凍みタブンネ

今日はキビシイ冬の寒さが生んだ郷土食、凍みタブンネをご紹介しましょう。

寒風吹きすさぶ田舎町。
昔ながらの丈夫な造りの
納屋の中には、数匹の♀タブンネが
ぽかぽかと暖かい部屋の中、藁で作られた清潔な寝床の真ん中で
ミイミイとかしましくおしゃべりしながらオボンの実を頬張っています。

少し離れた産卵所では
農家のおばちゃんに励まされながら産卵期を迎えたタブンネ達が一生懸命卵を産み落とそうとしています。

やがて可愛い卵が次々にコロンコロンと生まれて来ましたよ。
ここの母タブンネはゆったりとした環境の中で大事に大事に育てられ、質の良い卵を産むと言う事で
色々な商品に貢献しています。

さて。産まれた卵は大切におばちゃんたちが藁で編んだ大きな籠に並べて保管し「ほのおのからだ」を持つポケモンが優しく温めて孵化させます。


ときどき中から赤ちゃん達の愛らしい息吹きの音がするのでしょう。
産後ンネ達も嬉しそうに耳をパタパタそばだてながら疲れた体を休めています。


あっ 卵が小さく音を立てながら孵っていきます。
中からは丸々とした小さな小さなベビンネ達がチィチィと産声を上げながらどんどん卵から這い出して来ます。

みんな健康そうですね。
とはいえベビンネは産まれたてで粘液などで汚れていますので
おばちゃん達は速やかに籠ごと奥へ運びます。
母タブンネ達の「早く赤ちゃんに会わせてね♪」というような甘い鳴き声に送られながら。

さてここからの行程が肝心です。
素早く、かつ丁寧に
おばちゃん達はベビンネの体を温かいお湯で
ママンネの舌が優しく汚れを舐め取るように巧みな指使いで洗ってから
人間の子供のおくるみのようなタオルで水気を拭き取ります。


ふんわりとした毛並みとなったベビンネ達は青いくりくりのおめめをパッチリと開き心地よさ気にチィチィ、ミィミィと思い思いにさえずっています。


するとストン、ストンと小気味良い音が二度響き
フワフワで柔らかいおみみのど真ん中にパンチで開けたまあるい穴が開きます。
これは産湯を使ったばかりのまだ柔らかいままの耳でなければ無駄に痛みを与えてしまい穴の位置がずれてしまうからです。
その穴に編み上げた縄を通して頭の上で縛り上げ
数匹ごとに間を開けて
竹竿にベビンネを吊していきます。
この行程まで孵化をしてからおよそ数分。

日没の時間に合わせますのでママンネ達の産卵は夕方近くに行うのです。

さて、おばちゃん達が竿を持ち上げるとそこで初めてベビンネ達を幼い体に似つかわしくない苦痛が一気に襲います。
タブンネの耳や触覚はご存知の通り神経が多く集まってますからね♪


ベビンネ達の愛らしい声は心地よさそうなさえずりから甲高い悲鳴に一転しますが
そのまま表に担ぎ出されて大きな桶に張っておいた
綺麗な水にざぶんと浸して軽く水を切り
高い物干しに竿を何列にも並べて掛けられて
冷たい風の吹きすさぶ冬の空気にさらされると
キュッと小さな体を丸めて
プルプル震えて皆縮こまります。


一方 産まれたばかりの子を預けているママンネは待てど暮らせど手入れを済ませた子供を抱かせに来てもらえずに
不安げな声を上げ始めますが当然ながら今が忙しいおばちゃんは誰一人ママンネを構いに来ません。
不意に一匹のママンネが
窓の外を覗いて「なにあれ!?」というように上げた絶叫に他のママンネも窓に鈴なりに張り付きます。


窓の外には産湯を使い
ママンネのおちちを求めながら元気な声を響かせてこちらに戻って来る筈の我が子が
揃って小さなおみみに穴を空け竹竿に縄で吊されて寒空の下で震えてるのですから。

あっ、吊されベビンネの一匹が、家の中から自分を見上げるママンネの姿に気づいたようです。

よちよちと空を歩くように
短いあんよをばたつかせおててをいっぱいにママンネに伸ばし
おめめを涙でいっぱいにしてかなしそうに助けを求めています。


その健気な姿に本人以外のママンネ達も涙を浮かべて切ながりますが
みんな暖かい部屋の中から誰一人冷たい夜の風が吹く庭に飛び出して行こうとするものはなく
赤ちゃん達がかわいそう、かわいそうと慰め合いながら泣くばかりです。

ベビンネ達は次々と
ママちゃむいよう、だっこちてよう、おちちのみちゃいよう…と竹竿の上から外の風より冷たいママ達に回らぬ舌で訴え続け

ママァ、ママァ…と
赤ちゃんが普通に求める全てを寒さで呼吸の止まる時までこうしてねだり続けるのです。
泣いて暴れておみみの穴からピリピリ裂けて、地面に落ちるベビンネもいますが、その子にはもう
商品価値はありませんからおばちゃん達すら救いに来てはくれません。

あとはこのまま朝陽が登る直前の頃まで寒風に晒して
昼間の内は暗い所で陰干しをして、夜になったらまた表に干し10日程これを繰り返し、体の芯までカサカサフワフワな感触になれば凍みタブンネの完成です。

頂く時は産湯のような温かいお湯で戻してから
お雑煮のお餅代わりはもちろん煮物などにしても
とろりとした食感を味わえます。
手間はかかりますがそれだけの味と品質は保証します、と
産まれた卵をもう渡すまいと無駄な抵抗をするママンネを足先で軽くあしらいながらおばちゃん達は最高の笑顔を見せてくれました。


元ネタとなった農産物:長野県 信州の「凍り餅」 より
最終更新:2015年02月18日 19:06