水風船

ここはとある小さなタブンネ研究所。
タブンネの生態や構造についての研究を行うところだ。
俺はそこのスタッフ(という名のアルバイト)の一人なのだが…

「あれー? どこ行ったのかなー?」

器具を使用した実験中、目を離したすきに子タブンネ2匹が逃げたらしい。
『らしい』というのは、実験を始めようとしたら用意したタブンネの数が合わなかったとか。
2匹いないくらいでは実験に支障はないのだが、経費で買った以上そういうわけにもいかないと。
なんでも、帳簿の数と実際の数があわないのは色々とまずいそうだ。
そういうわけで、下っ端の俺が探すはめになってしまったわけだ。

研究所の中を探すも見つからない。
どこか別の部屋に入ったのか?
いや、子タブンネの力ではドアを開けることはできないはずだ。
物陰に隠れているにしても、あの目立つピンクの体を見逃すはずはないんだが……
そういえば、裏口が開けっ放しになっていることがあったっけ。
だとすると、外に逃げたのか?

思ったとおり裏口が開いていた。危機管理がなってないよなー。
裏口の外は小さな庭になっている。
庭といっても花が植えてあるわけではなく、柵で囲まれただけのただの空き地だ。
柵があるから敷地から出ることはできない。
外に逃げたとしてもここにいるはずだ。

「チィッ!」「ヂィィッ!」「チチッ!」

鳴き声のする方に行くと、逃げた2匹はあっさり見つかった。
マメパト1羽につつかれ、頭を押さえながらチィチィ逃げ回っている。
……うーむ、マメパトはそんなに強いポケモンじゃないと思うんだが。

2匹を回収しようと俺が近づくと、マメパトはパタパタと飛んで逃げていった。
マメパトから解放された2匹はめそめそ泣いていたが、俺に気付くと「ヂィッ!?」鳴き、ヨタヨタと逃げ始めた。
なんか逃げられてばっかだな、俺。

逃げたところで所詮は子タブンネ。
俺がゆっくり歩いても余裕で追いつく。あっという間に壁に追い詰めた。
2匹ともヒシッと抱き合っておびえた目で俺を見ている。
怖い研究所から逃げ出したと思ったら、そこの人間にあっさりと追い詰められる。
どんな気分だろうな、こいつら。

捕まえた2匹を両脇に抱えて研究所に向かう。
2匹ともどうにか逃げ出そうと必死にもがいている。
そのうち、1匹が俺の手に噛みついてきた。
まだ力の弱い子タブンネだ。噛まれたところで大して痛くはない。
しかし、こうして無駄な抵抗を続ける子タブンネを見ていると、いじらしさと同時にある感情がめばえてくる。

とくに実験に支障はなく、数があってればいいのなら、少しぐらい弱っていてもいいだろう。
子タブンネ1匹を膝で押さえつけ、庭に設置してある蛇口にホースを取り付ける。
もう1匹は解放しているが、柵に囲まれた庭からは逃げられない。あとから捕まえればいい。
「水をたくさん飲ませてあげるよ」
子タブンネの口にホースの先を突っ込み、ゆっくりと水を出す。

「アガッ!? アググッ!?」
口の中に水が流れこんできたため目を白黒させる子タブンネ。いや、白青かな?
俺が子タブンネの鼻を押さえているため、そのままでは息ができず、あわてて水をごくごく飲み始める。
しかし、そのうち限界が来たのか「ガググッ」と鳴きながら水を飲むのをやめてしまった。
いったん水を止め、子タブンネのお腹に手をあてて軽く押す。……まだ入るな。

「もっと飲めよ」
そう言って再度、水を流し始める。
「ギググッ!?」
再び口の中に水が入ってきて目を大きく見開き涙を流しながら必死に水を飲み始める。
そのうち子タブンネのお腹が張ってきた。
そろそろ限界だな。これ以上は破裂する。
そう判断し、水を止めホースを口から抜いてやる。

「チプッ…ウエッ…」
お腹いっぱいという言葉通りに水が入って苦しいのだろう。
まん丸に膨らんだ体を動かすこともできずに、ひたすらうめいている。
目からは涙をボロボロとこぼし、口は半開きで吐き気をこらえている。
よし、その苦しみから解放してあげよう。

「すぐに楽になるからねー」
子タブンネの小さな口の中に小指を突っ込み、舌の奥を思いっきり押す。
「チウッ!? チチッ! ……ウエエエエエエエエッ!」
おー、出てくる出てくる。
飲み会での経験がこんなところで生きてくるとは、人生わからないものだ。
続けること数分、子タブンネはお腹の中の水をすべて吐ききった。
「チフッ…チィ…」と弱々しく呼吸をし、ぐったりとしている。
そんな子タブンネの口にあらためてホースを突っ込み水を流し始める。
もう少しだけがんばってね。

飲ませては吐かせてを繰り返すこと数回、そろそろ戻るか。
あまり長い時間サボっていると給料を引かれるかもしれないしな。
そういえば、もう1匹はどこ行ったかな……見つけた。
大して伸びてもいない草陰に身をかがめてプルプル震えている。
目をギュッと閉じて耳を両手で押さえている。
家族を見捨てるわけにはいかず、かといって怖くて近づくこともできず、あんな状態になってるんだろう。

「しかし、お前の兄弟はひどい奴だなー!
 お前がこんなに苦しんでるのに助けに来ないんだから!」
もう1匹の子タブンネに聞こえるように大きな声で言ってやる。
横目でチラリとみると体を低くした姿勢のままこっちを見ている。
気付かれてないとでも思ってるのかね。
ここでもう一声
「もしも助けに来たんなら、その勇気に免じて2匹とも逃がしてやろうかと思ったんだけどなー!」
さあ、どうする?

「チィ…」
子タブンネの口にホースを突っ込むと後ろから鳴き声が聞こえた。
振り向くともう1匹の子タブンネが泣きそうな顔で立っていた。
「もしかして助けに来たのかい?」
そう聞くと「チィ」と弱々しくもはっきりと鳴く。
「そっかーえらいなー。お前は勇気があるねー」
さきほどの言葉を聞いていたからか、2匹とも助けてもらえると期待して笑顔になる。
「お前もおもちゃになりたいなんて、本当に勇気があるよ」
笑顔が一瞬で凍りつく。
さっきまでの子タブンネはそのままにし、やってきたもう1匹をがっしりとつかむ。
さて、次はどうやってあそぼうかな。

(おわり)
最終更新:2015年02月18日 20:24