ここはとある草むら、多くの野生ポケモンが生活している。
その草むらにはオレンの木が点在しており、きのみを主食とするポケモンは
その近くに巣を構えている。
あるオレンの群生地、その木の下ではミルホッグ・ミネズミの群れが
オレンのみを食べている。
そのまわりでは別のミルホッグ達が周囲を見回している。
これは彼らの見張りを行う習性からくるものであり、
群れ全体で食事をとらず、見張りと食事を交代で行うのである。
そしてミルホッグ達の食事している木の上ではマメパトがオレンをついばんでいる。
ミルホッグ達はマメパトを追い払わないのかと疑問に思う者がいるだろうが
マメパトは空からの情報を教えることでミルホッグ達に許可をもらい、
きのみを食べているのである。
ポケモンは違えど同じ草むらにすむもの同士、
彼らは互いに協力しあい、時には共闘したりしていた。
一方ミルホッグ達から少し離れた場所、
そこに彼らを恨めしそうにみる1匹のポケモンがいた。
タブンネである。
タブンネもきのみが好物ではあるがミルホッグ達のように木の下で
食事をとることはない。
以前あの木でオレンのみをとろうとしたがミルホッグ達に追い払われてしまった。
ポケモンは互いに協力しあうと先で述べたがタブンネは別であった。
ほとんどの野生ポケモンはタブンネに排他的である。
タブンネと友好を深めることは死を意味することを理解しているからである。
タブンネは彼らに怒りこそあるものの再び挑むようなことはなかった。
戦いを挑もうにもミルホッグ達のほうが圧倒的に数が多いため
負けることはわかっている。
生息分布の広さからタブンネは大所帯で暮らすポケモンと誤解されがちだがそうではない。
一つの草むらに生息するタブンネの個体数は
ミネズミやマメパトなどに比べると圧倒的に少ない。
そのため彼らはミルホッグのように群れを形成できず、数の力を使えないのである。
自分だけがなぜこんな目にあわなければならないのか……
タブンネはそう思いながら地面に生えている苦い雑草を口に入れ飢えをしのいでいた。
『ゴロゴロ……ドシャーン!!』
そのとき、大きな雷鳴が響いた。
その音を聞いたミルホッグ、マメパト達は食事をやめ、その場を離れた。
しかしタブンネはその音の方へ向かった。
タブンネは好奇心が強く、気になる音を察知したらその場へ向かう習性がある。
それが例え危険を感じる音であっても何が起こったかを確かめたがるのだ。
他のタブンネたちはその好奇心で身を滅ぼしたこともあるのだが
孤独に生きてきたタブンネにそんなことを学ぶ機会などなかった。
タブンネが音のしたところへ近づくとそこにはライボルトがいた。
このライボルトはこの草むらで最強といわれており
強そうなポケモンを見つけてはその電撃ですべてを倒し続けてきた。
が、そのライボルトは今傷だらけでよろめいている。
そしてライボルトの視線の先にはサイドンと人間の男がいた。
「……まだ立てるとは噂通りの強さだ。ますます気に入ったぜ」
人間……それは野生のポケモンが最も恐れる存在である。
不思議なボールを使いポケモンを自分の支配下に置いたり
修行と称して多くのポケモンを倒している。
野生のポケモンが協力しあう最大の理由は人間にやられないようにするためだった。
「どうだライボルトよ、更なる力がほしくないか?」
男はライボルトに近づき、話しかける。
「グア~~ッ!!」
ライボルトは体から火花を散らし、男に電撃を浴びせようとした。
だが、その電撃は軌道を変え、サイドンの角に当たってしまった。
あのライボルトが一方的にやられるなんて……
タブンネは人間と支配されたポケモンに目を奪われていた。
そして男はバッグからボールを出した。
「お前に残された道は2つ、このまま倒れるか、
俺の仲間になり、サイドン達と戦いの道を歩むかだ。
仲間になりたいのならこのボールに入れ」
男はボールをライボルトに投げつけた。
ボールに入ったライボルトは最初ボールの中で動いていたようだが、
やがておとなしくなった。
「そうだ、それが正しい選択だ、よろしくなライボルトよ」
男はボールの中のライボルトに話しかけた後、ボールをバッグに戻した。
「目的は果たした、帰るぞサイドン」
次に男はサイドンをボールに戻し、代わりにドードリオを出した。
男はドードリオにまたがり、猛スピードで草むらを駆け去って行った。
この草むらで最強と言われるライボルトを圧倒し、支配下におく人間
これを見た野生のポケモンは人間への恐怖と警戒心をいっそう強めるだろう。
だがこのタブンネの関心はサイドンとドードリオにあった。
野生のポケモンは力のあるポケモンでも充分な食事をとり続けることは難しい。
だが、人間のポケモンは洗練され、栄養がいきわたった肉体を持っていた。
人間はポケモンを支配する見返りとして毎日食事などを与えるのだろう。
……人間のポケモンになろう。
タブンネはひとつの決意をした。
人間のポケモンになれば飢えの心配はしなくてもいいし、棲み処も用意してくれるだろう。
だが、ひとつ問題がある。
人間のポケモンになると、今度はサイドンのように闘いを強要されるだろう。
それ以外にもいろいろ仕事をやらされるかもしれない。
食事などを手に入れ、戦わない生活はできないものか?
……できる、タブンネならではの力をアピールさえすれば。
タブンネは少し考え、いいアイディアを思いついた。
準備のできたタブンネは耳をすませ、人間を探し始めた。
今タブンネは聴力のレーダーで二人組を探っている。
タブンネのレーダーはどの距離に誰かがいるのを知ることはできるが、
その距離にいるのは何者かまでは判別できない。
【人間はポケモンと一緒に行動しているだろう】
タブンネはさきほどの戦いから二人組をなしているのが人間である可能性が高いと
予想し、探しているのである。
・
・
「……ミッ!」
そして、ついに二人組の反応をキャッチした。
タブンネは二人組にむかってトテトテ歩き始めた。
歩き始めて10分ほどたった。
タブンネは二人組が人間であることを願いながら歩いている。
そのとき、タブンネの前方にピンク色の煙が立ち上るのが見えた。
この草むらにこんな煙を出せるポケモンはいない……人間だ!
ようやく願いがかなうタブンネ。
「ミィ~♪」
タブンネの顔からは自然と笑みがこぼれ、いつしか走り始めていた。
ついにタブンネは二人組のもとへたどり着いた。
そこには自分と同じくらいの背丈の少女がいた。
そして少女の横ではココドラがいたるところで土を掘っていた。
食べられそうな鉱物でも探しているのだろうか?
何はともあれようやく人間に会えたのだ、早速仲間にしよう。
「ミッミッ~♪」
タブンネは少女に手を振りながら近寄った。
「あっ、タブンネだ!かわいい!」
タブンネの声を聞いた少女はタブンネに手を振りかえした。
土を掘っていたココドラもタブンネの近くに歩いていく。
「ミィ♪ ミィ♪ ミィミィミィ♪」
少女のもとへ来たタブンネは体を揺らしたり回ったりしながら踊り始めた。
なかまづくりのダンスである。
「うわっ、おもしろいダンスだね」
少女はタブンネのダンスをみて楽しそうな顔をし真似をし始めた。
「ミィ♪」
少女のリアクションにタブンネは手ごたえを感じた。
この少女なら間違いなく自分を捕まえたくなる。
このままアピールをし続けようと考えた。
次にタブンネはココドラのところへ行った。
「コォ?」
ココドラは不思議そうな顔でタブンネを見つめている。
『パアァァァ』
そんなココドラにタブンネは両手をかざし、波動をおくった。
波動を受けたココドラは土を掘った時にできた細かい傷がなくなった.
「すごい!タブンネってポケモンのケガをなおせるんだ!」
少女はタブンネの右手を握った。
「ミィ!」
自分を褒めてくれる少女にタブンネは左手をあげ、力強くこたえた。
なかまづくりのダンスといやしのはどうこそがタブンネの秘策だった。
強さを見せるのではなく、友好的な一面と使えるポケモンが少ない
他者への回復能力を見せることでタブンネは人間に捕まえてもらおうとしたのだ。
全ての人間がポケモンを戦わせたり仕事をさせたりするわけではない。
なかにはポケモンを友達として可愛がる人もいるらしい。
そういった話をマメパト達がしていたのを聞いたことがある。
友好的にすれば自分を戦闘要員ではなく可愛がるために捕まえてくれるはずだ。
タブンネはそう考えていた。
「タブンネってかわいいしすごいな~、わたしのポケモンになってよ!」
少女はタブンネに仲間になるよう申し出た。
「ミッミッ♪」
少女の誘いにタブンネは両手を回しながら答えた。
ついに……みじめな野生生活から抜け出せる。
この少女へ可愛さを振りまいている限り自分の将来は約束されたも同然だ。
ピンクのボディーもハートの肉球もふわふわのしっぽも彼女に尽くさせるためにあるのだ。
タブンネというポケモン、てだすけやなかまづくり、いやしのはどうなどを得意とし、
他者に尽くすポケモンのイメージがあるが実際は逆である。
相手のとくせいを自分と同じにさせるなかまづくりをしたり
危険な仕事を仲間にやらせるためにてだすけやいやしのはどうをするなど
主導権は常に自分が握ろうと考えているのである。
このタブンネも少女に養わせるために自ら捕まりに来たのだが、
幼い少女はタブンネの本心にまったく気づいていなかった。
「じゃあモンスターボールにいれてあげるね」
少女はそう言うとリュックからボールを探し始めた。
「……あれ?ないよぉ?」
だがリュックには入っていなかったようだ。
「ミイ!ミイ!」
そんな少女にタブンネは少し声を荒げて叫んだ。
ボールなんていらないからこのまま連れて行けと言っているようだ。
「お~~い!!」
そのとき、別の人間の声がした。
タブンネと少女が振り向くと、自分たちより一回り大きい少年が走ってきた。
「あっ、おにいちゃん!おかえり~!」
「せっかくヤナップを見つけたのに逃がしちゃったよ……
ってあれ?なんでタブンネがいるんだ?
ポケモン避けのお香はまだでているのに……」
兄はピンクの煙を見ながら首をかしげた。
「だいじょうぶだよおにいちゃん、このタブンネぜんぜんおそってこないし
わたしとおともだちになりたいみたい。
おにいちゃん、このコもわたしのポケモンにしていいでしょ?」
少女は兄にお願いした。
「ちゃんと面倒みるんならいいしパパ達も許してくれると思うけど……
お前モンスターボール持ってるのか?」
「ううん、もってないよ。
おねがいおにいちゃん、モンスターボールちょうだい」
頼まれた兄はリュックからモンスターボールを出した。
「ヤナップを捕まえるときにつかっちゃってこれが最後だ。
ちゃんと捕まえるんだぞ」
そう言いながら兄は少女の手にモンスターボールを渡した。
「ミイ♪」
少女の兄が出てくることは予想外だったがモンスターボールも用意された。
後は彼女が投げるだけ……
タブンネは少女に早く捕まえてと体をゆらし、再びアピールをし始めた。
そして少女はボールを投げようとした。
「いくよ~タブン」「待て!」
だが、投げようとした瞬間兄が少女を止めた。
「お前何やってんだよ」
「えっ?タブンネをつかまえるんだからボールをなげるんだよ?」
少女は兄の質問に答えた。
「ちがうだろ、ポケモンをつかまえるときはまず弱らせてからボールを投げるんだ。
ボールは1個しかないんだ。失敗したらタブンネをつかまえられないんだぞ。
確実につかまえたいんならタブンネを弱らせるんだ」
兄は少女にタブンネの捕まえ方を教え始めた。
「ミイィィ!! ミイィィ!!」
その話をきいてタブンネは大声で叫び、両手を前にだし、左右に振り始めた。
苦しみから逃れるために人間のポケモンになるのだ。
人間のポケモンになるのに痛めつけられるなんて冗談じゃない。
タブンネは自分を攻撃しないよう人間たちに訴えた。
「でもおにいちゃん……タブンネいやがってるよ?
ただわたしたちとおともだちになりたいだけじゃないの?」
少女がタブンネをかわいそうな目で見る。
「人間に飼われたがる野生のポケモンなんているわけないだろ。
あれは人間につかまりたくないって言ってるんだよ」
一方兄はタブンネの動作を異なった意味で解釈していた。
「そうなんだ……でもわたしタブンネとおともだちになりたい!
だからタブンネをつかまえる!
ココドラ、タブンネとバトルしてくれる?」
少女は兄の話を信じてしまい、ついにバトルを決意した。
ココドラもタブンネの前に立ち、体を低く構える。
「ミイ!ミイ!ミイ!」
臨戦態勢に入ってしまった少女たちにタブンネは攻撃しないようアピールし続けるが
少女たちは聞いていなかった。
「ココドラ、たいあたり!」
「コオーーーーッ!」
そしてついにココドラがタブンネに向かってきた。
「ミミッ!!」
タブンネはココドラが向かってくるとわかりおどろいた。
が、以前戦ったミネズミ達に比べると動きは遅い。
何とか避けられそうだ。
「ミイッ!」タブンネはココドラが1mほどまで近づいてきたところで避ける。
「コオーッ!」一方ココドラはタブンネが避けても方向転換ができずブレーキをかけた。
「ミィ……」
ココドラのたいあたり、動きを見てタブンネは胸に手を当て、ほっとした。
このココドラは戦ったことがほとんどなく、トレーニングもしていないようだ。
厳しい野生の世界を生き抜いてきた自分の方が強い。
ならばとにかくココドラの攻撃を避け続け、少女に攻撃をやめさせよう。
タブンネはそう考えた。
「がんばってココドラ!もういっかいたいあたりよ!」
少女は再びココドラに指示をした。
「コオッ!」
ココドラは鎧のような体を何度もタブンネにぶつけようとした。
だが、タブンネは寸前で何度も避けるのだった。
「うう……」
一方2匹の戦いを見て兄はイライラしていた。
駆け出しのポケモントレーナーである彼に同じことが繰り返される展開が許せないようだ。
「おい!何やってんだココドラ!
攻撃が当たらないならどうすれば当たるか考えろ!」
兄の大声が草むらに響き渡る。
「そんなこといってもタブンネはあとちょっとのところでよけちゃうし……」
兄の言葉に少女は下をむいてうつむく。
「コォ……」ココドラも少女の期待にこたえられないことがくやしくて地面を見つめる。
「ミッミッ!」
そんな少女たちを見てタブンネはモンスターボールを指さしながら
早くモンスターボールをなげるよう少女に訴えている。
「自分はつかまえらないからボールをしまえってか……くっ、見てるとムカつくぜ」
兄はタブンネをみながらつぶやいた。
「コ……コッ!」
そのときココドラが何かを思いついたのか顔をあげた。
「コオッ!コオッ!」
そして少女に自分にまかせろと話しかける。
「できるのココドラ?おねがい!がんばって!」
少女はココドラに希望を託した。
「コオーッ!」
そしてココドラは再びタブンネに向かってきた。
「ミィ?」
ココドラは別に変化はない……またひきつけて避けようと考えた。
ココドラが近づいた、タブンネは左によけようとした。
しかしココドラは急に体当たりをやめた。
「コココココ!」
そして足を使い地面を削り始め、掘った土が四方八方に飛び散った。
「ミヒッ!」
タブンネは目をおさえてよろめいた。
掘った土が目に入ってしまったようだ。
「なるほど、目をみえなくして動きを読まれないようにしたのか。
すごいぞココドラ!」
兄が感心したように大声を出す。
「コオーッ!」
そしてよろめいたタブンネめがけてココドラが再びたいあたりをしかけた。
「ミイッ?」
そのことに気づいたタブンネは聴力を集中させる。
目が見えなくとも耳を使えば相手との距離は測れる。
タブンネは聴力を頼りにココドラから距離をとるため離れ始めた。
『ガクッ』
だが途中タブンネは急にバランスを崩した。
ココドラが掘っていた穴に足を取られてしまったようだ。
聴覚で敵の位置を知ることはできても地形まで読むことはできなかったのだ。
「あっ、タブンネがころんだ!いまよココドラ!」
「コオーッ!」
『ドゴッ!』
そしてついにココドラのたいあたりがタブンネの足に当たった。
「ミギャッ!」
タブンネはあおむけに倒れてしまった。
痛い……今まで何度も味わってきたこの苦しみ。
もうこんな苦しみを味わいたくない……
タブンネの目からは涙がでていた。
「すごいココドラ!もっとたいあたりをして!」
だが少女はさらなる追加攻撃を指示した。
「コーッ!」
ココドラがまたおそってくる。逃げなきゃ……
タブンネは立ち上がろうとした。
しかし、左足に受けた攻撃のせいでうまく立てない。
『ドゴッ』
タブンネは再びココドラのたいあたりを受けた。
『ドゴッ』 『ドゴッ』
その後もココドラのたいあたりは何度も続く。
ココドラは小さく、足も遅いためたいあたりを受けても痛くないと思っていたが
ゴツゴツした鎧のような体は重量があり、局所的にジワジワくる痛みが走る。
これならいっそ気絶した方が楽なのだが
幸か不幸かタブンネは丈夫で傷の治りが他のポケモンよりはやいため
気を失うこともなく、痛みを感じ続けていた。
「ミィ……ミィ……」
タブンネはもうやめて、はやくボールを投げてと少女にお願いする。
「おにいちゃん、タブンネいっぱいたいあたりうけたし
もうボールをなげていいんじゃない?」
「まだだ、タブンネは丈夫なポケモンってきいたことがある。
これくらいじゃまだ完全に弱らないはずだ」
しかし兄は少女にボールを投げさせようとしてくれない。
「でも、ココドラつかれちゃってるよ」
「コォ…コォ…」
ココドラは全力で体当たりをし続けたため疲労で息があがっている。
全力で走れるのはあと一度だろう。
「何も考えずにたいあたりばっかりさせるからだ。
いいか、ポケモンバトルっていうのは
相手のいいところや弱点をかんがえて、やるもんなんだ」
兄が少女に注意をする。
「タブンネのいいところ?かわいくて、ポケモンのケガがなおせて……」
少女はタブンネのいいところを考える。
「じょうぶで、みみがよくて……そうだ!ココドラ、アレをやって!」
少女は名案を思い付いたようでココドラに指示をする。
「コオ?」
ココドラは首をかしげる。アレの内容はわかっているが、
少女にやらないよういつも言われているからだ。
「おうちじゃやっちゃダメだけど、バトルのときはやっていいよ。
おねがいココドラ!わたしタブンネをつかまえたいの!」
少女から許可を得たココドラはタブンネの近くにいき、とまった。
「ミィ…ミィ…」
ココドラが何をするかはわからないが、嫌な思いをすることだけはわかっている。
タブンネはココドラにやめるよう何度もお願いする。
しかしココドラはタブンネの願いを聞き入れず、体をふるわせ始めた。
『キィィィィィィィィィン!』
草むらにいやなおとが響き渡る。
「ミギャァァァァァァァァ!!」
その音を聞いたタブンネは耳をおさえながらゴロゴロ転がっている。
「やった!おみみのいいタブンネならこのおとがにがてだとおもったよ」
少女は耳をおさえながらよろこぶ。
「ココドラ、さいごのたいあたりよ!」
そして指示を受けたココドラはのた打ち回るタブンネに全力でたいあたりをしかけた。
「コオ――――ッ!!!」
『ドゴッ!』
「ミギャア―――!!」
タブンネはたいあたりに反応できず、無防備状態でたいあたりを腹部にうけた。
全身から痛みを受けたタブンネはゴロゴロもがいていたがやがて動かなくなってしまった。
「よし、これでいいだろう。モンスターボールを投げるんだ」
兄はようやく少女にボールを投げる許可を出した。
ようやく終わった……今までで一番つらい時間だったがボールにさえ入れば
全てがむくわれる。
この痛みは少女たちを手足のごとく使うことではらしてやろう。
タブンネはもうろうとする意識の中でそう考え、笑みをうかべた。
「いけ~モンスターボール!」
そして少女は両手でモンスターボールを投げ、タブンネに当たった。
………が、ボールはタブンネをいれることなく地面に転がってしまった。
「おにいちゃん?タブンネがボールにはいらないよ?ねぇおにいちゃん!?」
少女が兄の体を揺らしながら叫ぶ。
「う~~ん、ちょっとやりすぎちゃったかな。
モンスターボールはすごく弱った野生のポケモンは捕まえられないようできてるんだ。
ごめんな、攻撃させすぎちゃって」
兄は少女に謝る。
「そんな、わたしタブンネほしいよ……、
そうだ、このコをポケモンセンターにつれていってよおにいちゃん!」
「そんなこと言ったってオレもポケモンもタブンネなんか運べないよ」
「え~ん!!タブンネほしいよ~~!!」
少女は大声で泣き出した。
「ミ……」
タブンネも連れて行ってもらえないことがわかって涙があふれてきた。
動けなくなるまで痛めつけといてなんということだ。
引きずってでも連れていけと言いたかったが、もう声を出すこともできなかった。
「ありゃ?タブンネがやられちゃってる、やっぱり先客がいたのか……」
そのとき、ピクシーを連れた青年が近づいてきた。
ピクシーの聴力を使ってタブンネが誰かと接触したことを知っていたようだ。
「どうしたんだいお嬢ちゃん?そんな大声で泣いちゃって」
青年が少女にやさしく話しかける。
「タブンネと、おともだちに、なりたいんだけど、ボールに、はいって、くれないの」
少女が泣きながら説明する。
「なるほどね、捕まえるために弱らせようとしたけどやりすぎちゃったのか……
いいかいお嬢ちゃん。君がタブンネをつかまえたいのは僕もわかるよ。
だけどポケモンをつかまえるにはお勉強と力がいるんだ」
「おべんきょうとちから?」
「そう、ポケモンは言葉をしゃべれないから僕たちは動きや声、見た目で
そのポケモンが今何を考えているのか、元気かどうかわからなきゃいけない。
弱らせてから捕まえるのもそれができるかのテストだと思うんだ。
タブンネが弱りきってるのがわからなかった君たちに
タブンネはまだはやいってことだよ」
青年たちは兄と少女に優しく話しかける。
「うん、でもタブンネがこのままじゃ……かわいそうだよ」
少女が傷だらけのタブンネをみて悲しそうな顔をする。
「大丈夫だよ、タブンネはすぐケガが治るポケモンなんだ。
ちょっとお昼寝すればこんなケガすぐに治っちゃうよ」
青年が少女の頭に手をのせる。
「ホント!?」
「ああ、だから今日はもうお家に帰るんだ。
そしてポケモンの勉強をして、モンスターボールをいっぱい持ってきてから
またタブンネをつかまえにおいで。
タブンネはきっと君たちを待ってるよ」
「うん、わかった。
いっぱいおべんきょうしてくるからまっててねタブンネ。
さあ、おにいちゃんかえろ?」
こうして少女は兄と手をつなぎ、家に帰った。
タブンネは待ってと言おうとしたが声が出なかったため涙を流すことしかできなかった。
「さてと……帰ったか」
青年は少女たちが見えなくなるのを確認したあと、タブンネに薬を塗りはじめた。
数分後、タブンネは起き上がって声を出せるほどまで回復した。
「ミィ……ミィ……」
タブンネはとりあえず助かったことにほっとし、体をいろいろ動かす。
その後、青年の顔を見た。
「フフフ……元気になったようだね、会いたかったよタブンネ君」
そういって青年はモンスターボールを取り出した。
「ミィ!ミィミィミィミィ!」
タブンネは笑顔で両手を上にあげ、喜んだ。
この人間も自分をつかまえにきてくれたのか。
彼なら自分の体調を見極めてちゃんとボールを投げてくれるだろう。
タブンネはモンスターボールを指さし、早く捕まえてとお願いした。
「なんだい、僕も君と友達になりたがってるようにみえるのかい?」
青年はモンスターボールのボタンをおし、メガニウムを出した。
「ミィ?」
タブンネは青年の予想外の行動にとまどっている。
「僕はね、タブンネを倒すためにここにきたんだよ」
「ミィーーッ!」
タブンネが両手を振り、攻撃しないよう訴える。
だが青年は笑顔で
「君は知らないかもしれないけど人間のなかではね、
タブンネを倒すと強くなれるって話があるんだ。
だから僕もその話にあやかろうと思ってここにきたんだ」
「ミッ……ミィ!」
なんとかしなくちゃ……このままではやられてしまう……
「ミミッ!」
もう後がないタブンネはメガニウムにいやしのはどうをおくった。
「フフフ……自分は戦いたくないと言ってるのかな?
それとも自分は他のポケモンのケガを治せる
すごいポケモンですよってアピールしてるのかな?
だけど僕はそんなことで君を倒すのをやめようと思わないよ。
ね、メガニウム」
「メェ~♪」
メガニウムは目を閉じ、集中し始めた。
するとメガニウムからはどうが出てタブンネの傷を癒し始めた。
「ミィ?」
「じつはこのメガニウムもいやしのはどうが使えるんだ。
回復役は2匹も必要ないんだよ」
「ミ……ミィーーーーーーーーーーーーッ!!」
もう逃げるしかない、タブンネは全力で青年から離れた。
「フフフ……安心しなよ、一撃で楽にしてあげるからね。
メガニウム!ハードプラントだ!」
そして草むらにはタブンネの絶叫が響き渡った。
おしまい
ココドラのいやなおとはオーダイルやジュカイン
メガニウムのいやしのはどうはヤドランからのタマゴ技でおぼえられます。
最終更新:2015年02月18日 17:41