秋が終わると冬になる。
長かったポケモンリーグの1年が終わる。
そして、シーズンが終わると契約更改が始まる。
「はい、タブンネ。今年1年お疲れ様」
他のポケモンたちが見ている前でタブンネにお金の入った封筒が渡される。
封筒はとても分厚く、他のポケモンたちの封筒の倍以上の厚みがある。
タブンネは満面の笑みで、封筒を受け取ると「ミィミィ♪」とはしゃいでいる。
これはわが家の契約更改の様子だ。
シーズンの活躍に応じて、ポケモンたちの年俸が決められる。
年俸はわが家のポケモン全部が見ている前でそれぞれに渡される。
年俸という形でシーズンの働きを評価することで、ポケモンたちの競争意欲を高めることができるからだ。
ちなみに、今年の年俸第1位はさきほどのタブンネだ。
大怪我により引退せざるを得なかった先代タブンネと、肉屋との金銭トレードが成立した同僚タブンネの
抜けた穴をたった1匹で見事に埋めたことが評価の決め手になった。
本来なら、3匹でローテーションするサンドバッグを1匹だけで務めたのだから高評価は当然だ。
翌日、タブンネがボロボロになって倒れているのが発見された。
年俸の高いタブンネを妬んだ誰かがやったのだろうが、犯人探しは行わない。
タブンネに負けたくないという競争意識を咎めることはできないからだ。
なにより、タブンネに高い年俸を与えてたのは、こうした事態に対する慰謝料の意味も大きいのだ。
「タブンネ、ポケモンセンターに行くかい?」
そう尋ねると、タブンネはコクリとうなずく。
家からポケモンセンターは遠いので、タクシーを使って行くことにする。
タクシー代はもちろん、タブンネの年俸から出させる。
そんな毎日が続いて春が近づき、いよいよシーズン前のキャンプに突入した。
ここでのトレーニングが今年1年の活躍を生み出すといっても過言ではない。
どのポケモンたちも気合十分だ。タブンネを除いては。
「ミィィ……」
初日の練習を終えると、タブンネがやって来た。
激しい練習の成果なのか、目の周りには青あざができ、表情は暗く沈んでいる
話を聞くと、トレードを志願してきた。
練習についていけないとのことだった。
タブンネからの提案はこちらとしては願ってもないことだ。
すでにタブンネは今シーズン分の年俸を使い切ってしまっている。
ポケモンセンターに行くのにも、チームが自腹を切っている状態だ。
早い話が、チームの年間計画に早くも影響が出ているのだ。
赤字を垂れ流す部門があっては、チームがうまく機能しない。
みんなが少ない年俸でやりくりしているのに、これではいけない。
いくら昨シーズン活躍したと言っても、特別扱いは許されないのだ。
下手をすれば、チーム全体の士気にも影響が出てしまう。
少々惜しい気もしたが、タブンネをトレードに出すことにした。
「さて、みんなに新しい仲間を紹介する」
監督の声とともに、5匹の子タブンネが不安そうな表情で前に出る。
タブンネのトレード先はすぐに見つかった。昨シーズンもトレードに応じてくれた肉屋だ。
タブンネ1匹と、子タブンネ5匹。
サンドバッグが複数ほしかったわがチームと、1年間痛めつけられて熟成したタブンネを求めていた
先方との思惑が一致した形だ。今年は余裕をもってローテーションを組めるだろう。
キャンプが終わり、いよいよシーズンの開幕だ。長いようで短い1年が今年も始まる。
キャンプは成功をおさめ、どのポケモンたちも絶好調だ。
トレードでやって来た子タブンネ2匹が脱落したのは大きな誤算だったが。
しかたがない。今年は3匹のローテーションで乗り切るしかない。
泣き言は言ってられない。
今シーズンの戦いは始まっているのだから。
(おしまい)
最終更新:2015年02月11日 01:47