タブシュビッツ

灰色の空の下、両脇を荒れ地に挟まれた長い長い道路を緑色の薄汚れたトラックが走っていく
その荷台にはくすんだ色で構成されたその風景にはあまりにも目立ちすぎる、蠢くピンク色の毛玉が満載されていた
それはタブンネ。大人のタブンネ、子供のタブンネ、老いたタブンネ、
まだ自分で歩けないほど幼い赤子やまだ生まれる前のタマゴまでありとあらゆるタブンネが座る隙間もないほどすし詰めに荷台に積み込まれている
床は長時間の輸送の途中で垂れ流すしかなかった糞尿に埋め尽くされ、荷台にはアンモニアの刺激臭が立ち込めてタブンネの鼻と目を突き刺し
赤子タブンネたちはそれに耐えきれず延々と悲痛な泣き声をあげ、
耳のいいタブンネたちはその鼓膜に熱湯をかけられるような騒音にも苦しめられた
普通のタブンネなら車から飛び降りてでも逃げ出すひどい状況なのだが誰もそれを実行に移す事はない
大人のタブンネたちはみな一本の鉄線を編んだ頑丈なワイヤーロープを両手に開けられた穴に通されて全員数珠繋ぎにされているからだ
子供のタブンネたちは恐怖と不安からか親タブンネの毛皮を小さな両手でキュッと掴んで、そこに顔を埋めている
悪臭と騒音と絶望にも似た不安感を載せてトラックは走り続け、やがて高い塀に囲まれた門の前で停まった
その門は入り口が二つに別れていてそれぞれ農場のような場所と工場のような場所に繋がっている
そこには作業員のような格好の男たちと、後ろに大きな荷車を着けた電動原チャリに股がったおばちゃんが待ち構えていた

トラックの荷台の後ろの板が開くと作業員のような男たちがタブンネ達が繋がれたロープを引っ張り、荷台から引きずり下ろした
タブンネ達は悲鳴をあげ手の甲から血を吹き出させながら一列になって痛みから逃れようとするように工場の側へ先導されていく
親のお腹にしがみついたままの子タブンネも多くいたが作業員がくり出したエレキブルによって力任せに引き剥がされ、原チャリの荷車に投げ込まれた
その子タブンネたちの手の中には、親タブンネの柔らかな毛がしっかりと握られている

親タブンネ、子タブンネが分別され、トラックの荷台に残されているのは自分では動けない赤ちゃんタブンネとタマゴに輸送中に衰弱死したタブンネの死体だけとなった
大きなマジックハンドで泣きわめく赤子タブンネとタマゴを回収するとトラックは大きなゴミ捨て場のような穴の前に移動し、荷台を傾けて糞とタブンネの死体をその穴の中に捨てた
一方タマゴと赤子タブンネは糞尿だらけな荷台の床に置かれていたため全身が糞尿にまみれ非常に汚いので作業員に洗われる
洗うと言ってもシャンプーや石鹸など優しい物は使われない。使うのはトラックの荷台を洗うのと同じ車用の高水圧洗浄機だ
一ヶ所に纏められたタマゴと赤子タブンネにノズルが向けられ、扇状に高圧の水が噴射されると
赤子タブンネたちはまるで喉が爆発したかのような凄まじい声で泣き叫んだ
その声を聞いた親タブンネ達は怒りの声(ミィミィなので怖くない)で叫びだし
手を切り裂く鉄縄の痛みを忘れたかのように作業員の先導に逆らって赤子タブンネの方へ向かっていこうとした
しかし作業員は慌てる様子もなく鉄縄をエレキブルに渡し、放電を指示した
するとタブンネたちは一斉に倒れこんで白目を剥き、泡を吹きながらじたばたと悶絶する。まるで一匹の巨大なミミズがのたうち回るようだった
赤子タブンネの洗浄が終わると大人タブンネの電撃ダンスも終わった
赤子タブンネは皆ぐったりとしていて生きているか死んでいるか分からない有り様である
肌を荒い紙ヤスリで激しく擦られる痛みを数分間受け続けてきたのだから当然だが
綺麗になった赤子タブンネとタマゴは子タブンネいる荷車に入れられ、おばちゃんの原チャリに引かれて工場の方へと連れていかれた
大人タブンネの方は半ば引きずられる形で農場の方へ

親タブンネが農場へと入る前にちらりと見た荷車の上の木箱から少しだけ覗いた子タブンネの顔
これがこの哀れな親子タブンネたちの今生の別れとなるだろう

なぜならここはタブンネ達の命を極限まで搾取する地獄「タブシュビッツ」なのだから…
最終更新:2014年11月05日 13:31