ミィミィコロシアム

『青コーナー。挑戦者、クズニクー』
リング上では若きタブンネが対戦相手の入場を待っている。
耳に揺れる青いタグ。
青いタグは挑戦者の証。今日が最初にして最後の挑戦。

『赤コーナーより、チャンピオン! しもふりの入場です!』
ワアアアアアアア!
沸き起こる大歓声。
チャンピオンの入場である。

1匹のタブンネが入場してくる。
こちらのタブンネに尻尾はなく、全身は傷だらけである。
しかし、傷ついた体こそ、数々の激戦を勝ち抜いてきた猛者の証。
耳に赤く輝く王者のタグ。挑戦者の夢を砕く高い壁。
本日8度目の防衛戦!

ここはミィミィコロシアム。常に満員札止め。
集められたタブンネたちが、文字通り命を懸ける戦場である。
噛みつき、ひっかき、目つぶし何でもあり。
15分以内に相手を倒す。
ルールは単純。
勝てば生き残り、負ければ死ぬ!
なお15分以内に決着がつかない場合、両者とも敗北扱いになる。

カーン!
「ミィイイッ!」
ゴングが鳴ると同時にチャンピオンのしもふりが襲い掛かる。
時間はわずか15分。様子見などしている余裕はない。
タックルでクズニクを押し倒し、マウントポジションからビンタを連続で叩き込む。
猛攻に耐えきれず、体をよじり。必死に逃げ出そうとするクズニク。
しかし、逃げようとするクズニクの触覚をつかみ、そのまま力任せに引きちぎる!
「ミャアァァァアァァァァッ!」
あまりの激痛にしもふりを跳ね飛ばし逃げ出してしまう。
そのままリングの隅っこでちぎれた触覚を押さえてうずくまる。

ウオオオオオオ!
Boooooooooooo!

チャンピオンの猛攻に歓声をあげる者。
挑戦者のふがいなさに罵声を浴びせる者。
体の1部がちぎれたことに興奮する者。
情けない挑戦者の姿を笑う者。
決着の瞬間を逃すまいとリング上を見つめる者。
満員の観客たちは様々な反応を見せる。

すでにクズニクの心は折れていた。
ぶるぶると体を震わせ、しもふりの攻撃が来ることを恐れている。
とどめをさすために、しもふりが悠然と歩み寄る。
開始3分。はやくも決着!

『ミィィ…』『チィ…』

そのとき、弱々しいタブンネの声が会場に流れる。
音源は天井に設置された大型のモニター。
そこにはボロボロになって横たわるタブンネの親子が映し出されていた。
このタブンネ、挑戦者であるクズニクの家族である。
負ければ家族ともども処分する。
脅しではないことをわからせるために家族を徹底的に痛めつける。

「ミィ…」
家族の声を聞いたクズニク。
自分だけではなく家族の命も懸かっているのだ。
この戦い、絶対に負けるわけにはいかない。
「……ミギー!」
叫び声をあげて気合を入れる。
虚を突かれたしもふりを体当たりでリングに転がす。
そして、倒れたしもふりの顔面を、全体重をかけて何度も何度も踏みつける!
チャンピオンしもふりの歯が折れ、顔の形が変形していく。

「オオッ!」と歓声があがる。
一方的な決着になるかと思っていたその瞬間、挑戦者が猛反撃をしかけたのだ。
しかも一気に形勢をひっくり返し、連続防衛中のチャンピオンを追い詰めているのだ。
これで盛り上がらないはずがない。
会場は一気にヒートアップしていく。

「ビグゥ! ビィっ!」
劣勢になったしもふり。
しかし、彼にとっても自分と家族の命が懸かった試合だ。
口や鼻から大量に出血しながらも、逆転の機会が訪れるのをひたすら耐えて待つ。
そして、その執念が実り、ついにその機会が訪れる!
「ミヤッ!?」
顔面への踏みつけていたクズニクだが、しもふりの血で足がすべり、バランスをくずしてしまう
命がけの戦いの中の一瞬の隙をしもふりは見逃さない。

「ビイィィィィィィィィ!」
歯が折れ、口の中には血が溢れ、鳴き声すらまともに出せない中、雄たけびをあげる。
顔面はぼこぼこで視界もほとんどなく、相手の姿もろくに見えない。
それでもタブンネ特有の聴覚で相手の位置を把握すると、すてみのタックルをしかける。
クズニクを押し倒すと、馬乗りになってからの連続ビンタ。
「ビィッ! ビギィ!」
「ミギィ! ミィィ!」
試合はここから一気に白熱していく。




…………………………

カンカンカンカン!
ドワアアアアアアアアアア!
ウオォォォォォォォォォォ!

試合終了を告げるゴング。
決着に湧き上がる大歓声。
『ただいまの試合ー、14分26秒。チャンピオンの勝利となります!
 チャンピオンしもふり、これで8度目の防衛に成功です!』
逆転に次ぐ逆転。
残り1分を切ってからのカウントダウン。
最後はチャンピオンの必勝パターン。タックルからの連続ビンタ。
会場のボルテージはすっかり振り切れている。
ミィミィコロシアム史に残る名勝負となった。

リング上ではスタッフたちが次の試合のために清掃を行っている。
敗北し、処分されることとなったクズニク。その顔からはすっかり生気が失われている。
勝利し、かろうじて生存を決めたしもふり。もはや、自分の足で歩くことすらできない。
動かない2匹をスタッフが引きずって回収してゆく。

しもふりが選手控室に連れてこられると、そこには家族が待っていた。
「ミィ!」「チィチィ!」とぼろぼろになったしもふりのことを心配している。
実はこのタブンネコロシアム、10回の防衛に成功したタブンネは家族ともども解放される。
あと2回。しもふりはそう考えると腫れ上がった顔で家族に大丈夫だよと笑顔を向ける。
そのとき、スタッフがしもふりを控室から引っ張り出し、そのまま引きずっていく。
「ビウゥゥ! ビヒィィッ!」
家族から引き離されたことの驚きと、傷だらけの体の痛みに悲鳴をあげるしもふり。

ウアァァァァァァァァァァァァ!
しもふりは再びリングに連れてこられた。
今日の試合は終わったはずと混乱するしもふり。

『ただいまより、スペシャルハンディマッチを行います!』

リングアナウンサーの声が響く。
自分と反対側のコーナーには、ボロボロの1匹の子タブンネが待っている。
耳につけられた青いタグは真新しい血で赤黒く染まっている。
『赤コーナー。ご存じ! チャンピオン…しもふりぃぃぃぃ!』
チャンピオン2度目の登場に会場が盛り上がる。
『そして、青コーナー。泣きの一回ラストチャンス!
 復讐に燃える挑戦者、クズニクゥ…ジュニアァァァァァァ!』
親の仇を討つためにリングにあがる子タブンネに会場はさらに盛り上がりを見せる。

『体格差をはねのけて挑戦者が王座奪取なるか!?
 先ほどのダメージをものともせずチャンピオンが9度目の防衛なるか!?
 なお、この試合は特別ルールとして制限時間10分のデスマッチとなります。
 10分後に両者とも生存している場合は、ともに敗北といたします。
 世紀の1戦、まもなく試合開始です』

カーン!

(おしまい)
最終更新:2015年02月18日 19:58