ここはイッシュ地方の1番道路。カノコタウン出身の新米トレーナーがトレーナーとしての最初の一歩を踏み出す場所である。
ここの草むらに生息するポケモンは主にヨーテリーとミネズミそしてタブンネの三種類であるが、ここ最近タブンネが生存競争で優位に立ちつつある。
経験値稼ぎの餌食となるタブンネがその理由は単に一つではなく複数ある。
まず新米のトレーナーは揺れる草むらなど発見する事が出来ないのだ。
そして揺れる草むらが発見できるほどのトレーナーならわざわざここでタブンネを倒そうとせず自分が倒せる範囲の最も強いタブンネを狩るため、どの道ここでタブンネを狩ろうとするトレーナーは無いに等しい。
次に、生存競争のライバルとなるポケモンが上級トレーナーによって倒されているのだ。
ある程度対戦に詳しいトレーナーの間では常識となっている経験値とは別のポケモンを育成する要素、通称「努力値」と呼ばれる数値がある。
そしてここに生息するヨーテリーとミネズミはいずれも攻撃の努力値を入手する事が出来るため、物理アタッカーを育成したいトレーナーが揃ってここに足を運ぶのだ。
仮にタブンネに遭遇したとしてもタブンネを倒す事はしない。何故ならタブンネの努力値はHPの為、育成が狂ってしまうからだ。
こうして自分を狩ろうとする者が現れず、自分のライバルのみが狩られていく。この環境はタブンネにとってこれ以上にない物だった。こうしてタブンネは数を増やす事は無くても1番道路間の生存競争において常に優位に立ち続けていたのだった。
そんなある日一匹のタブンネが草むらを歩いていた。するとウルガモスに乗ったトレーナーがカノコタウンに降り立ち、そのまま此方に向かって歩いてきた。
そしてポケットからモウカザルを出し、おもむろにヨーテリー達を狩り始めた。
タブンネは内心ほくそ笑んでいた。ヨーテリーは戦闘能力自体はそれ程では無いが、数の多さと特性物拾いにより、抜群の物資調達力を誇るのだ。いかにタブンネの天下と言えど、このヨーテリーの存在がある限り、タブンネが木の実を独占できる事は無い。
そのライバルが倒されているのだ、実に好都合である。
そしてタブンネも馬鹿では無い。木の実が確保できないのに無闇に子供を作ろうとはしないのだ。タブンネの数がそれ程多くないのはこう言う訳だ。
ヨーテリー達はモウカザルに蹴散らされていく。選び抜かれた優秀な固体にトレーナーが英才教育を施したのだ。野生のポケモンが太刀打ち出来る筈がない。
努力値稼ぎに夢中になるトレーナーだが、次第にタブンネの居る場所に近付いて来た。
だがタブンネは逃げようとは思わなかった。どう言う理由かまでは理解できなくてもタブンネはトレーナーが自分を倒さない事は分かっていた。わざわざ逃げなくても向こうから戦闘を避けていくのだ。逃げる必要等無い。
そしてタブンネは自分の姿を見るや否不愉快そうな表情を浮かべつつも逃げていくトレーナーを見るのが心地よかった。
トレーナーがタブンネに遭遇する。「ゲエェッ!タブンネかよ!」不快そうな声を出し、トレーナーがモウカザルをボールに仕舞った。
コイツも逃げていくのだろう。そうタブンネは確信した。自分と戦う事無く逃げていくトレーナーはタブンネにとって実に愉快だった。
タブンネが笑いを堪えるのに必至になっていると、トレーナーは意外な行動に出た。モウカザルを仕舞ってそのまま逃げる事は無く、別のボールからエルレイドを呼び出したのだ。
こちらはモウカザルとは違い、教育し終わった固体のようで、この1番道路には不釣合いな程の威圧感を放っていた。
「ミィィイイ!?」予想外の展開にタブンネは驚く。今までのトレーナーは皆逃げていたのに何故コイツは逃げないのか。タブンネは理解できない。
「ミィイイイイイイイイイ!!!!」タブンネは叫びながらエルレイドに突っ込み。おうふくビンタを放つ。だがエルレイドに全く効いた様子は無い。
「エルレイド!みねうちだ!」そうトレーナーが指示すると、エルレイドは刃物の様な腕でタブンネを一閃した。
「ウビャアアアアアアア!!」周りの野生のポケモンとは比べ物にならない凄まじい一撃にタブンネは絶叫し、吹き飛ばされていく。
「フン、いい気味だ。さて、興が削がれたな。一旦休憩するか。」そう言ってトレーナーはウルガモスを呼んでその場から去っていった。
みねうちと言う技は決してポケモンを倒す事は無い。故にタブンネは生きているが、最早虫の息だった。エルレイドの強烈な攻撃のダメージが酷く、立ち上がる事が出来ない。
そんなタブンネの周りにポケモン達が。ヨーテリーとミネズミ達である。全員が目の前に転がっているタブンネと言う瀕死の肉塊を見ていた。
「ミィイィ・・・」タブンネは応戦する事も逃げる事も出来ない。それ以前に立つ事も出来なかった。
虫の息のタブンネにヨーテリー達が飛びか掛かる。「ミギャアアアアアア!!!」体中を食い千切られる激痛に襲われながら、タブンネは息絶えた。
それからしばらく、1番道路のヨーテリーとミネズミのレベルが平均的に上がったと言う。
最終更新:2014年10月22日 14:19