タブンネに近寄り、慌てて抱き上げる。
「ヒュー・・・ヒュー・・・ウゲェエェエエェェエエェェゲェエエェェ!」
子タブンネは母タブンネに抱き上げられた瞬間また大きく痙攣をし、白、黄色、赤―様々な色の入り交じったカラフルなゲロを吐き出した。
何度も木に叩きつけられたことにより、子タブンネの脆弱な体は内部からダメージを受けていたのだろう。
下半身からは未消化の茶色いオボンのみの残骸やこれまた内臓が垂れ流しになっており、
子タブンネと母タブンネは汚物と血と内臓まみれになっていた。
母タブンネは涙を流しながら必死に癒しの波動をかけ続けるが、損傷が酷すぎて回復する気配がない。
その光景を、エルフーンが爆笑しながら観察していた。
「ま・・・ま・・・ひど・・・ミ・・・」
子タブンネは目から血の涙を流し、全身を赤黒く染めながらそうつぶやくとやがて動かなくなった。
「チビちゃん・・・!?」母タブンネは虚ろな目をして子タブンネに触覚を当てると、引き攣った表情でその触覚を離した。
先ほど、エルフーンが来るまではあれほどまでに元気で生命の鼓動を感じさせてくれたチビちゃん・・・
その鼓動が、何も感じられないのだ。母タブンネは初めて感じる死の恐怖に凍りついていた。
「あーあ、タブンネちゃん、自分の子どもを殺しちゃった。ママ失格だね。
最後はきっと、まま、ひどいミィ・・・って言ってたんじゃないかなあ?
それにしても、おちびちゃん、痛そうだったなあ。ママにキャッチしてもらえずにボロボロになって、
イヤイヤしてたのにママに体の中を引きずりまわされた挙句あんなに血を吐いてさぁ。
あ、僕は悪くないよ?おちびちゃんと森の泉で遊んで、綿でできたご飯をあげておいしい水をあげて、タブンネちゃんに返してあげただけさ。」
エルフーンは母タブンネに声をかけるが、本人は文字通り空っぽになった子タブンネを抱き抱えたまま放心状態だ。
「聞こえてないかなあ?まあ僕はそろそろ帰るね、
最後に言っておくけど、僕はこういう悪戯が大好きなんだ。よかったら覚えておいてね!それじゃ、サヨナラ!」
エルフーンは母タブンネと一瞥し、元の場所へと帰っていった。
母タブンネの慟哭は森へと響き続けた。その声と血の匂いを嗅ぎつけたのか、ペンドラーが母タブンネの前へ現れた。
ペンドラーの角が母タブンネの腹部に突き刺さる。角が抜かれると母タブンネの腹部には風穴が空き、
傷口は毒によりシュワシュワと音を立てて溶け始めているが、自ら子を殺してしまったということと最期の言葉が耳に焼き付いており、
全身を走る熱感と痛み以上に、そちらの方に気を取られていた。生きることを放棄した母タブンネは、
ペンドラーの口に入ると、咀嚼され背骨からバキバキと砕けて行った。
やがて母タブンネの体は完全にひしゃげ、ペンドラーの体内へ飲み込まれると、母タブンネはその一生を終えた。
母タブンネが最期に思ったことは、「チビちゃんごめんなさい」と、ただそれだけであった。
さて、父タブンネはというと―
木の実を探しに森を歩いていた途中、ドレディアに出会った。あたりはすっかり日が落ちていた。
ドレディアは笑顔でお辞儀をしながら父タブンネに挨拶をした。
「あら、かっこいいタブンネさん。よかったら私と一緒に踊っていかない?」
(か、かわいいミィ・・・!どうせ妻も子供も見ていないんだし、このチャンスを逃さない手はないミィ!)
「ミィ!ドレディアちゃんと踊れるだなんて、大歓迎だミィ!」
「ありがとう、それではかっこいいタブンネさん、私と踊りましょ♪」
ドレディアは父タブンネの手を取ると、くるくるとダンスを始めた。
父タブンネは短い足を動かしながらドレディアの動きに合わせていく。
「うふふ、タブンネさん、私の踊りはいかがかしら?」
「ミィ!とっても上手ミィ!かわいいしスタイルもいいし、うちの女房よりずっと・・・」
「あら、お嫁さんがいるのにそういうのはよくないわよ。そんなことより・・・私たちドレディアの得意な踊りって知ってる?」
「あんなのより、ドレディアちゃんのほうがずっといいミィ!・・・ドレディアちゃんの得意な踊り?それって何ミィ?」
「私たちドレディアの得意な踊りはね、・・・「はなびらのまい」よ」
ドレディアがそういうと、父タブンネの周りに美しい花びらが舞い始めた。
「さあ、タブンネさん、私と踊り続けましょう」
ドレディアは父タブンネの手を強く掴み、くるくると回りだす。
回るたびに父タブンネの体は花びらにより切りつけられ、花びらは赤色へと染まっていった。
「ミギャアアアアアアアアアアアア!痛いミィ!死んじゃうミィ!ドレディアちゃん、もっと優しくしてくれミィ!」
ドレディアは舞に夢中で周りの声は耳に入っていない。
回転はどんどん早くなっていき、さながら天然のミキサーのようだった。
「ミィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
父タブンネの切り傷はどんどん深くなっていき、あちこちに鮮血が飛び散った。
花びらと血は月明かりに照らされて降り、赤が血でなければさぞ美しい光景だっただろう。
やがてはなびらのまいが終わるころには、ズタズタになった父タブンネが転がっていた。
「ヒュー・・・ヒュー・・・」
父タブンネは喉をやられており、空気の漏れ出す音が静かな森へと響き渡った。
「あら、もうダウンかしら?だらしないタブンネさんね・・・」
父タブンネは力なくドレディアのことを見て、横たわり続けている。
「それじゃあ、最後の仕上げといこうかしら・・・」
ドレディアが父タブンネの腹部に向かってはっぱカッターをすると、腹はぱっくりと割れ内臓が露出した。
ドレディアはぽっかりと開いた腹部に枝を入れ、ぐちゃぐちゃとかき回すとその度に父タブンネは大きく痙攣し、血を吐き出した。
そしてドレディアが父タブンネの腸を引きずり出し、その腸が父タブンネの目に入ると、そのショックにより父タブンネは息絶えた。
「・・・貴方達が悪いのよ、この森を滅茶苦茶にしたんだから。」
ドレディアはそう言うと、自分の家へと帰っていった。
こうして森に越してきたタブンネ達は駆除され、ヤグルマの森に平穏な日々が戻ってきたのであった。
今後のヤグルマの森の平和も、ポケモン達によって守られ続けていくだろう。
最終更新:2014年09月29日 18:12