タブの不幸は蜜の味

ハチミツというものがある。
ハチミツには大きく2種類あり、ミツハニーが集めた花の蜜を巣の中で熟成させたものと、
スピアーが集めた花の蜜と花粉に木の実をブレンドしたものがある。
あるとき、一人の科学者がこんなことを思いついた。
花の蜜を他のものとブレンドさせて熟成させればさらにおいしいハチミツができるのではないか、と。

1匹のタブンネが天井から吊るされている。
両手をロープで縛られており、タブンネ自身の重みでロープがぎっちりと食い込んでいる。
涙を延々と流し続け、半開きの口からは「ヒィ…ヒィ…」と弱々しい息が吐き出される。
タブンネの頭には太めのチューブが刺さっており、その中をさらさらとした花の蜜が流れている。
このチューブの先はタブンネの皮の下を通るように刺さっており、蜜がタブンネの皮膚の下を流れるようになっている。
流れ出した蜜は足元の方に向かって流れていき、やがて、タブンネの足元の方に貯まっていく。
そのため、タブンネの下半身はだんだんと膨らんでいくのだ。

蜜を体に貯めはじめてから3日。
大量の蜜を貯めこんだタブンネの下半身はパンパンに膨らんでいた。
その足先に切り込みが入れられる。
このとき、肉まで切ってしまうと蜜に血液が混じり、売り物にならなくなってしまう。
最新の注意を払って皮だけを切らなくてはならないため、職人の腕が要求される。
切り開かれた皮からはポタポタと黄金色に輝く蜜が流れ出してくる。
それをビンに貯め、滅菌処理を施せばとてもおいしいタブ蜜の完成だ。
その味は非常に甘く、なめるたびに味が変わると言われるほど深い味わいを持っている。

なぜ、そのような味になるのか。
これは、花の蜜がタブンネの体を通過する際、皮下組織の表面から分泌されるミィアドレナリンと混ざり合い、
体内に貯まっている間に熟成が進むことでそのような味になると考えられている。
また、このタブ蜜にはミィアドレナリンのほかに大量のコラーゲンが含まれており、美容効果も高い。
甘くて美容にもいいタブ蜜はいまや、女性の間で爆発的な人気を誇っている。

タブ蜜のすごいところは蜜を作るだけでは終わらないところだ。
タブ蜜をつくるために使用したタブンネの体には蜜が染み込み、甘くて柔らかいタブ肉ができている。
このタブ蜜肉は、一般家庭から高級レストランまで多くの場所で使用される肉となった。
さらに、乾燥させることで新たな風味がうまれ、子どものおやつや酒のつまみになるタブ蜜ジャーキーへと姿を変える。

現在ではイッシュ全体で圧倒的な人気を誇るまでになったタブ蜜。
その裏にはそこそこの数のタブンネの犠牲がある。
まあ、犠牲になったタブンネのことなど気にせずにおいしく食べる。
それがタブンネたちへの供養であり礼儀であろう。
たぶんね。

(おわり)
最終更新:2015年02月18日 20:33