あるタブンネさんの受難1

ヤグルマの森にある一人のトレーナーが訪れた
特別な特性を持ったイーブイを籠に乗せて、トレーナーは自転車で辺りを散策し始める
トレーナーがある程度自転車を走らせると草を揺らす音が聞こえはじめてくる
ガサガサと揺れるその草はおおよそ野生のポケモンの行なう行動とは無縁の行動だった
トレーナーは自転車をしまいイーブイと共にその草むらに突撃する
その草むらには、やはりお目当てのものがあった
うっそうと生い茂る緑とは対照的な、自己主張の激しいピンクと薄黄色の体、タブンネがいた
トレーナーはビンゴ!と軽くはしゃぎ指を鳴らす
その指の音を合図にイーブイがトレーナーの前へ、目の前のタブンネへ攻撃を行なう
たいあたり とノーマルタイプの技では最も弱い技ではあるがそれでもレベル差故か、タブンネに確かなダメージを与えた
急に攻撃をされたせいか対処しきれずタブンネはイーブイに吹き飛ばされる
タブンネはたいあたりを負い傷ついた体で逃げ始めた
トレーナーはその逃げるタブンネの背中をじっと見つめる
のろのろと走っているのかもわからないその姿を見てなにかを思いついたのか、笑みを浮かべた後イーブイと一緒にそのタブンネを追いかけはじめた
トレーナーとイーブイはあえて鈍足のタブンネに歩調を合わせて追いかける
追いつくことはないが離されることもない、タブンネは逃げながら時折不安と期待が入り混じった顔でトレーナーの方を見る
そしてトレーナーとイーブイの姿を観測するたびに表情を強張らせ、前を向いて必死に走りだす
タブンネは目をぎゅっとつむり必死に逃げる、何故ここまでするのか
それは倒されたらどうなるかわかっているからだ
タブンネという種族は既に力尽き戦えなくなってもまだ攻撃をされたり、時にはトレーナー自身にも暴行されることがある
体のいいサンドバッグというわけだ
トレーナーは尚もタブンネとの距離を測り、近づいたり離れたりする
そうすることによってタブンネの恐怖心を煽っているのだ

──どうして、どうして逃げ切れないの──

タブンネは恐怖心を抑えて逃げ続けた

なおも必死でタブンネは逃げ続けるが、路傍に転がっていた石に躓き地面に突っ伏してしまう
立ち上がろうとした瞬間、タブンネの上にイーブイがのしかかった
地面に倒れ込んだタブンネはイーブイを退かそうともがくが意味はなかった
イーブイはタブンネの上で何度も跳ね、のしかかる
そのたびにタブンネは短く悲鳴を上げた
ある程度タブンネがボロボロになったらイーブイはタブンネの上から退き、そしてたいあたりを行った
再び吹き飛ばされるタブンネ、先ほどよりさらに遠く飛ばされたが今度は逃げる気力すらなかった、いわゆる瀕死状態になったのだ

──せめて、このまま見逃してほしい──

朦朧とする意識の中でタブンネはそう願った
一方でタブンネを倒したイーブイにも変化が起きていた
体が白く発光し、その風貌が変わっていく
イーブイは見事リーフィアに進化したのだ
先ほどの幼い姿とは打って変わって凛凛しく、そして美しいその姿にトレーナーは思わず息をのむ
そしてリーフィアを抱きかかえ頬ずりをした
なんとか意識を取り戻したタブンネはトレーナーがリーフィアにかまけてるうちに逃げ出そうとした
こっそりとばれないように、音をたてないように逃げ出そうとする
しかしそうはいかなかった、その姿に気付いたトレーナーはリーフィアにたいあたりを命令した
加速をつけてタブンネの背中に思いっきりぶつかる、先ほどとは威力は段違いだ
タブンネは前面を地面に擦りながら吹き飛ばされる、そしてあまりの衝撃の所為かその場で嘔吐した
先ほど食べたであろう消化しかけの木の実が胃液と共にでてくる
疲労と怪我、そして精神的消耗でタブンネはもう限界にきていた

──助けて‥‥お願い、助けて──

タブンネはそう願った、しかしそれは叶わなかった

「リーフィア、はっぱカッターだ」

どこか幼さの残る声でトレーナーはリーフィアに命令する
リーフィアはそれに従い、タブンネにはっぱカッターを行った
鋭く研ぎ澄まされたいくつもの葉が回転し、タブンネを切り刻んでいく
タブンネは叫び声をあげて苦しんだ
四肢の筋を切断され、肉を切られ抉られる、もはや逃げることはできなかった
リーフィアは血の水たまりを作り、その中央で弱々しく息をしているタブンネの元に近寄る

──助けて‥‥死にたくないよ‥‥死にたくないよ‥‥──

力を振り絞りタブンネはリーフィアに命乞いをする
「ミィ、ミィ」とまるで母親にすがりつく赤ん坊のような鳴き声だった
リーフィアに手を伸ばすタブンネだが、リーフィアはその手をはたいた
そしてタブンネにリーフィアはどくどくを浴びせる
紫色の粘着性のある液体がタブンネに降り注いだ
その瞬間タブンネは血ヘドを吐いてもがきくるみ始める
血が沸き立つような感覚と脳が沸騰するような感覚に責められる
タブンネは喉を抑える、というよりはガリガリと引っ掻くような形で苦しむ
糞尿を垂れ流し、赤紫色へと変色した血を傷口から垂れ流し、血の涙を流すタブンネ
どこまで響きそうな低い声の断末魔をあげ、タブンネは絶命した

トレーナーはリーフィアをモンスターボールに戻し、タブンネの死骸を見遣る

「あの時立ち向かってきたら倒せてたかもしれないのにね」

どこか他人事のような口調でそう言い放つと、トレーナーはタブンネの死体を、ヤグルマの森を後にした
そこにはただ誰に埋葬されるわけでも、思われるわけでもない、毒に汚染された物体が存在していた
最終更新:2014年10月22日 14:21