慈悲

草むらが揺れているので覗いてみるとズルズキンの群れに囲まれ、リンチを受けているタブンネがいた。
一匹のズルズキンがタブンネの尻尾を掴み醜い豚尻を持ち上げ、残ったズルズキン達が蹴る。
既に尻は青紫色に変色し、蹴られる度にタブンネは泣き叫んでいる。
ズルズキン達は豚ケツを蹴ることに飽きたようで、次は二匹が両手両足を押さえつける。
他のズルズキンは煙草に火を付け一服すると、それをタブンネの身体中に押し付けた。
「ミィィィィ!!」と不快な悲鳴が上がる。
もがこうにも手足が押さえつけられているので、ブルブルと肉の乗った腹が揺れるだけ。
何とも無様だ。
仕方がないのでキノガッサにズルズキン共を追い払わせ、タブンネを保護してやる。
しかし、「ミッ!」と震える鳴き声を上げ後ずさる。
恐らく先程のズルズキンやトレーナー等から幾度となく暴行を受けたのだろう。
私からも攻撃されると思っているようだ。
助けてやったというのに、何様のつもりか。
ひとまずキノガッサをボールに戻し、安心させようと木の実を差し出しゆっくり近付いていくが、パニックを起こしたタブンネは私にすてみタックルをしてきた。
直撃を受け私は倒れる。
サンドバック、野生の経験値と碌な呼ばれ方をしないタブンネだが、贅肉の乗った身体から放たれた文字通り捨て身の一撃は、
ただの人間である私には十分過ぎる程のダメージを与えた。


草むらに仰向けに倒れて動けないのを見て、タブンネは弱った足取りで恐る恐る近付いてくる。
そして私の周りに散乱した木の実を拾い始めた。
卑しくもこのタブンネは打ち倒した(と思い込んでいる)私の木の実を奪おうというのだ。
タブンネは強い者には媚び、弱い者には強気に出る意地汚いポケモンである、という噂はあながち間違いではないようだ。
私はタイミングを見計らい、木の実を拾うタブンネの首根っこを掴みマウントポジションを取った。
元々のダメージのせいか少し首を絞めればタブンネはすぐに大人しくなり、恐怖からか泣き出してしまった。
今更泣けば許して貰えるなどと思っているのか。
図々しいにも程がある。
私は「捕まえたぞ。もう逃がさない」と告げ、恐怖と絶望に泣きじゃくるタブンネの痣に傷薬を丁寧に塗ってやった。
きょとんとした様子のタブンネ。
頭の悪い豚だ。助けてやると言っていただろう。


私は治療を一通り終わらせ、毛布にくるませてやる。いつの間にかタブンネは寝てしまっていた。
毎日トレーナーや他ポケモンから逃げ回っていた疲れが出たのだろう。
どうやら私のことを信じてくれたらしい。それは私の腕に触れている触覚が何よりの答えだった。
最終更新:2014年06月18日 03:13