野生の戦い

あるところに、一匹のタブンネというポケモンがいました、
タブンネは桃色をした体を揺らし、草むらの中で美味しそうに木の実を食べています。

「みぃみぃ♪」

「チィチィ!」「チィ!」

おや、どうやらこのタブンネにはあかちゃんが二匹いたようです、
お母さんであるタブンネは二匹のかわいいあかちゃんを抱き上げると、
よーく熟して柔らかくなっているオレンの実を取り出して、口の前に差し出しました。

どうやらこのあかちゃんタブンネたちはもう乳離れの時期のようです、
よく見れば歯もところどころ生えてきていて、よちよちながらも歩くことが出来ています。

「ヂィィィィ!!」「チィチィィィィ!!」

「みぃ……」

ですが、あかちゃんたちはまだまだおっぱいが欲しいご様子、
お母さんタブンネは困った顔をしていましたが、すぐに笑顔になって
手に持っていたオレンを自分の口に含み、口移しで食べさせました。

「チィ…チィ? チィィィ♪」「チィチィ♪」

あかちゃんたちは最初は驚いて吐き出そうとしていましたが、
それが美味しいと分かると嬉しそうに鳴いて今度は自分から食べ始めました、
お母さんタブンネもその光景を見てニコニコとしています、微笑ましいですね。


ですが、それを微笑ましいと思えないポケモンが居ました、
少し離れた草陰からタブンネたちをにらんでいるケンホロウです。

「……クルルルッ……!!」

実はこのケンホロウ、ずっとまえにここに仲間たちと住んでいたのですが、
新しくやってきたタブンネに縄張りを奪われて追い出されてしまったのです。


あの頃はケンホロウもマメパトで、周囲の仲間もマメパトやミネズミと
体が小さいポケモンばかりだったためにたった二匹のタブンネ夫婦に負けてしまったのです。

この世は弱肉強食、その野生のルールを知っていたマメパト達は
草むらを離れてゆきましたがそこに食べ物は殆どなく、
数多くのポケモンが死んだり行方不明になったりしてしまいました。

その中でもなんとか生き残り、ハトーボーに進化したマメパトは
再び元々自分達の縄張りだった場所に戻って取り返そうとしましたが、
いつのまにかその草原はたくさんのタブンネで溢れていて、諦めざるを得ず退散したのです。


そして今、そのハトーボーはケンホロウへと進化して戻ってきました、
これならどんなに数が多くともレベルが低いタブンネには絶対に負けません、
ケンホロウは低い唸り声を上げると、目の前のタブンネ親子に飛びかかりました。

「ケーーーーンッ!!」

「みぃっ!?」「チィチィッ!!」

先ずは一匹、あかちゃんタブンネがケンホロウの爪で串刺しになり、
目を見開いてお母さんに向かって手を少しだけ伸ばした後に動かなくなりました、
ケンホロウはそのあかちゃんタブンネを投げ捨てます。

「みっ!? みーーーーっ!?」

突然の事態にお母さんタブンネはパニックになりながら
何もかも放り出して投げ捨てられたあかちゃんタブンネの元へ向かいました。

「チィチィチィ!!」

――放り出されてしまったあかちゃんタブンネは、
よちよちしながらも一生懸命鳴いてお母さんタブンネを呼んでいます。

「み、みぃっ!!」

お母さんタブンネは自分では何もできない子供を置いて
走り出してしまったことに気が付き、慌てて振り向きました。

「ケンケーーン!!」

「ヂィ! ヂギッ゛ギィ゛ィ゛ィィ!!」

そこには、あおむけのままケンホロウに押さえつけられるあかちゃんタブンネと
あかちゃんタブンネのお腹を引き裂いて、ないぞうをズルズルと引きずり出している
ケンホロウのすがたがありました、お母さんタブンネはこの世の終わりのような悲鳴を上げます。

「ミ、ミ……ミギャアア゛ア゛ア゛ァァァ!!」

自分が置いてきてしまったばかりにあかちゃんが死んでしまった、
そう思ったお母さんタブンネは後悔してもしきれず、大声を上げて泣き叫びました。

「……クルルルッ……!」

「ミィィッ!? ミ、ミィィィィィ!!」

そこに接近するケンホロウ、その姿に気づいたお母さんタブンネは
あかちゃんたちの死体に背を向けて走り始めました、何も薄情な行為ではありません、
野生の世界ではよく見られる光景です、優しいポケモンと言われているタブンネも所詮野生動物なのです。

「――ケーーーーン!!」

ですが見逃すケンホロウではありませんでした、
両翼から白い波動、エアスラッシュを飛ばしお母さんタブンネの背に深い切り傷を付けます。

「ミギィィッ!!」

お母さんタブンネは鋭い悲鳴を上げながらその場に倒れ込みました、
なかなか起き上がらないところを見ると運悪くひるんでしまったようです。

「ミ゛グッ! ミギィィ!! ギヒィィ゛ィ゛!!」

そんなお母さんタブンネにつぎからつぎへとしろいはどうがぶつかります、
最初の内は悲鳴を上げていたおかあさんタブンネでしたが、
やがてまっかにそまってうごかなくなりました。

「………」

ケンホロウはそれを確認すると、周囲の気配を探り始めました、
さきほどのお母さんタブンネのひめいでかなりの数のタブンネたち集まっているようです。

「――ケエェェェェェン!!」

なかでも大きく揺れている草むらに、
ケンホロウはかまいたちを纏いながら突っ込んでいきます。

――ケンホロウの戦いは、タブンネ達が全滅して再びマメパトやミネズミといった
ポケモン達が帰ってこられるようになるまで終わらないのです――
最終更新:2015年02月18日 19:14