あるタブンネさんの受難5

氷雪が吹き荒れる街、キッサキシティ、そこに一人の中年のベテラントレーナーが訪れた
三十路を過ぎ、どこか味の出ているコートを羽織ったそのトレーナーはやせ細った畑で頭を抱えている農民を見つけた
男は農民に近寄り、そして何か困っているのかを訪ねた
農民はこの街では最近農作物が盗まれる被害が多発していることを話した
シンオウの土地でもキッサキシティは近くの街から圧倒的に離れていて尚且つ周りは一面銀世界だ
週に何度か船で物資が届けられるが、それを含めても作物がないと困る と農民は矢継ぎ早に説明した
トレーナーは顎に手を当て物思いに拭ける
そもそもの話、氷雪地帯に木の実や野菜を好むポケモンが根付くはずがないのだ
ニューラ等は肉を喰らうのに対しユキカブリなどはその辺の雑草を雪ごと食べる
なのにどうして被害がでるのか‥‥

「この問題、私に解決させてもらえないだろうか」

興味がわいたトレーナーは農民たちに対し、そう言い放った

その日の晩、トレーナーは農民たちの畑の周りに自分のポケモンを配置させる
ちょうどその日はあられが吹き荒れていて、雪がくれの特性を持つ二匹にはちょうどよかった
あられの中で身をひそめる2匹のポケモン、その姿は夜なのもあってか視認することは不可能だった
その時だった、農民の畑にいくつかの影が現れた
この地方ではめったに見ることはないピンク色の寸胴体系のポケモン、タブンネだ
複数のタブンネ達は農作物を手当たりしだいに千切りとり、そしてその場を後にする
一匹のポケモンがふわりとした挙動でそのタブンネ達を追いかけていった
もう一匹のポケモンはポケモンセンターで待機してあるトレーナーを呼びに行く
ポケモンセンターのドアが開く、すると吹雪いている夜の暗闇から水色のポケモン、グレイシアが現れた
トレーナーはグレイシアの姿を確認するとすぐさまコートを羽織り、そしてポケモンセンターを後にした
トレーナーが先ほどの畑に行くとそこにはふわりと怪しげに舞う白いポケモン、ユキメノコが居た
ユキメノコは先ほどのように身をひそめておらず、トレーナーでも容易に視認することができた
トレーナーはユキメノコの傍に立ち寄るとユキメノコは先ほどタブンネ達の巣へとトレーナーを案内した

キッサキシティをでて、場所は217番道路、トレーナーは切り立った崖に巣穴のようなものを確認する
このような場所に近づくことはないし、近づかなければ見つけることもできなかっただろう
巣穴の入り口はあまり大きくなく、さらに入り組んでいるのでどうやら人間は入れそうにもなさそうだ
そう判断したトレーナーはグレイシアとユキメノコに巣穴の中のタブンネ達を全滅させるように命令した
まず最初にグレイシア、そしてそれに続いてユキメノコが巣穴へと侵入した
グレイシアとユキメノコが入り組んだ巣穴を進んでいくと広まった場所へと出た
そこには数匹のタブンネ達が身を寄せ合い、盗んだ作物で空腹を満たしていた
グレイシアが現れたことによりその場に居るタブンネ達は酷く困惑し始めた

──みんな落ち着け、ここは俺が引き受ける──

うち一匹のタブンネがグレイシアを撃退しようと戦闘態勢に入る
体を構えて、グレイシアに突進するがそれよりも早くグレイシアはあられをおこした
巣穴の中に小さな雲が現れ、辺りにあられが吹き荒れる
突進を行ったタブンネはいつの間にかグレイシアを見失い、その場で無様にこけてしまった
タブンネはすぐに体を起き上がらせ辺りを見渡す
しかしどこを見渡しても周りはあられが吹き荒れるだけだった
あられにより少しずつ消耗していくタブンネは焦りが生じたのか辺り構わず突進をしはじめた

一方でグレイシアはと言うと奥の方に隠れているタブンネの残党共の目の前に居た
あられの中で喜劇を演じるタブンネを余所にグレイシアはタブンネ達を見下す
子供が2匹に成体が3匹、どうやらこのタブンネ達は親子のようだ
グレイシアは一匹の子供に対してれいとうビームを放つ
れいとうビームを喰らった子タブンネはその場で氷漬けにされ、動かなくなった
氷漬けにされたタブンネを見て一同が叫び出し、絶望した
グレイシアは再び口に冷気をため、れいとうビームを放とうとする
すると一匹のタブンネがグレイシアの前に立ちはだかり、家族を守ろうとした
ガクガクと体を震えさせ怯えているタブンネに対し、グレイシアは足元に冷気のビームを放った
胴に対して短すぎる足がすべて冷却される
身動きが取れなくなったタブンネを余所にグレイシアは後のタブンネ達に目をつけた

──お願いします、子供達は助けてあげてください──

足を氷漬けにされた母タブンネはその場でグレイシアに懇願する
しかしグレイシアがそれを聞きいれることはなかった、残りのタブンネに対して吹雪を放ち、一斉に凍らせる
吹雪を終えた後には趣味の悪い氷漬けのオブジェが完成していた
生き残ったタブンネはその場に崩れ落ち、泣き叫んだ

その直後あられが晴れて中からボロボロになったタブンネが現れる
タブンネは辺りを見渡し、そして趣味の悪いオブジェと崩れ落ちる伴侶
悪魔のような笑みを浮かべてオブジェを尻尾でなでるグレイシアを発見した
タブンネは呆然とし、その場から一歩一歩ゆっくりと歩ゆみ寄る

──どうして‥‥どうしてこんなことに‥‥──

タブンネは誰に言うわけでもなくつぶやいた
グレイシアはその場を後にする、その後再びただ立ち尽くすタブンネの夫妻を霰が覆った
霰が吹き荒れる中からすっと母タブンネは何者かに抱きつかれる
ユキメノコだ、ユキメノコは母タブンネをマイナス50度の冷気で凍らせ、消えていく
その姿を見た父タブンネは必至に追いかける、しかし追いつくことはなかった
伴侶をさらわれ子は失われ、父タブンネは失意に満ち崩れ落ちた
その瞬間、小さい、本当に小さい鼓動をタブンネは聞き捕らえた

一番最初に凍らされた子タブンネはまだ生きていたのだ
氷漬けの子タブンネを抱き、そして氷を溶かそうとする
しかし抱きついただけで溶ける氷でもなく、その小さな命はその生命を終えようとしていた
そうはさせない、と決意に燃える目で氷を削っていく、しかしそれでは間に合わない
最終手段としてタブンネは氷漬けになった子タブンネを地面に思いっきり叩きつけた
バキンという音が鳴り、氷が砕けちる
それと同時に凍っていた子タブンネも砕け、その幼い命は実の父によって奪われた
最後の最後まで彼は哀れな喜劇役者だった

巣穴からグレイシアと手ぶらのユキメノコがでてくるとトレーナーは巣穴を大きな岩でふさぐ
そしてグレイシアとユキメノコに吹雪を撃たせて、それを固定した
これでもう二度とやつらはでてくることはないだろう
そう思ったトレーナーは217番道路を後にした

結論から言うと、タブンネ達はどうやらイッシュ地方出身のトレーナーに捨てられたようだ
極寒の地で彷徨っているとそこにちょうどいい住みかがあり、そこに根付いたと思われる
理由がわかって満足したトレーナーはキッサキシティから船に乗り、ファイトエリアへと向かった
街を覆い尽くす雪雲の上には、太陽が輝いていた
最終更新:2014年10月22日 14:22