続タブやこんこん

「ミッ!」「チィ!」「チィチィチィチィチィチィ!!!!」
今年も俺の地方にタブンネが降る季節がやってきた。庭も道路もたちまちピンク色で溢れかえってゆく。
うんざりしながらカーテンを閉めた俺は、役場の人が置いていった薬品のタンクと噴霧器のセットを眺める。
「タブンネ用の画期的な新発明です。今年からは除タブの手間に悩まされずに済みます」と説明していったが・・・
ほんとに大丈夫なのか。

翌朝。庭に積もったタブンネの山を横目に、説明書を改めて読み直す。


<<使用方法>>
 融タブ剤はタブンネの体内のミィアドレナリンに反応しますので、まずはタブンネを脅かすか虐待するかして、
 ミィアドレナリンが分泌された状態で噴霧してください。平常時のタブンネに噴霧してもあまり効果はありません。

 (注)融タブ剤はタブンネにのみ反応する薬品であり、人間や他のポケモンには悪影響はありませんが、
 使用する前はタブンネ料理を食べないでください。料理に含まれたミィアドレナリンに反応するので危険です。


なるほどね。では早速試してみるとするか。
タブかき用のスコップを取り出して玄関を開け、タブンネの山めがけてスコップをべしべし叩き付けた。
「チビャギャーー!!」「ヒギィーー!!」
何十匹かが叩き潰されてピクピクする中、その周辺の連中は慌てふためいてヨチヨチ逃げ始めた。
その悲鳴を聞きつけて、何かよからぬ事が起こっているのは伝わったようで、
「ミィミィ!」「チィチィ!」と怯えたようなざわめきが庭中に広まってゆく。ああうるさい。

これである程度恐怖心が伝染し、ミィアドレナリンもそこそこ分泌されただろう。
俺は薬品タンクを横に置き、電動噴霧器のスイッチを入れて、融タブ剤をタブンネ目掛けて噴射した。
「チギャァーーー!!~~ァァァ~~~ァ………」
おお、溶ける溶ける。タブンネ達がまさしくお湯をかけた雪のようにドロドロ溶けていくぞ。
しかも溶けた液体が効果を持続したまま、どんどん残りのタブンネ達も巻き込んでいくようだ。
なんかSF映画みたいだな、本当に人体に影響ないんだろうな、これ。

ともかく、2・3回撒いただけで、庭のタブンネはほとんど溶けてしまったわけだから、こうかはばつぐんだ!
命からがら逃げ出した連中も、融タブ剤を散布して回っていた除タブ車の餌食になったようだ。
これで気持ちよく出勤できる・・・いや、まだ一つ問題があった。

その問題は、朝の10時頃に大挙して空からやってきた。タブンネ目当ての鳥ポケモン達である。
ウォーグルやらバルジーナやらムクホークやら、一体どこから来たのかと思うほどの凄まじい数だ。
年々種類も数も増えているようで、鳥ポケモンの間でも、ここがいい餌場だという評判になっているのかもしれない。

      • が、今年はちょっと勝手が違った。例年なら街を埋め尽くさんばかりのタブンネがほんの少ししか見当たらず、
代わりにピンクの液体ばかりがそこかしこに流れているだけなのだから。
慌てた鳥ポケモン達は、かろうじて融タブ剤から逃れて身を隠していたタブンネ達を奪い合って、壮絶に争い始めた。

「ヂビビビビィィ!!」「チッ、チビィーーッ!!」「ギニャァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」
せっかく生き残ったと思ったのも束の間、鳥ポケモン同士に引っ張られて千切られ、食い殺されるタブンネ達。
しかしそのわずかなタブンネを食い尽くしたくらいでは、鳥ポケモンらの食欲が収まるわけもなく、
お前らのせいだとばかりに種族同士の喧嘩まで始まる始末だった。

ギャアギャアと空を覆いつくす争いが続くこと数時間、ようやく鳥ポケモン達は引き揚げていったが、
その争いの後には、大量の羽根が街中に散らばっていた。
おまけに融タブ剤使用後のピンクの液体は、ほうっておくと染み付いてしまうらしいということもわかり、
結局俺達住民は、水洗いやら掃除に追われる羽目になったのであった。

恐るべし大自然。もう勘弁してください大自然。
最終更新:2015年02月18日 19:44