薄暗く、冷たいアスファルトに四方を囲まれた無機質な部屋。
室温も低く、床や壁の至る所に埃が舞っている。
およそ人やポケモンが暮らすべき場所に、二人のプラズマ団員がいた。
その表情に卑下た笑みを浮かべ、隣にある巨大な機械と鉄格子に囲われた小さなケージを見つめている。
「いやぁ、ロケット団も中々面白いモンを作りますね」
片方のプラズマ団員がもう一人に対してケージ指差して言う。
その口調からしてこちらが部下に当たるのだろう。
彼が指差したケージの中にはぎゅうぎゅうに鮨詰めされた3匹のタブンネ達の姿。
皆艶やかな毛並みにふくよか且つ適度に太った身体をしており、明らかにトレーナーや愛好家のものだろう。
鉄格子の端からその贅肉がムニュリとはみ出し、痛みと息苦しさに襲われてそうなものだが、どういう訳か皆虚ろな表情で何の反応も示していない。
「まぁな。この装置が修理出来たお陰で人に捕らわれたタブンネを解放してあげた上で、俺達の欲求も満たせる、と」
上官に当たるプラズマ団員も口の端を歪に歪める。
このケージに置かれた機械は以前ロケット団の二人組が使用した催眠装置である。
ロケット団はこれを使用し街中のタブンネを誘拐していたのだ。
その時はイッシュリーグを目指し旅をしていた一団らに破壊され、街にもタブンネ達にも平穏が訪れた。
しかし、その後タブンネを痛めつけることに快楽を覚える外道プラズマ団二人組が発見し修理。
足が付かないよう別の街に装置を移動させ作動。
街から3匹のタブンネを誘拐することに成功し、今に至るという訳である。
「いやぁ、口半開きの間抜け面でこっちにノロノロ歩いてくるピンク豚の頭悪そうな顔ったらなかったッスよ」
言いながら彼の手は小刻みに震え、握り拳を作っては開く行為を繰り返している。
早く目の前のタブンネを“解放”してあげたいのだろう。
「分かった分かった。装置を解除するぞ」
上官が部下の堪え性のなさに苦笑しつつレバーを降ろし、装置の電源を落とす。
ガチャン、といかにもな音を上げて装置の光が消える。
するとケージ内のタブンネの瞳に光が戻り、いつもの呆けた表情を戻る。
寝ぼけた状態に近いらしく、タブンネ達は自らの状況に気付いてない。
「オラ!朝だぞ豚共!」
言うやいなやプラズマ団員がケージの扉を開け、鉄格子を力任せに蹴り飛ばす。
「ミィッ!?」
「ミミミ?」
「ミッミィー!」
いつもの喧しい鳴き声を上げながら半ば無理矢理ケージから出される羽目になるタブンネ達。
狭いケージから解放されたタブンネ達はぷっくりと膨らんだ尻を晒しながら俯せに倒れるが、またすぐに起きあがった。
辺りをキョロキョロしていたが、その視界に人間――すなわちプラズマ団員の二人を見つけると、お辞儀をしたり手を振ったりして、三匹三様に元気に挨拶しだした。
「ミィ……?」
しかし次の瞬間にはその元気は尻すぼみになくなり、今度は不安そうに辺りを見回し始めた。
恐らく今更ながら、ご主人様じゃない人であること、知らない場所にいることに気付き、タブンネ達の心に不安が一気に押し寄せたのだろう。
一匹は既に青い目に涙が浮かんでいる。
人に育てられ、悪い意味で人間慣れしているタブンネ達の行動はそこにいる人間に助けを求めることだ。
とことこと短い足を動かしプラズマ団員にすり寄るとミィミィと甘ったるい声で何かを訴えている。
どのタブンネも優しい主人に育てられ、人を疑うことを知らないのだろう。
そのこと自体はポケモンとして非常に大切であるし、生活やバトルにおける信頼に直結している。
ただし、その純粋さは今この状況に於いてはマイナスにしか作用しないのだ。
「いやぁ~、タブンネちゃんは媚びるのが上手だね」
実にわざとらしいプラズマ団員の優しい声に一番近く身体を擦り付けていたでタブンネは思いが通じたと笑顔を返した。
「だからうぜぇんだよなぁ!!」
「ミギィッ!?」
瞬間、荒くなった口調と共にタブンネの顔面に拳がめり込んだ。
ゴキリ、と鼻先の軟骨が砕ける音の後にタブンネは仰向けに倒れ込んでしまった。
残り2匹のタブンネはその様子を呆然と見ていた。
3匹のタブンネは、真っ当に生きていれば決して向けられることのない悪意の暴力をこの瞬間から受けることになったのだった…
最終更新:2014年10月07日 22:33