ハツネちゃん その1

わたしはハツネ、タブンネってポケモンなの。
人間のママとマンションで暮らしてるよ。
ママはハツネにとっても優しくて、ハツネもママのために一生懸命お手伝いしてるのよ。
そんなハツネの宝物はママ手作りのハートのリボンよ。
それにママは若いころポケモン美容師をしててシャンプーがとっても上手なの。
毎日朝と夜にわたしを丁寧にシャンプーして、
しっぽもわたあめみたいにフワフワにしてくれるの。
ハツネ、ママのシャンプーもだ~い好き♪
ママはハツネの写真を撮るのが趣味でよく
ハツネちゃん、こっち向いて~」ってニコニコしながら写真を撮ってくれるの。
そしてその写真をインターネットの『タブンネだいすきクラブ』に送ってるの。
そこではタブンネが大好きな人間さんたちがタブンネの写真をみんなで見せ合うんだって。
わたしの写真を見た人間さんは
「かわいいね☆」「優しい」「癒される」「ハツネちゃんマジ天使」ってみんな大喜び。
なかにはハツネにプレゼントしてくれる人間さんもいるのよ。
うふふ、人間さんにも喜んでもらえてわたしうれしいな♪
ハツネは自分もママも人間さんもポケモンさんもみんな幸せに
なれたらいいなっていつも思ってるよ。

「あら、お見合いですって?」
ある日メールチェックをしてたママがつぶやいた、どうしたんだろう?
「ハツネちゃん、あなたとお見合いをしたいってタブンネがいるそうよ」
えっ?お見合いってことはハツネ結婚するの?
ママの話だとお相手はポケモン大会でも活躍しているエリートトレーナーのタブンネで
お名前はオーディンさん。
ママが「お見合いしてみる?」って尋ねてきたからハツネ、「します」って答えたの。
ハツネ、前からステキな王子様と結婚して
大勢の子供に囲まれて幸せに暮らすことに憧れてたの。
「お見合いは来週に決まったわ。気合い入れて頑張るわよ!」
ママもハツネのために燃えてくれてる、ママのためにも絶対成功させなきゃ♪

とうとうお見合いの日がやってきたの。
ハツネはハートのリボンもキマっておめかしバッチリ♪
だけどママったら髪の毛のセットが決まらなくて大慌て。
おかげで約束の時間に5分遅れちゃった。
「遅れて申し訳ございません、ちょっとトラブルがあって…」
ハツネとママはオーディンさんとトレーナーさんに謝ったわ。
「いえいえ、お気になさらず。さあ、席についてください」
トレーナーさんは笑顔で許してくれたの。
そしてオーディンさんはじっとハツネたちを見つめてる。
大柄で引き締まった体に知性を感じさせるたたずまい……まさに王子様♪
オーディンさんを見ていたらハツネのハートはドキドキしてきたの。
だけどそのドキドキをオーディンさんに聞かれちゃったらはずかしいよ……
「オーディンも年頃でね、そろそろ結婚させてやろうと思ったんですよ。
そして相手探しにタブンネだいすきクラブを見ていたら……
人気ナンバー1のハツネさんが僕の目に留まったんですよ。
見た目だけでなく優しさや品のよさが写真からも感じられましたよ」
トレーナーさんはハツネをいっぱい褒めてくれたの。
きっとオーディンさんもハツネに同じ印象を持ってくれてるよね。
よ~し、頑張って成功させるわよ♪ところが……

「ご主人、申し訳ないがこのお見合いは破談にしてほしい」
オーディンさんはいきなりそう口にしたの、まだ始まったばかりなのに…
トレーナーさんもびっくりしてるよ。
「私は写真を見てハツネさんは美しく、内面も磨かれたタブンネという印象を持った。
しかし、1週間前から決まっている約束に遅れたことで私の評価は著しく下がった。
私は約束を守れないポケモンと交際、ましてや結婚する気はない、失礼します」
オーディンさんはそう言って席をはなれたの。
「すみません、うちのオーディンが……」
そういってトレーナーさんも帰っちゃった。
えっ?どうして帰っちゃうの?待ってよオーディンさん。
ハツネあなたとお話ししたいよ、デートしたいよ、ねえ、オーディンさ~ん!
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ハツネ、かなしくてその日ずっと泣いていたの。

「早く起きなさい!!」
次の日の朝、ハツネはママの怒鳴り声で目が覚めたの。
お寝坊さんしてないのにママどうして怒ってるんだろう……
ハツネはママが怒っている理由を考えながらシャワー室に行こうとしたら
「私シャンプーしたくないから自分で体洗ってね」。なんて言うの。
ハツネ、ママにシャンプーしてほしいのに……

その日からママは変わってしまったの。
ハツネにしてくれることはご飯にオレンのみをくれるだけ。
昨日まではオボンのみだったのに……
お手伝いをしても何にも言ってくれない。
毎日たくさん撮ってくれた写真もあれから一枚もとってくれない。
昼間はハツネを置いてどこかに行っちゃうの。
そして何よりシャンプーしてくれないのが一番悲しいよ……
自分でブラッシングしようとしても手が届かないから
しっぽはフワフワにならないしピンクの毛並みもボサボサ。
ママのシャンプーあったかくて気持ちよくて心もピカピカになるのに…
ママ、本当にどうしちゃったの?

さみしいハツネはママにどうしてかまってくれないのか聞いてみることにしたの。
そしたらママは怖い顔して
「こないだのお見合い失敗してからもうアンタ育てる気なくなったの」
って冷たく言ったの。
ひどい……確かにお見合い失敗したのはハツネも悲しいけど、それだけで……
ハツネはママに泣きついたよ。
そしたら「触らないで!」ってハツネを突き飛ばしたの。痛いよ……
「せっかく私がアンタを世界一可愛いタブンネにしたのにどうして失敗するのよ!
アンタ相手のタブンネ怒らせるようなことしたんでしょ!」
怒ったママはうずくまってるわたしに何度もキックするの。
違うよ!オーディンさんは遅刻したから怒ったんだよ。
それにその遅刻だってママが……
ハツネは説明するけどママは「ミイミイうるさい!」って
頭を何回もふみつけるの、ハツネの鼻からは血がいっぱいでてる……
「本当はアンタ捨てたいんだけど、この町は条例がうるさくて捨てたり
エサを与えなかったりすると私がつかまるからね、しかたなくエサだけやってるのよ!
家においてもらえるだけ感謝しなさい!」
そう言ってママはお外に出て行っちゃった。
ハツネ、ママに嫌われちゃうしアザもいっぱいで体もハートもボロボロだよ……

それから数日後、ハツネがシーツを干しているとママの呼ぶ声が聞こえたの。
ハツネを呼んでくれるなんて何日ぶりだろう♪
ハツネ、うれしくなっちゃってスキップしながらママのところに行ったよ。
そしたらママ、「タナカさんのミカエルがあんたとデートしたいんだって。
私OKしといたから明日行ってきな」って私に伝えた後ゲームをし始めたの。
ママと遊べると思ってたのに……でも、デートだって♪うれしいな♪
次の日、ハツネは1時間も早く待ち合わせの公園に行ったよ。
ママがシャンプーしてくれないからちょっとしっぽがフワフワじゃないけど……
ちゃんとブラッシングもしてハートのリボンもつけてきたよ。
ハツネの王子様、早くこないかな~♪
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「ハツネちゃ~~~ん」あっ!ミカエルさんがきたみたい。どんなタブンネさんかな?
ハツネが振り返ると、ポテチの袋を持ったタブンネさんがドスドス走ってきたの。
走るたびにおなかがタプタプ揺れてる、ぽっちゃりタブンネさんなのね。
「フヒ~、ハツネちゃんに会えてうれしいよ。そこの木の下でお話ししようよ☆」
そういってミカエルさんはハツネの手を握って歩き出したの。
ミカエルさんの手って汗とポテチの油でぬるぬるして気持ち悪い……

木の下でハツネはデートを盛り上げようといっぱいミカエルさんにお話ししたよ。
それなのにミカエルさんはポテチを食べながら相づちをうつだけ。
本当にハツネとデートしたかったの?
そう思ってたらミカエルさんが真っ赤な顔して急に立ち上がったの。
「う~~ん『ブリリリリィ!!』」
なんとウンチをしはじめちゃったの!
やだ!女の子の前でウンチをするなんて最低!
だけどミカエルさんはハツネのことなんかお構いなしで
「フヒ~スッキリしたらおなかがすいちゃった~」って言って
なっているきのみをむしっては食べ始めたの。
公園のきのみは食べちゃダメってママが言ってたよ!
ミカエルさんの態度にハツネついに怒っちゃった。
マナーも守れない、自分のコトばっかり考えてちゃダメだよ!
そう注意したらミカエルさんは
「フヒ~、オレにかまってほしいのか~」
ってハツネを押し倒したの!
「ハツネちゃん、オレの子供いっぱい産んでね~フヒ~」
そして、ハツネの口にミカエルさんの舌が入ってきたの……
ミカエルさんの舌はポテチときのみでザラザラしてるし、息もクサいし
気持ち悪いよ……
キスってもっとロマンティックで甘いものだと思ってたのに……
「フヒ~ハツネちゃんの口はいい匂いだね!オレ興奮してきたよ~!フヒ~フヒ~」
ミカエルさんは息を荒くしてハツネを見つめている、こわいよ!こわいよ!
誰か助けて!!

「フヒ~ハツネちゃ~ん!」
ミカエルさんはハツネに倒れ掛かってきたわ。
ハツネは怖くて目を閉じちゃった。
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あれ?何もしない?
ハツネはおそるおそる目を開けてミカエルさんを見たの。
そしたらミカエルさん、頭から血を流して死んじゃってたの。なんで?
「公共の場でウンコして、きのみ盗んで挙句の果てには糞豚作りかよ」
「こんな害獣は即始末しなきゃいけねーなぁ」
そこには鉄砲を持った2人の男の人がいたの。
この人間さん、ハツネも殺すの?いや!ハツネ何も悪いことしてないよ!
ミカエルさんも盗み食いとかしちゃったけど……殺すなんてひどい!
「ミイミイミイミイうるせーなぁ、マジでぶっ殺したくなるぜ」
「おい、こっちの雌豚は俺にやらせろよ。心臓打ち抜いてやるぜ!」
そういって金髪の男の人はハツネに銃口を向けたの。
もう逃げられない……ハツネは天国に行けるようお祈りをしたの。
そしたら、急にまぶしい光が降り注いだの!
「ぐわっ!これはフラッシュ?いったい誰が?」
ハツネもわからないよ!けどこれからどうすれば……
「こっちに来い!」
そのとき遠くから別の人間さんの声が聞こえてきたの。
きっと助けてくれるのね。
ハツネは声の方に一生懸命走ったよ。
そしたら…… ガッ!!
頭に強い衝撃を受けたの、ハツネはそのまま倒れちゃった。
「ご苦労ジュプトル。よし、社長のところに持っていくか」
その声を最後にハツネは意識がなくなっちゃった……
最終更新:2015年01月03日 00:49