ボクはタブンネ。
ママをさがしています。ボクはおねえちゃんやほかのみんなとせまいカゴにのなかにいれられて。
ママはしらないおじさんにおなかに黒いらくがきをされてから、いっしょにうごくおへやに閉じ込められて、ここまでつれてこられました。
それから ママをみていません。
でもママはきっとどこかでボクたちをよんでいると思います。
ボクたちタブンネのおみみはね。すっごくよくきこえるんだから
ママのこえがすればすぐにわかるんだ。
今ボクたちといっしょなのは少しだけママより小さな体の同じタブンネのおねえさんです。
おねえさんはママとおんなじように、ボクとおねえちゃんにおっぱいをのませてくれました。
そう、ママにあいたいの。わたしにもね、あなたみたいな小さな小さな、おっぱいのだいすきな赤ちゃんがいたの。
おねえさんはそういってすこしかなしそうなかおをしました。
けれどおねえちゃんがミイミイ鳴いて甘えると、すこしだけわらってくれました。
ボクもおねえちゃんもわらいました。
ぐい、とボクとおねえちゃんはきゅうに引っぱりあげられました。
やめて!その子たちにらんぼうしないで!!
おねえさんはなきながらボクたちに手をのばしています。
おねえさん、おねえさん、なかないで!
こわかったけれどボクたちは、大きなこえでさけびました。
でも、やっぱりこわい。ボクたち、どこにつれてかれるんだろう…
おねえさんからひきはなされたボクたちは、ここにきたときよりもすこし大きないれものの中にはなされました。
ここはつめたい風もこない。だれかにふまれてぎゅうぎゅうおされることもない。
ボクたちをつれてきたおじさんが、むこうの方からおなじいれものをもって入ってきました。
それはボクたちよりもたくさんの子たちが入れられています。
あっ、見て見て!おねえちゃん。あの子はボクのとなりにいて、お外にむかっていちばん大きな声でないていた子だよ。
それからあの子は…
おねえちゃんたらこっちに向かってニコニコしている男の子に手をふっています。
おじさんはボクたちのとなりにいれものをおくと、ボクたちの方にお皿に入ったお水をくれました。
ボクたちもお水が欲しいよ、お腹が減ったよ!
となりの子たちがおねだりしてるのにおじさんはなにもいいません。
ズルいよ!なんであの子たちだけ!!
いちばん大きな声の子がおじさんに向かって叫んでも、さっきまでニコニコ笑っていた子が
のどがかわいたよお…
と泣き出しても。
そしたら。
きゅうにおじさんがとなりのみんなをつぎつぎに板の上へおさえつけました。
大きな声を出した子が
ごめんなさい、ごめんなさい!もうズルいなんていわないから!とあばれています。
それでもどの子もどんなに泣いてもさけんでも、サクサクと音をたてながらみんなしっぽをきられていきます。
やめて…やめたげてよお…みんなのかわいいしっぽをとらないでよう…
ひどい!なんてかわいそうなことをするの!?
おねえちゃんがおじさんにどなりつけると
おじさんはだまってボクたちの前にしっぽをきられた子をつれてきました。
ボクより小さな女の子。さっききられたフワフワのしっぽをキュッとにぎって泣いています。
ボクたちふたりでなぐさめたけどその子はママ、ママァ…と小さな声で泣くだけです。
そうだ、君たちもママにあえるといいね。きっとそのしっぽをすぐにもとどおりつけてもらえるよ。
そのとき。ものすごい叫びが聞こえてきました。
ジュウジュウ言ってる黒いいれものの中で、大きな声をしてた子が今まででいちばん大声を出してバタバタと手足をふっています。
むこうにはのどがかわいたと言っていた子が体をさされて火の上におかれパクパクと口をあけくるしそうです。
ふたりの声はどんどんと、うそみたいに小さくなっていきました。
やめて!やめて!
おねえちゃんがガラスをたたいておこっています。
でも…でも…
ふたりとももううごきません。
ちょっとおじさんにどなっただけで。
のどがかわいたっていっただけで。
なんにもしてない小さな子までこんなめにあうなんて。
ひどい…ひどいよ…
上からなにかふって来ました。
イヤア!こないで!
おねえちゃんの方にはばらばらになった大きな声の子の頭がぶつかり
ボクの方にも茶色くなったその子のお手手がぽとりとおちました。
ガラスのそばにもなにかおいてあって。それをみたおねえちゃんがキャッと叫びました。
体をさされてまっかになってやけた子はおめめもまっ白になってしまっておねえちゃんにはもうわらいかけてはくれません。
ボクはあたまがくらくらしました。
あっ、あついっ!
あたまにあついお水がかかってとびおきてみると
そこはさっきのいれものの中。
おねえちゃんは床にねっころがって、ダメ!ダメェー!とだだをこねるみたいに足をバタバタさせています。
おねえちゃんがどんなにおじさんに、やめてほしいと泣いて止めても
おじさんのところからはたくさんの
たすけて、たすけて、ここからだして、あついよ、いたいよ、ママ、ママ…と叫ぶ泣き声がしています。
となりにいっぱい入っていたタブンネの子はだれもいなくなり
そして…とうとうみんなしずかになってしまいました。
こわい。こわい…
だれかきて、ボクたちをここからだして……
きゅうにおそとが明るくなってしらないおにいさんが入ってきました。
ニコニコとおじさんとお話しながら
ボクたちの方を見ています。
ねえ、ボクたちをここからつれてって!
ママのところにかえして!
おにいさんはなにかいいながらニコニコしています。
そして…
茶色くなったばらばらの子を、ふくろに入れてもらいながらボクたちに向かってお手手をふると
そのまま行ってしまいました。
ボクはハッキリきいてしまいました。茶色くなった子のことを、おにいさんはたべてしまうんだ…って。
またべつのしらない人がおそとにいます。
うごかなくなった小さなあの子をつれて行こうとしています。
…たべられちゃうんだ。あの子もきっと、この人に…
その子はママにしっぽをつけてもらうんだから
おねがい、つれていかないで!
おねえちゃんの声にもしらんぷりして
その人も行ってしまいました。
つぎの人も、またつぎの人も…ボクたちがどんなにたすけてほしいといくらよんでも、何もきこえていないみたいです。
もうボクは声をだせません。
のどがからからでめがまわります。
きこえてくるのはおねえちゃんがシクシクと泣いてる声だけです…
おなかが グウグウとなりました。
するとおじさんがじぶんのおなかをちらっとみてから
ボクたちの入ったいれものをもって、またもときたみちをかえって行きます。
おねえさんのかおがみえてきました。あさからずっと泣いていたようなかおでした。おじさんはボクたちをポイポイとかるくほうりなげるとどこかにいってしまいました。
おねえさんはやっぱりまだ泣きながら。そしておじさんにわたされた、ピンク色のおにくをたべてから
ボクたちにおちちをくれました。
おねえちゃんもくやしそうに、おちちをのみながら泣いています。
ボクは…のどもかわいているしおなかもすいてるはずなのに、なんだかむねがムカムカします。
おじさんがぬっと入ってくると。ボクたちふたりをまたとじこめて、おおきなポケモンをだしました。
それはまっすぐ、ひめいを上げるおねえさんのところにむかっていきます
おねえさんをいじめるなー!!
力いっぱい叫びつづけるボクたちを
おじさんは"あそこ"につれていきます。たくさんの小さなタブンネがいたくてこわい思いをしても、だれもたすけてくれないところへ。
おそとがくらくなったころ。おねえさんと、ボクと、おねえちゃんは。
どうしてみんなこんなめにあうの…となぐさめあって
だきあいながらねむりました。
おねえさんのおなかはあたたかくて、ママによくにたにおいがしました。
こないで!あかちゃん達をつれていかないで!!
ふるえながら叫ぶおねえさんの声で目がさめたボクたちはギュッとおなかにしがみつきました。こわくてこわくて大きな声でママをよんだけれど
へんじはきこえてきませんでした。
おじさんがだまってきのみをさしだすと、おねえさんはそれをすこしかじって、やわらかいところをボクとおねえちゃんにくれました。
ほんとうはとてもおいしいきのみなんだろうけれど、ボクたちふたりはもらったきのみも、おちちものむことはできませんでした。
おみずものめずにうごけなくなっていった、みんなをおもいだしてしまうから。
そして今日も。
おねえさんとはなさないでほしいとおねがいしても。
なんにもしらずにニコニコしながらここにはこばれてくる小さなみんなを
どうかひどいめにあわせないでとなんべんボクたちが叫んでも。
しっぽをきって、
あついところにほうりなげて、
おしりからあたまにぼうをさして、
ゆげのたってるいれものにこえがでなくなるまでとじこめて…
茶色くなったり真っ赤になったぼろぼろの体で泣いている子たちが
ボクたちのところにたくさん、たくさん入ってきました。
みんなガタガタふるえながらたすけて…とお手手をのばしてきます。
ゴメンね ゴメンね。
ボクたちじゃたすけてあげられないよ。
ごめんなさい ごめんなさい
おねえちゃんもいっしょになんどもなんどもみんなにあやまりつづけます。
ママとおんなじ"いやしのこころ"があればみんなをたすけられたのに…
ボクたちをみて
うれしそうにお手手をふらないで。
ボクたちをみてたのしそうにニコニコしないでよ。
キミたちがいたくてくるしくて泣いて叫んでても、ボクはゴロゴロころがりながらあやまるばかりでなんにもしてあげられないんだから。
おみみをひっぱってみたらどうかな。
あたまをぶつけてみたらどうかな。
きっとキミたちのほうが
もっともっと…いたいよね。
もう ボクたちは。
おねえさんのよぶこえもきこえない。
どんなにみみをふさいでも
ふりはらおうとがんばっても
みんなのなくこえ さけぶこえ
そんなこえばかりがいつもきこえる。
おじさんがボクのからだをつかんだ。
ぶつり、と
おしりのほうでおとがした。
そこからあたまのてっぺんまでがまっすぐぜんぶいたくなって。
ボクたち、からだにぼうをさされたんだ。
たくさんのみんながそうされたこと、あばれてもにげることができなくて。
まっかに なってしまうんだ
あつい あつい あつい
ボクも そしておねえちゃんも
それしかさけぶことができなくて
いたい いたい
ボクと そしておねえちゃんと
もうひとつちがうこえがきこえた
まちがいない
やっと きこえた
ママのこえ
ボクとおねえちゃんをよんでいる
ママもきっと
どこかでだれかにたべられちゃうんだ
ボクやおねえちゃんがそうなるみたいに
………ママ
まっしろなおめめになったおねえちゃんは
そういってうごかなくなりました
ママ やっとみつけたよ
おねえちゃんといっしょにボクもいくよ
おねえちゃん まって
さいごに。
とおくで
おねえさんのないてる
こえがした。
(終)
最終更新:2015年02月18日 19:12