食べ盛りの子供を見ているのは楽しい。それは人間もタブンネも同様だ。
目を輝かせてごはんを口にする姿を見ていると、こちらも嬉しくなる。
しかしそれもあくまで節度あってこそ。食べ過ぎてはお腹を壊すし、暴食癖が身についてはいけない。
だがうちの子タブンネはなかなかそれをわかってくれないようで、俺を困らせている。
「もう終わりだよ」と言っているのに、「もっとほしいよ」と言いたげにミィミィ鳴いたり、
きつく叱ると人間の子供のように拗ねたり、床に倒れて足をばたつかせて駄々をこねたりする。
やれやれ、どうしつけたらよいものやら……
そこで一計を案じた俺は、友人からチリーンを借りてきた。
そして部屋で遊んでいる子タブンネに対し、物陰からさいみんじゅつをかけてもらった。
涼しげな風鈴の音が鳴るとともに子タブンネはうつらうつらし始め、こてんと眠ってしまう。
作戦成功だ。このままチリーンに、ある『暗示』をかけてもらうのだ。
1時間程して、子タブンネは目を覚ました。「ミファァ…」と欠伸をすると同時に、
ぐうぐうとお腹が鳴る。本当に食いしん坊だな、こいつは。
「ミッミッ!」とごはんを催促する子タブンネに、俺は皿一杯のオボンの実を差し出した。
「今日は遠慮しなくていいぞ、好きなだけ食べなよ」と言う。
いつもは1個しかあげないオボンの実を腹一杯食べられると知って、
子タブンネは「ミィィ♪」と大喜びでかぶりついた。
立て続けに3個のオボンを食べた子タブンネは「ミップゥ♪」と満足気に皿から離れようとした。
ところがなぜかまたオボンに手を出すと、引き続き食べ始める。
「ミッ?ミッ!?」
もうお腹一杯なのに、なおも食べようとしている自分が理解できず、子タブンネは戸惑っている。
4個目、5個目、6個目。明らかに子タブンネの体格からするとキャパオーバーのオボンを収め、
子タブンネの腹はパンパンに膨れ上がっている。
「ミィ!ミィィ!」既に苦しくて涙目になっているのに、7個目に噛り付き始めた。
これが、さっき俺がチリーンに頼んださいみんじゅつの正体だ。
『オボンの実が食べたくて食べたくて止まらなくなる』という暗示をかけてもらったのだ。
いくら好物のオボンであろうと、理性のブレーキが働かず、限界以上に食べたらどうなるか……
「ミヒ、ミヒィィ…」
涙をポロポロ流しながら7個目を食べ終わった子タブンネは、8個目に手を伸ばそうとする。
しかし膨れ上がった腹が邪魔で、もう手が伸びない。ころんと後ろに倒れてしまった。
「ミィィ!ミィィ!」
風船のような腹で、四肢をばたつかせてもがくタブンネ。「くるしいよ、たすけて」と言っているのだろう。
気の毒ではあったが、その滑稽な姿を見て俺は思わず吹き出してしまった。
パンパンになった腹をさすってみる。
普段から子タブンネのお腹はぷにぷにして柔らかく触り心地がよいのだが、今日は一層気持ちいい。
軽くぽんぽんと叩くと、小太鼓のようにいい音がした。
しかし子タブンネにとってはそれどころではない。俺が腹を触る度に「ミウッ!ウエ…」とえずいて、
今にも逆流しそうだ。でももうちょっと楽しませてくれよ。
俺は子タブンネの腹の横から、そっと力を入れて押してみた。
見事に転がった。まるでボウリングの球のようにころんころんとゆっくり転がってゆく。
実に可愛らしく面白い。
「ミヒィ、ヒィ…ウブ!ウェェ!」
おっとっと、さすがにもう限界のようだな。ごめんごめん。
俺は子タブンネを抱えて慌ててトイレに行った。子タブンネの顔を便器に向け、腹をぐーっと押す。
「ミ、ミゲェェェェェェェ!!」
思い切り嘔吐した。ケロケロとオボンの実7個分を戻す涙目の子タブンネ。
腹を押すとその分吐くので、ちょっと汚いがこれはこれで面白かった。
「ミフゥ…ヒィ……」
あらかた吐き終わり、お腹も元の大きさに戻ってやっと子タブンネは一息ついた。
涙と吐瀉物で汚れた顔を拭いてあげると、「ミィィ…」と気持ちよさそうだ。
「ひどいめにあったよ」と言いたげな顔で、子タブンネはおもちゃのところに行こうとした。
ところがその足は、またもオボンの皿の方へ向かっていた。
皿の前にちょこんと座り、再びオボンを食べ始める自分自身に子タブンネは完全に混乱している。
「ミヒィーッ!ミィミィ!!」もう食べたくないのに、泣きながら子タブンネはオボンを齧る。
そりゃあそうだ、まださいみんじゅつの暗示は解いていないんだから。
数分後、またも腹がパンパンに膨れ上がり、子タブンネは風船状態になってミィミィ泣いていた。
俺はまたぷにぷにお腹の感触を堪能し、ちょっと遊んでは、トイレで吐かせる。
皿一杯のオボンがなくなるまで、このループは続いた。
その後、再びさいみんじゅつをかけて暗示は解いてやったが、どうやらお灸が効き過ぎたらしい。
オボンの実をあげようとすると、「ミヒィィ!」と怯えて耳を押さえプルプル震えるようになってしまった。
すっかりオボン恐怖症になってしまったらしい。今ではミルクが主食だ。
可哀想だから、またさいみんじゅつでオボン恐怖症を治してやるべきか、
面白いし食費もかからないからこのままにしておくべきか、俺は現在思案中である。
(終わり)
最終更新:2015年02月18日 19:38