タブやこんこん

「今晩の天気です。○○地方の最高気温5℃、最低気温マイナス3℃、降タブ確率は80%です」

「80%か・・・」俺はため息をつく。確かに雲行きは怪しいと思っていた。
窓を開けてみると、ちょうど空からピンク色の物体が一つ降ってきた。
庭に落下して「ミッ!」とかすかな声を立てる。
続いて第2弾、第3弾が降ってきて「ミッ!」「ミィ!」と鳴きながら庭に転がってゆく。

ああ、本格的に降ってきやがった。「ミッミッミッミッミッ!」庭がたちまちピンク色に染まってゆく。
明日は早起きしないとな・・・

一体何が降ってきたって?
実は冬になると、イッシュの中でも俺が住む地方にだけ、雪ではなくタブンネが降るのである。
半分冬眠したような感じで、体が丸まった状態で降ってくるので、雹か霰のようなものだ。
大半の奴は落下してきても眠ったままなのだが、一部の目を覚ました連中がチィチィうるさいことうるさいこと。
しかも降ってくるのは子タブンネとベビンネばかりで、親タブンネは1匹もいないのだ。

なぜこんな怪現象が起こるのかは全く不明だ。
タブンネの神様が虐待されたタブンネをこの地方に逃がしているのだとか、
空の上にある厳選所のセレクトから漏れた者が投棄されるのだとか、
どこかにあるタブンネだらけの島からハリケーンで飛ばされてきたのだとか、
諸説あるがいまだもって解明されていない。
いずれにしろ、ここに住んでいる俺たちにとっては、はた迷惑な冬の風物詩であることに違いはない。

朝になった。おそるおそるカーテンを開けると・・・ああ、30センチも積もっていた。
あたり一面がピンク色で埋め尽くされ、「チィチィチィ!」「ミッミッミッ!」とえらい騒ぎだ。
ええい、見ていても始まらん。気合を入れて片付けよう。

俺は用意していたスコップを手にし、早速玄関周辺の雪かきならぬタブかきを始めた。
ザクザクとスコップを突き入れる度に、「チギャァァァーー!!」「チッ、チビィ!!」と悲鳴が上がる。
スコップの先っちょに何匹か刺さって痙攣しているが、いちいち構っていられないので無視して掘り進む。
やっと車のところにたどりついた頃には血だらけになっているが、もう慣れっこだ。

車のカバーをはずして、上に転がっていた数十匹を払いのけて、ようやく出勤の体勢が整った。
タイミングよく、除雪車ならぬ除タブ車がやってきて、道路のタブンネたちを掻き分けてくれる。
またも「チビャァァァ!!」「ミヒィーー!!」とひとしきり悲鳴が上がった後、道路のタブンネは除去されて、
道の左右にタブンネの血まみれの山ができていた。これも慣れっこの風景なので、
特に気にせず、このまま出勤だ。

こんな死屍累々の山ができてしまうと、後々大変じゃないかって?
そこは自然界のバランスがうまくできているらしく、タブンネが降った翌日には
どこからかムクホークやバルジーナの大群がやってきて、タブンネを綺麗さっぱり食ってしまうのだ。
街中を鳥ポケモンが飛び回り、逃げ惑うタブンネの阿鼻叫喚が展開されること約1時間。
奴らが去ると同時に、タブンネも見事消え去ってしまうのである。大自然の驚異と言えよう。

      • とはいっても無条件に全て片付くわけではなく、食い残した毛皮や骨や、中途半端に食い千切られた
わずかな生き残りの始末もしなくてはならないので、結局掃除に半日以上かかるのであった。

恐るべし大自然。いい加減にしろ大自然。
最終更新:2015年02月18日 19:30