夏休み
それは大人子供問わず、ありとあらゆるシガラミから解放される至上の一時
仕事に打ち込む社会人すら長めの休暇を貰い、子供に至っては四十余日の休日を貰う
活字をひたすらに読み解く毎日から一転、その間こなす課題などささやかな障害にも成らない程に気分を高揚させる物だ
勿論それは此処、イッシュ地方に置いても同じことだ
ヒウンシティとソウリュウシティ等では差異こそあれど、その根本は変わらない
そしてそれは野生のポケモンに置いても同じことである
普段人気の少ない森に、ポケモンを捕まえようと子供達が遊びに来るからだ
人気があるのはペンドラーやヘラクロス。そちらで言うオオクワガタやカブトムシを捕まえる感覚だ
ポケモンにとっては一時的とは言え、新鮮な遊び相手が大量に増える
森に籠りきりなポケモン達にも喜ばしい事だ
それは勿論、タブンネという非好戦的な種族に置いても同じこと
んな訳ない
タブンネの種族はその夏休みの期間が来ないことを切に願いながら夏期を向かえるのだ
大概の人が経験したであろう、「昆虫をバラバラにする」という残虐な行為、
その標的にされたのは、大体が対抗手段を持たず、人気が無い生物だったろうと思われる
蟻を初めとして、虻、バッタ、中には蝉をバラしたという人さえいるだろう
と、なると夏期に置けるタブンネの立ち位置は想像に難くない筈だ
「ミッ…ミッ…ミッ…ミッ…」トテトテトテ
「チィチィ……」「チィチッ♪」
此処はヤグルマの森。比較的危険性の薄いポケモン達が多く棲息する、タブンネ含む多くのポケモンにとっての安住の地だ
だが、夏期に置いてはタブンネにとっての地獄になる
「いた!」
「おいかけろッ!」
「ミヒィッ!?ミィィィィ!」トテトテトテ
今必死で走っているのは、二匹の子を脇に抱えるママンネ。追いかけるのは二人の少年だ
決して彼等はタブンネを捕まえる為に追いかける訳ではない
その手にはボールでは無くカッターナイフが握られているのだ
「ドッコラー!マッハパンチ!」
「いけっモグリュー!あなをほる!」
「ミィッm ミギュオッ!」
少年達はポケモンを出してママンネを攻撃させる。タブンネとは言えポケモン、しぶとく逃げるママンネは子供には追い付きにくい物だからだ
素早い攻撃がママンネを捉え、ママンネは宙を舞う。両手を伸ばして不時着しようとするが直ぐに後悔した
ママンネが落下して顔をあげる頃には既にベビンネは少年達に捕まっていた。ママンネは保身の為に、ベビンネ達を空中で離してしまったのだ
少年達に両手を合わせ、頭を前後に振りだすママンネ。タブンネ特有の許しを乞う行動だ
だがそれは元来ポケモン同士に伝わるジェスチャーであり、人間、ましてや異常なテンションの子供からしたら滑稽以外の何物でもない
「なんだこいつ!」
「きもっww」
必死の願いも届かず、少年達はベビンネにカッターを突き立てる
「ヂィミィィイイイ!」
「ミャビャアアアアア!」
「スゲーないてるヤベー!」
「パネェ!」
余りの激痛に身体中を使って叫ぶベビンネ。小さい身体には似つかわしくない
しかし少年達は構わず、無理矢理引き裂きながらもカッターでベビンネの手足をバラしていく
「ミィィィィイイイイ!」
「マッハパンチ!」
ママンネが子を取り返そうと捨て身タックルを繰り出すが、ドッコラーのマッハパンチをカウンターに食らい、後ろにつんのめって倒されてしまう
ママンネが起き上がった頃には、既にベビンネの四肢は切り落とされていた
ママンネは助けに入ろうとしたが、二度の格闘技を食らって体は早くもボロボロ
ただ黙って子が蹂躙されるのを見ている事しか出来なかった。耳を塞いで悲鳴を聞かない様にしながら
ベビンネが草むらに投げ捨てられた。四肢は無く、立派な耳も、生命線の触覚も、命さえも全て切り落とされていた
ママンネは見逃し、子をまた作らせ、遊ぶ
その暗黙のルールの元、タブンネ達の地獄の夏休みは続く
最終更新:2015年01月03日 01:01