驚異的なペースでホームランを量産するメジャーリーガーがいた。
記者達がどういうトレーニングをすればそんなに打てるのかと尋ねたところ、
彼はこともなげに「日常生活で鍛えられたのさ」と答えた。
その秘訣が知りたいと取材を申し込んだ記者達が招待されたのは、彼の実家の牧場であった。
数千エーカーはあろうかと思われる広大な敷地にはたくさんの家畜ポケモンが飼われている。
その中で、彼が最初に案内してくれたのは牧草地であった。
「ここで肥料を撒くのがボールを真芯で捕らえる訓練になるんだ」と彼は言う。
肥料を撒くことがなぜバッティングの訓練になるのかと訝しがる記者達の前に、
牧童がピックアップトラックに乗ってやって来た。
荷台にはベビンネが詰め込まれた大きな籠が10個ほど乗っている。
「チィチィチィ!!「ヂィー!!チィチィ!!」
大騒ぎするベビンネの籠を1つ降ろした牧童は、バットを彼に手渡した。
「いいかい、簡単そうだがなかなかコツが要るんだ」
彼が促すと、牧童はベビンネを1匹掴みだして彼にトスした。バットが振りぬかれる。
「チィィ――――――ッ!!!!」
悲鳴を一声残し、ベビンネははるか遠くまで飛んでいった。500フィートは飛んだだろうか。
そして牧童が次々とトスするベビンネを、彼は全て右へ左へと快打してゆく。
「ヂィ――ッ!!」「チギャァ――ッ!!」「チビィィ―――ッ!!」
牧草地に満遍なくベビンネは飛んでゆく。
大抵は落下地点で即死、辛うじて生き残ってもすぐ餓死して、牧草の肥やしになるのだそうだ。
なるほど、「肥料を撒く」とはこういう意味だったのである。
「いい加減に打つと飛ばないんだよ、こういう風にね」
牧童にトスさせたベビンネを打つと、一見するとさっきまでと全く同じスイングフォームに見えるのに、
グシャリという音がしてベビンネは10フィートも飛ばず、近くの地面にめり込んだ。
「チビャァッ!!」
「芯がずれていては球は飛ばない。ただのトスバッティングと思わず、ボールの真芯を見極めること、
正確なスイングをすることを体に覚えこませるのさ」
そう言いながら彼がまた一振りすると、
「チギャァァァ―――――――――ッ!!!!」
今度は快音を残し、ベビンネは500フィートの彼方へ飛んでいった。
こうして1籠分のベビンネを打ち終わった彼は、牧草地の別の箇所に移動し、
同じように正確なスイングでベビンネを打ち飛ばしていった。
10籠打ち尽くしても、その精密度に乱れは見られなかった。記者達は驚くばかりであった。
次に彼はタブンネ舎に移動した。タブンネ肉の出荷作業を行なうのだそうだ。
肉の出荷がなぜトレーニングになるのか、記者達はまた首を捻らざるを得ない。
そうしている内に、タブンネが牧童達によって引きずり出されてきた。
後ろ手に縛られたタブンネの群れは一様に恐怖に引きつった表情をしている。
失禁している者も少なからずいるようだ。
タブンネ舎の前には、1メートル弱の木の杭が20本ほど打ち込んであり、
その側面にはフックが取り付けられている。
牧童達が、タブンネの後ろ手に縛った縄をフックに引っ掛けると、
もうタブンネは身動きが取れない。簡易拘束台というわけだ。
そして牧童の1人がまた彼にバットを手渡した。そのヘッドには大きな刃が取り付けてある。
バット型アックスと言った方が正しいだろう。
彼はそれを手に取って、拘束された1匹のタブンネの前に立った。
「スイングの正確さはもちろんだが、一番重要なのはやっぱりパワーだね。
僕は昔からこれをやって鍛えてきたんだ」
「ミィーッ!!ミィィィ!!」
泣き叫ぶタブンネ目掛け、彼はバット型アックスをフルスイングした。
「ミィィ!!ミ…!!」
次の瞬間、タブンネの首は吹っ飛び、タブンネ舎の壁に跳ね返って転がった。
「ミヒャァァァァ!!」
それを見た残りの拘束タブンネ達は、気も狂わんばかりに泣いたり喚いたりするが、
彼は力強いスイングで次々と首を刎ねてゆく。
タブンネの胴体は牧童がすかさず拘束台から外し、出荷用トラックに載せられる。
そして1列20匹の処置が済むと、また新たな20匹がセットされ、
彼は再び処刑スイングを繰り返していくというわけである。
「僕の父も、祖父も、ずっとこのやり方でビッグでストロングになったそうだよ。
ミィアドレナリンを出させるにも最適の方法らしいからね」
ちなみに頭の方は、耳と触覚だけを食用に切り取り、残りはやはり肥料になるそうだ。
そして取材を終えた記者達は、さっき彼が加工したばかりのタブンネ肉のステーキを
たらふくご馳走になった。舌がとろけそうな美味さであった。
その中でも特大のステーキを5人分ほども平らげた彼は、こう答えて取材を締めくくってくれた。
「僕が今日あるのも、小さい頃からこうしていろいろな形でタブンネの世話になっているからさ。
大切なのは繰り返す事、おろそかにしない事、そして感謝する事だよ。
ホームランを打った時も、首を刎ねる時も、僕は心の中で呟くのさ。
『God Bless Tabunne』とね」
(終わり)
最終更新:2014年12月31日 20:01