タブンネの食性

木の実を育てているとタブンネの被害に困ることがよくある。
どうにかならないかと思い、ある方法を考え付いた。

木の実を収穫しているとオボンの木に集まるタブンネ親子を見つけた。
逃げ出そうとするタブンネたちにオボンの実を与える。
オボンを食べ終わると「ミッミッ♪」と俺の足元に集まってくる。
木の実をもらっただけですっかり俺のことを信用したようだ。

「木の実を毎日食べたくないかい?」
言葉の意味がわからなかったのか目をぱちくりさせていたが、すぐに笑顔になった。
「ついておいで」
そう言って歩き始めた俺のうしろを幸せそうにタブンネ親子がついてくる。
まったく。タブンネというポケモンは単純で扱いやすいな。

タブンネたちを家の中に入れて空き部屋を改造した檻の中に入れる。
広くはないがタブンネの家族が暮らすには十分な広さだ。
タブンネたちはこの部屋を気に入ったようで「ミャア~♪」と鳴きながらくつろいでいる。
「あとでご飯を持ってくるからね」
そう言って、逃げられないように鍵をかけてから木の実の収穫に戻った。

夕方、仕事を終えて帰ってくると「ミィミィ!」と大合唱が聞こえてくる。
「腹減った」「飯よこせ」だろう。とてもうるさい。
俺が姿を見せると「ミィッ!」とひときわ強く鳴く。
別になんてことはないのだが「いやー、ごめんごめん」と謝っておく。
「木の実がたくさんあったから遅くなっちゃたんだよ。ほら、これ」
そう言って木の実が大量に入った袋を持ち上げる。
すると、先ほどまでの強気はどこへ行ったのか「ミウ~♪」と甘えた声を出す。

「ほら、今日とれたマトマの実だよ」
タブンネたちに見せてやると「ミィ?」と不思議そうな顔をしている。
普段の食性としてオボンやオレンは知っているがマトマの実は見たことがないのだろう。
「食べていいよ」と檻ごしに父タブンネにマトマの実を渡す。
手の中でくるくる回しながら「何これ?」といった感じで見つめている。
母タブンネや子タブンネも興味津々のようだ。

「木の実だから大丈夫だよ。食べてみて」
俺がそう促すと、ふんふん鼻を鳴らしてから、あむりと噛みついた。
「ミッ、ミゥ? ……ミミッ!? ミガッ! ミヤァァァァァッ!」
甘いものが大好きなタブンネにとって辛さというものは天敵といえるのだろう。
相当に辛かったらしく口を押さえて床をのたうちまわっている。
そして涙を流しながら取り付けてある給水器から必死に水を飲む。
ごくごくという音が聞こえてきそうなほどすごい飲みっぷりだ。

水を飲んだことで辛さがひいたのか「ミミィ!」と強気に出る父タブンネ。
母タブンネや子タブンネたちも俺のことを威嚇するようににらんでいる。
タブンネがすごんだところで何の怖さもない。コラッタのほうがまだ迫力があるだろう。
俺をにらんでいるタブンネたちに説明する。

「木の実を毎日食べさせるって言ったろ? それは嘘じゃない。
 ただ、オボンとかオレンは人気があるからお前らに食わせるほどの数はないんだ。
 そのかわり、マトマやフィラをたくさん食わせてやるから。」

そうした生活を何日か続けていると、ある変化が起きた。
親タブンネ2匹の耳が少し欠けていた。
口の中の辛さと空腹に耐えながら寝苦しそうにしている親タブンネ。
それとは対照的に、幸せそうな様子でスヤスヤ眠る子タブンネたち。

「タブンネの肉はおいしいらしいぞ」と親タブンネには言い続け、
「タブ肉をおいしそうに食べるタブンネ」の映像を子タブンネに見せ続けた。
その効果が出てきたようだ。
そろそろテストしてみてもいい頃合いか。

「今日は特別だよ。オボンを持ってきたよ」
親タブンネの顔がぱあっと明るくなる。マトマとフィラばっかり食わされてきたんだから嬉しいだろう。
子タブンネたちも期待に満ちた目をしている。さて、どうなるかな?

1匹1匹にオボンを渡し、食べる様子を観察する。
歓喜の涙を流しながらシャクシャクとオボンにかぶりつく親タブンネ。
一方、一口だけオボンをかじると不思議そうにオボンを見つめる子タブンネたち。
ミィアドレナリンを多量に含む肉を食べた後では、木の実などスカスカな味しかしないだろう。
どうやらうまくいったようだ。

子タブンネたちにいつもの映像を見せる。
1匹のタブンネが解体されて肉となり、それを別のタブンネがおいしそうに食べる。
子タブンネたちの喉が音を立てる。
そして、新たな映像を見せる。
肉食ポケモンがタブンネを捕まえ、その体を引き裂き、飲み込んでいく映像だ。

オボンに夢中だった親タブンネが流れている映像に気付き、驚きの声をあげる。
「ミィ? ……ミッ!?」
その声に子タブンネたちが一斉に親タブンネを見る。
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
満足に食事と睡眠をとれず、肉体的にも精神的にも披露している親タブンネ。
栄養価の高いタブ肉を食べていたことで気力・体力ともに充実している子タブンネ。
さらに、目の前にごちそうを見つけたことで興奮している。
大人と子どもの体格差があるとはいえ、結果は見るまでもないだろう。



「ミギャァァァァァッ!」
木の実を盗みに来たタブンネの悲鳴が響き渡る。
そちらに向かうとタブンネがタブンネの喉元に喰らいついている光景があった。
「よくやったぞ」
盗人を仕留めたタブンネの頭をなでて、虫の息になった野良タブンネを回収する。

あれから1か月。
タブ肉のうまさを知った子タブンネたち。その中で生き残った1匹を教育した。
いまでは、木の実を守る番犬ならぬ「番タブンネ」として、野良タブンネたちを駆除している。
大して腹の膨れない木の実より、タブンネ1匹を仕留めた方がよっぽどいいと学習した。
そのため、木の実を盗み食いすることのない優秀なハンターとして活動するようになった。

「ミィヤァァァァッ!」
新たな獲物をしとめたようだ。今度は親子のタブンネか。
タブンネがたくさん捕れたことで今夜はごちそうだな。
「タブンネの愛情焼きを食わせてやる。まだ食ったことないだろ?」
すぐ横に立つタブンネに話しかけると、未知の料理に目を輝かせている。
「すごく美味いぞ。期待してろよ」
「ミィッ♪」
尻尾をぱたぱた振りながら俺の隣を歩くタブンネ。ご機嫌だ。

タブ肉を食べることが生きがいになったタブンネ。
こいつはこれからも立派なハンターとしてはたらいてくれるだろう。

(おしまい)
最終更新:2015年02月18日 20:03