紅の剣

最近ジャイアントホールのタブンネが大量虐殺される事件が起こっている。犯人は不明だが、現場の写真に映ってる足跡から恐らく一匹の四足歩行のポケモンである事が分かっている。
ジャイアントホールはイッシュ地方の中でも最高峰の実力を持つ野生ポケモンが溢れる危険地帯で一部の上級トレーナーを除けば誰も訪れない場所である為、全く表沙汰にならない。
そして此処に出入りするトレーナーも、経験値タンクであるタブンネが減っている為、当分は近付かないつもりのようだ。
だが、タブンネとは言え、単身で殺戮できる程の強さを持つポケモン。俺はその存在に対し湧き上がる好奇心に逆らう事は出来ず、ジャイアントホールへ向かった。

ジャイアントホール内部に辿り着くと、そこにはタブンネの死体が無残に散らばっていた。手足が切断されている者、首が吹っ飛んで居る者、腹を裂かれて臓器が飛び出している者、殺され方は多種多用だ。
良く見るとタブンネには、刃物で切られたような傷がある。キリキザンだろうか?だが、キリキザンは四速歩行ではない。すると一体誰なのか・・・?
考えていても仕方が無い。俺はボールからタブンネを二匹出す。理由は当然謎のポケモンをおびき寄せる為の餌だ。
タブンネ達はそんな事全く知る由も無く、餌を求めてくる。仕方が無いので俺はタブンネにオボンの実を一つずつ分け与え、暫く此処で待っているように指示し、その場を後にするフリをして近くの草むらに実を隠した。

しばらくすると草むらの奥から凄まじい殺気を感じた。とうとう犯人が現れたようだ。謎の影はゆっくりとタブンネ達んぼ方向へ近付いていく。当のタブンネ達はオボンの実を食べるのに夢中で全く気付く気配が無い。
ついに草むらから姿を現した。その姿は本来イッシュ地方に存在しない筈のリーフィアだった。だが、そのリーフィアは体の色が普通のリーフィアとは違っていた。
本来リーフィアと言えば、希少な色違いを含めて緑と黄色のような色をした、植物を髣髴させる色調だ。だが此処に居るリーフィアは全身が赤黒く染まっていたのだ。その様はまるで全身に血化粧でも施しているかのようだった。

タブンネ達はリーフィアの存在に気付くと、偉そうな態度で話しかけた。どうやら木の実を強請っているようだ。トレーナーである俺に育てられたポケモンだけあって、野生のポケモンに対してデカイ態度を取っている。
リーフィアはそんなタブンネ達を鼻で笑い、唾を吹きかけた。タブンネ達はこれに激怒。クリムガンに引けを取らない程の真っ赤な顔をしてリーフィアに攻撃を仕掛けた。二匹同時の捨て身タックルだ。
だが、タブンネ達の攻撃はリーフィアに当たる事は無く、虚しく空を切った。

リーフィアは心底呆れたような表情をした。そしてそのままタブンネ達へ向かって走っていく。
タブンネ達は警戒し、防御の構えを取るが、リーフィアは素通りして後ろに回った。
「ミィ・・・?」タブンネ達はリーフィアの行動が理解できず、疑問に満ちた表情をする。各言う俺もいま一つ理解できない。

ミィイイ!」一匹のタブンネがリーフィアに往復ビンタをすべく、腕を振りかぶる。
だが、その腕は上に上がることは無く、ボトリと音を立てて地面に落ちた。
「ミィ・・・?ミィ・・・ィィイイイイイ!!!!」
自分の腕が唐突に切れ落ちていると言う状況。次の瞬間襲い掛かる痛みに、タブンネは発狂して大声を上げる。
「ミィ・・・ミィ!」落ち着いてと言わんばかりにもう一匹のタブンネが呼びかけ、近付こうとする。
だが、歩こうとした次の瞬間、タブンネは前に倒れこんでしまう。石につまずいたのかと思い、自分の足元を見るが、タブンネは言葉を失う。
石につまずいたのではない。自分の足が綺麗に切断されていたのだ。リーフィアは先程ただ通り過ぎていただけなのかと思っていたが、一瞬のうちにタブンネ二匹に斬撃をたたき込んでいたと言う訳だ。

リーフィアはそんなタブンネを嘲笑うかの如く、手を失った方にリーフブレードを叩き込む。タブンネの腹が裂け、血が噴水の如く吹き荒れる。
「チギュアアアアア!!!」タブンネは叫ぶ。そんなタブンネに跨り、リーフィアは容赦なく、執拗なまでにタブンネを斬り付ける。リーフィアが一撃入れる度にタブンネは鮮血を撒き散らし、悲痛な叫び声を上げる。そしてそれはリーフィアを一層赤く染めて行った。
「成る程、奴のあの体の赤は、今まで殺した奴の返り血だったのか。」リーフィアの色の秘密を理解し、そう呟く。そしてその場の様子を見入る。
「ミィ・・ィ・・・」もう一匹のタブンネは恐怖のあまり声すら出ず、すっかり戦意喪失してしまっている。リーフィアはそんなタブンネも容赦なく切り刻んで行った。

自分のポケモンが虐殺されたと言うのに全く怒りは感じなかった。むしろ感動すら沸きあがってくる。
タブンネの同時攻撃を物ともせず回避する身軽さ。一瞬のうちに相手を切断する切れ味の技。そして容赦無く相手を殺せる非常さ。是非とも欲しい逸材だった。
思う存分タブンネを切り刻み、満足そうに帰ろうとするリーフィア。俺はその隙を逃さず、キノガッサを呼び、キノコの胞子を浴びせ、モンスターボールを投げつける。すると意外にもあっさりと捕獲に成功した。
「欲望のままに殺戮をする剣か。さて、どうやって飼いならしてやるか・・・」そう呟きつつ俺はボールを回収し、その場を後にした。
最終更新:2014年10月22日 14:22