ポロック

ここはカイナシティ
理由はいらないと思うけど僕はポロック作りにきたわけで。にしても今日はなんか慌ただしいな

「なんだろ…あっ!」
抱えていた実を落としてしまうが、地に着く前に誰かがキャッチしてくれたようだ
「ありがとうございます」
「いえいえ、ポロックかね?」
「はい。オヤツがわりなんです。にしにても今日はなにかあるんですかね」

キャッチしてくれたのは初老の紳士風の男性だった。笑顔が素敵
「今日は我が社と共同開発の新型ポロックブレンダーのプレゼンでね。これもなにかの縁だ、よかったら試運転の見学でもいかがかな」
「いいんですか?楽しみだなあ」
そうこうしてると会場からガタイのいい兄貴がこちらに手をふりながら駆け寄ってきた
「代表!ブレンダー、用意できました!」
「ご苦労。では向かうとしようか。こちらへきなさい」
「はい」

場内に入ると「ミィー!」「ミッミッ!」「ミフゥ」と聞いたことないような鳴き声が
「代表さん、あの声は?」
「ああ、タブンネだよ。ここの地方にはいないから知らないのも無理はないね。私の故郷のイッシュではありふれたポケモンだよ」

そういや食肉の名前だったな、タブンネって
まあ僕はポケモンが食料にされることに特に嫌悪感や抵抗はないしいつも食べてるものだし、せっかくだから見せてもらおう

僕の眼前にあったのは通常の数倍はあるかという巨大なブレンダーだ。四隅に穴があり、そこからなんと晒し首のように頭を出した物体が
ピンク色に天使の羽のような耳、ゼンマイ?みたいのぶらさげて、極めつけはサファイアのような青い瞳
最初に目についた個体はこちらに「ミッ♪」と笑いかけてきた。俺も微笑んで手を振るが、残りの三匹はなんか雰囲気が違う
鼻息荒く怒ってるやつ、涙を流しながら懸命にスタッフを目で追うやつ、目を閉じ…寝てるのかな。鼻からちょうちんが

「さあてはじめようかね。みんな、お客様もお見えだしっかりいこう」
「「「はい!」」」
代表と三人はそれぞれの椅子につく。タブンネの視線がちょうど胸から顔にくる位置だ
中心に巨大な機械がセットされ、いよいよ始まるようだ。基本はポロックなんだな
矢印が回りだし、ポロックのように自カーソルが特定の位置につきボタンを押すと「ミギャアアアアア!」と叫び声があがった

「おお、いまのは一番いいね」
なにいいのか代表に訪ねるとにこやかに答えてくれた
従来のように良し悪し段階が三段に別れ、それを鳴き声で判別できると
「ミギャアアアア」「ミブゥウウ」「ミェッ」等、声長い順に◎○×とか

叫び声が続くとタブンネ達の表情も鬼気迫るもとであったり、ゲロもどしはじめたものもいる
さっき僕が手を振った子は、僕と担当スタッフの男性の顔を交互に見ながら涙を流している
僕に気づいたのかその人が説明してくれた
「この子はそれはそれは大切に育てられた穏やかな子なんだよ。ポロックは実の組み合わせで出来上がりが変わるだろ?これも同じさ」

説明通りただタブンネを使うわけではなく、今回のように穏やか、生意気、弱気、ボケなどいろんな性格を組み合わせていろんな種類を作っていくようだ
代表のタブンネは生意気なやつのようで、血ヘドを吐きながらも代表に赤い唾を吐きかけている
代表は気にせず製作を続けながら小型ディスプレイで残りのタブンネ三体の顔をチェックする

「三番×が多いね」
「すんません。どうもこういうの(タイミング合わせ)苦手で」
「ようは評価は刃が食い込む度合いだからね。×のがミィドレナリンの分泌が多くなるのか?もしくはとことん◎の方がいいのか…」
「ポロックとは違った結果もあるかもしれませんよ」

僕は唾を飲み込みその様子を見ていた。みんな真剣そのものだ
でもタブンネの顔が眼前にあるのはどうなんだろうな…代表みたく唾だらけになるし、他のみたくゲロや媚びて来たり命乞いしててくるのもあるし
と僕が考えていると

「そこなんです!」とボケンネ担当の男性が答えた
「すいません、口に出しちゃったようで」
だがそんな事を気にせず彼は続ける
「表情を見れるのには様々な理由がありましてね。まずミィドレナリンはご存じですか?」
「いえ」
「アドレナリンについては(略)次に性格による分泌の違い等を説明します」


「穏やかンネは信じてた人間の不敵な笑みを見せられながら、自分の体が見えない場所で浅く、深く斬りつけられる恐怖による絶望
生意気ンネ、代表の所のはいいようにされる悔しさ、弱気ンネの命乞いはみたまんまですね
四番のボケンネは催眠術により痛みが緩和されてます
そのアドレナリンを含む肉がブレンダーに通され従来のポロックのように作られるわけです。ちなみにブレンダー内部は企業秘密ってことで」


「なるほど、しかしそれでは反抗的な個体の場合は手間というかなんかイライラさせられますね」
「ああ、やってますよ今」
会長は今までの仕返しとばかりに生意気ンネの顔を鞭で打ち付けていた
気持ち良い音と「ミゥブオオ!」と叫び声があがった

「直接痛め付けることでもアドレナリンが分泌されます。目の前の人間と直接的に顔を合わせられるからこそ出来る芸当ですね。隠し味って思っていただければ」

へえ。つまり様々な種類を作るためには無限のようなパターンから手探りでつかんでいかなきゃならない
何気なく普段つかってるものでもこういった製作側の苦労や苦悩があってこその代物なんだなあ
僕は改めて色々考え直す機会ができて今日と言う日の幸運に感謝した

ブレンダーは停止し、四人は席から離れた。排出口からはポロックによく似たキューブが出てきた
タブンネ達はボッシュートのごとく機械内に消えたのがすこしもっいない気がした


「どうだねお一つ。人間も食べれるよ」
僕はポロックに抵抗はなく、むしろ食べさせる為に口移しもやってるくらいだ。だいたい僕が食べて安心できるやつじゃないと大切なポケモンには与えられないよ
「じゃあ、いただきます………おいしい!」
なんというかおつまみのミートキューブ的なもんだろうと思ってたが、口に広がる濃厚な味わい、でも後を引かない程よい加減
それになんか疲れが抜けたというかさっぱりした気分だ

「すごい!おいしいです!なんなんだこれ??」
僕は大興奮すると会長は満足そうな顔で答えてくれた
「我らの苦心作だからね。それは一般的な栄養補助にあたるポロックだよ。他にも低カロリー、シニア用、育児用、栄養バランスはタブンネの組み合わせでまだまだ作れる」
「なるほど」

「そうだ、きみもやっていきなさい」
「いいんですか!?でも僕タブンネいないです」
「うちのをやろう。どんなタイプがいいかな?」
「じゃあ……」

準備が整い僕は席に付く。眼前にはもう顔をくしゃくしゃにして涙鼻水涎のタブンネ♀
僕が指定させていただいたのはとにかく人間好きなタイプ。信じてたのに裏切られるってシチュに恥ずかしながら興奮しちゃって

「ではお客様をまじえて、はじめようか」
「「はい」」
「よろしくお願いします!」

ふふっ…僕のアダ名…人力TASの腕を見せてあげる。カーソルが合った瞬間連打!

「ミギャギャギャアアアアアアギャアアアアギュウウイ!!ミシャアアア!オオン」
僕の顔面に血の混じった吐瀉物が吐きかけられそれでも一周してまた連打
もう中で刃物がどうなってるのかなんてどうでもいいや!なんか僕目覚めたみたい。なんというか不思議な感覚になる

「代表!彼すごいですよ!速度も過去最高数値に達します!」
「うむ、データは全て記録しなさい」
「残りの三匹も彼の担当タブンネの絶望や苦しみを感じ取ったのか分泌が」
「ようし!我々も彼に負けぬようひたすら連打だ」

場には製作側もいままで聞いたことのないような大絶叫が響き渡ったという

しばらくして本格的なプレゼンや体験会が開催され、場はすごい賑わいを見せた
僕はベンチに座りスタッフから借りたタブンネの生態資料を読んでいた。なるほどねえ、なかなか深い
なんというかあの姿勢というか様々な要素は人を惹き付ける魅力があると思う
カモネギのような絶滅危惧にもならない繁殖力で肉も旨いし優秀なポケモンなんだな

「ああ探したよ」
「あ、代表さん、今日は本当にありがとうございました」
「いやあ我々もあんなやり方があるとは学ばせてもらったよ。君の時のポロックはかなり栄養バランスがよかったし」
「そんな」
「そうそう、これを受け取ってくれ。専用ケースだ。」

それは従来のポロックケースに似ているが、ボールの部分がタブンネの顔のデザインで全体的に可愛らしいピンクのケース
「まだ市場に出てないんだけどねよかったら記念に受け取っていただきたい。遅れたが私はこういう者だ」

ミィフーズ代表と名刺にかかれていた。たしかここって大企業じゃないか!普段食ってるものの会社ってしか知らないけど凄さはわかっていた
「イッシュにくる機会があればいつでも遊びに来なさい。歓迎しよう、トレーナー君」
「はい、御心遣い感謝します。さっそくうちの子達にもタブンネポロックあげさせていただきます」
「私達も様々な地方にこれを展開できるよう尽力していくよ。では失礼」
「ありがとうございました」


「作ったのたくさん貰えたし、はやくみんなにもあげなきゃ。みんな喜ぶ顔だろうな、ふふふ」
タブンネポロックケースを笑顔で握る僕と同じように、ケースのタブンネの顔も笑っているかのように思えた

終わり
最終更新:2015年02月11日 15:23