必殺タブンネ人

「ミッミッミッ、これであの長屋の跡地は我々のもの。
 全ては勘定奉行タブンネ守様のおかげでございますミィ」
「なあにミィミィ屋、持ちつ持たれつだミィ。
 あの跡地にはオボンの木を植えて大儲けするミィ。
 チラーミィやイーブイごときがいくら泣こうが知ったことではないミィ」

「ミッミッミッ……しかしちと気になる話がありますミィ。
 そのチラーミィやイーブイ達が人間の殺し屋を雇ったとか。
 なんでも『タブンネ人』とか申す連中だそうですミィ」
「なあに、恐れることはないミィ。のう、タブ十郎」
「左様でございますミィ。人間だろうがポケモンだろうが、
 長屋を焼き払ったのと同様、拙者の火炎放射で丸焼きですミィ」
「頼もしいぞ、ミッミッミッ♪」「ミッミッミッ♪」


その同時刻。打ち捨てられた廃寺に集う数人の人影があった。
「的は勘定奉行タブンネ守、ミィミィ屋タブ右衛門、そして用心棒のタブ十郎。 
 この仕事、受けていただけますね」
『何でも屋』がそっと小判を置く。話を聞いていた男達がおもむろに腰を上げた。
『簪屋』『三味線屋』『八丁堀』は、それぞれ小判を手に取ると、
めいめい闇の中に姿を消してゆく。

彼らこそ、法で裁けぬタブンネを裁く裏稼業『タブンネ人』であった。

そして夜も更けた頃。
使用人も寝静まった中、ミィミィ屋はそろばんを弾き、金勘定に勤しんでいた。
「ミッミッミッ♪笑いが止まらんミィ」
ほくそ笑むミィミィ屋は、後ろの畳の一枚が音もなく持ち上がった事に気づかない。
その下から顔を出したのは『簪屋』であった。

勢いよく畳をはじき飛ばし、床下から黒装束に身を包んだ『簪屋』が躍り出た。
「ミッ!?」驚くミィミィ屋の顔を、二度三度と蹴り飛ばす。
なす術もなく畳に転がるミィミィ屋は泣き声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってミィ!リハーサルと段取りが違うミィ!」

それにも構わず、『簪屋』はさらに蹴りを入れた。
転がってうつ伏せになったミィミィ屋に馬乗りになり、ふところから金色の簪を取り出す。
その簪はキラリと輝いた次の瞬間、ミィミィ屋の盆の窪に突き立てられていた。
「ミギュ!!」即死したミィミィ屋の首が、がくりと垂れる。
『簪屋』は簪を引き抜くと、音もなく再び床下に姿を消した。


それとは入れ違いに、廊下をドスドスと乱暴に歩く音が近付いてきた。タブ十郎である。
「どうしたミィ!何かあったかミィ!?……ミッ!」
障子を開けて、ミィミィ屋の死体を発見したタブ十郎は驚きの声を上げる。
それと同時に、廊下の曲がり角の暗がりから人影が姿を現わした。『三味線屋』だ。

その気配にタブ十郎も気づいたが、『三味線屋』の方が一瞬早かった。
『三味線屋』の手から、闇を裂いてかすかな光が飛び、タブ十郎の首に巻きついた。
「ミギュッ!?」
光の正体は三味線の糸であった。『三味線屋』は手元の糸を天井の梁に投げた。
そして落ちてきた糸を掴み、廊下を走り抜ける。
「ミガアアア!!」それとすれ違いにタブ十郎は引きずられていき、
天井の梁を支点として宙吊りにされた。
『三味線屋』が力強く糸を手繰り寄せるごとに、タブ十郎の足は床から遠のいてゆく。

「く、苦しいミィ!か、カメラ止めてミィ!ほんとに、ほんとに締まってるミィ!!」
足をバタつかせ、苦悶の表情でタブ十郎はもがき苦しんだ。
しかし『三味線屋』は最後にぐっと糸に力を込めた。そして糸を指で弾く。
「ミ!…グ……」足がだらんとなって、タブ十郎は絶命する。
『三味線屋』が糸を切ると、その死体はどさりと落下して、床に転がった。
顧みる事なく、『三味線屋』も闇の中に消えてゆく。

その頃、勘定奉行タブンネ守は寝床に入ろうとして、行燈の火を消した。
すると月明かりで、障子に人影が浮かび上がった。
タブンネ守は顔色を変え、刀を手に取って「誰だミィ!?」と誰何する。
障子の向こうの男は低い声で答えた。
「タブンネ守様、ミィミィ屋タブ右衛門様からの火急の使いで参りました。」
「何、ミィミィ屋?して、何と言っているミィ?」
安堵したタブンネ守は刀を置いて障子を開けた。
そこには八丁堀の羽織をつけた、町方役人らしき男が平伏していた。
「はい、お言付けでございます…………先に地獄で待っていると」
「何ィ!…ミギャア!!」
驚くタブンネ守の腹には、『八丁堀』の刀が深々と突き刺されていた。
「ミガガガァ!!痛い痛いミィ!これ本物の刀だミィィィ!!」


※ ※ ※ ※ ※

視聴率40%を超える人気時代劇「必殺タブンネ人」。
番組の一番のポイントは、仕置のシーンが実演ということである。
タブンネを「テレビに出てスターになれる」と言葉巧みにスカウトし、
最低限の演技だけ仕込んで、本当に仕置するのである。
自分が本当に殺されると悟った時の慌てっぷりや絶望ぶりは、
ドッキリカメラの様相も呈している為、
時代劇とバラエティの新たな進化形として、大人気を博しているのだ。
ちなみにタブンネに普通の演技などは全く期待していないので、
前半のドラマ部分に登場するタブンネは全てCGと吹き替えである。

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「だ、騙したミィ!スターになれるなんて…嘘だったミィ!」
激痛と悔しさでタブンネ守は泣き叫ぶが、『八丁堀』は冷たく言った。
「文句なら地獄の閻魔様に言いな!」
そして刀を引き抜くと、よろめくタブンネ守に袈裟切りを浴びせた。
「ミギャアアア!!」
血しぶきを上げ、タブンネ守はばったり倒れて息絶える。
『八丁堀』は刀を一振りして血を払い飛ばし、静かに障子を閉めた……


※ ※ ※ ※ ※

「はーい、カット!お疲れ様でした!」
照明が点き、スタッフの拍手が起こる。『八丁堀』の役者は素に戻った笑顔を見せた。
「本日の撮影終了でーす。引き続き打ち上げを行いますので、移動お願いします」
役者やスタッフが引き上げる中、タブンネ達の死体が厨房に運ばれていった。
これから恒例の、タブンネ焼き肉打ち上げパーティが行われるのだ。
人気番組のチームワークを保つ秘訣の一つでもあった。

(終わり)
最終更新:2015年02月18日 19:33