「ほら!そこテンポがずれてるよ!」
ここは、タブンネプロダクション。
最近できたばかりのタブンネ専門芸能事務所であり
子供から大人まで計26匹のタブンネが芸能活動をしている。
といってもここのタブンネたちは皆無名の芸能ポケモンであり
与えられる仕事はドラマやミュージカルのエキストラや
バラエティー番組の演出などの地味な仕事ばかりであった。
「そんな顔しない!もう一回やるよ!」
そんなタブンネたちをレッスンするのはPと呼ばれる男。
このプロダクションの社長でありタブンネたちのレッスンや
仕事を探したりしている。
実はPには別の本業があるのだがなぜタブンネのプロダクションを
始めたのかは業界内でも大きな謎とされていた。
ある日、Pはいつものようにタブンネをレッスンしていた。
「ちゃんと的を見て!そんなんじゃせっかくのれいとうビームがあたらないよ!」
ちなみにPは26匹のタブンネに個性をつけさせるべく
ダンスや歌のレッスン以外にも各ポケモンにいろいろな技を身につけさせている。
もっともそれが活かされるような仕事はいまだ来ないが……
そんなとき、レッスンルームのドアが開き秘書が入ってきた。
「P、ファイト様がお見えになりましたが」
「そうか、応接室に通してくれ、僕もすぐ行く」
「かしこまりました」
そう言った後秘書は一礼し、ドアを閉めた。
その後Pは汗をぬぐいながらタブンネたちに言った。
「僕はこれから仕事の話があるけど君たちはちゃんとレッスンをするんだよ」
「ミィ」「ミィ」「ミッ!」
タブンネたちはへたり込みながらも元気のよい返事をする。
Pはそんなタブンネ達を見回した後鼻歌を歌いながら応接室に向かった。
Pが部屋を出て3分が経過した。
タブンネたちは自主レッスンを指示されたのだが誰も立ち上がらず休んでいる。
疲れているのもあるのだが、地味な仕事しか与えられないことに
不安と不満がたまっており、Pのレッスンが嫌になっていた。
こんなレッスンをしても何の意味もないじゃないか……
26匹のタブンネは全員同じことを思っていた。
…
………
……………
「タブンネ主演の舞台ですって!!?」
そのときPの大声が聞こえてきた。
実は応接室はレッスンルームの隣にあったのだ。
「ミミッ?」
タブンネたちはPの声を聞いた後立ち上がり
応接室の壁越しに移動し、話を聞こうとした。
本来こういったレッスンルームは近隣に迷惑が掛からないよう防音になっているのだが
あくまで人間や普通のポケモンの聴力レベルに合わせてあるので
耳のいいタブンネには応接室の会話は筒抜けなのだ。
その後タブンネたちはPとファイトの会話を聞いていた。
話を聞くとタブンネが姫を守るナイトとなり悪い組織のボスを倒したのち
姫と結ばれるという王道ストーリーのポケモン舞台のようだ。
「ミィ♪」「ミッミッ!」
その話を聞いたタブンネたちは顔を見合わせ、嬉しそうな顔をした。
この舞台こそが自分たちの求めていた華やかなものだ。
この舞台を成功させればスターになれることは間違いない。
そしてタブンネたちはスターになった自分を想像し、にやけていた。
「さて、主演のタブンネを選ばせてもらおうかの」
老人の声がする、ファイトの声だ。
「ご案内します、タブンネたちは今隣の部屋でレッスンをしています」
Pはそう言いながら応接室のドアを開けた。
Pとファイトはその後レッスンルームに入った。
「ほう……みんな練習熱心ですな……感心感心」
ファイトはタブンネたちをみて少しおどろいた。
ファイトたちがみたのはダンスのステップをするタブンネや
10まんボルトを的にあてたりしている自主レッスンに取り組むタブンネ達だったのだ。
タブンネたちはPやファイトに少しでもアピールするため
自分の武器を披露していたのだ。
Pはタブンネ達がしているのはレッスンではなくアピールだということを
分かっていたがそのことを指摘せず口を開いた。
「みんな、紹介するよ。この方はファイトさん。
バトル舞台で有名な舞台監督だよ」
「ミィ……ミィィィィ!」「ミッミッミッ~~♪」
Pがファイトを紹介するがタブンネたちはレッスンをやめることはない。
今の彼らには自分が選ばれるためにとにかくアピールすることが第一なのだ。
「まったく、せっかく来てくださったのにあいさつもしないなんて……」
「練習熱心でいいじゃないか。どれどれ……」
そしてファイトはレッスン中のタブンネたちを見始めた。
「ほう……どのこも面白そう……んっ?」
ファイトはタブンネたちを見ていたがサンドバッグにとっしんを繰り返す
1匹の大柄なタブンネに目が留まった。
「彼ですか、彼はエースといってうちで一番の体格と攻撃力を持っています」
Pがタブンネを紹介する。
ちなみにエースというのは彼の名前でここの26匹のタブンネには
それぞれA~Zまでの頭文字がついた名前が与えられている。
「よし、主演はこの子に決まりだ」
ファイトはエースを指さした。
「ミィッ♪」
ファイトに指名されたエースは腰に手を当ててうれしそうにしている。
「ミギャァァァァ!!!」「ミィッ!ミィッ!」
一方指名されなかった残りのタブンネたちはショックを受けたり騒ぎ出したりした。
そのなかで一番の大声を持つスクリームと甘えん坊のラブミーは
ファイトの足元により訴え始めた。
「な、なんだね君たちは」
「こら!やめなさいスクリーム!ラブミー!」
Pは必死でスクリームたちを引き離す。
「ミギャァァ!!」「ミィ……」
タブンネたちは涙を流しながらPにも訴える。
「そんな顔しない。今回はエースが選ばれただけでまだチャンスはあるよ。
それにエースが今回成功したらタブンネ人気が高まって君たちにも
いっぱい仕事が回ってくるよ。
だから君たちはレッスンをしながらエースをてだすけしてあげようね」
Pはスクリームたちの頭をなでながら優しく話しかけると
タブンネたちはおとなしくなった。
「さて……ワシは帰ります。
明日からの舞台稽古をよろしくお願いしますよ」
そういってファイトはレッスンルームを出て行った。
翌日エースはPと舞台の稽古場に来ていた。
「ミィ!ミィ!ミィ!」
エースは主役に選ばれた嬉しさで自信に満ち溢れた顔をしている。
「気合い入ってるねエース、いい舞台になるといいね」
そんなエースの頭をなでながらPはエースに話しかける。
そしてエースたちは稽古場の前にたどり着いたが
そこにはくろいメガネをかけたワルビルとズルズキンがいた。
今回の舞台で悪の組織ブラウン団の下っ端役をつとめるポケモン俳優だ。
「グルルル……」
ワルビルがタブンネに話しかける。
「ミミッ♪」
それに対してエースは笑顔で手をあげて挨拶をする。
その挨拶のしかたは主役に選ばれたという地位から
ワルビル達を明らかに下にみている。
「フ~~~ッ」
そしてズルズキンはため息をつきながら首を振った。
何でこんな奴が主役なんだ?とでも言いたいのだろうか?
「ミミッ?」エースはズルズキンの態度が気にいらなかったのか険しい表情をした。
「ズルルッ!ズルルルッ!!」ズルズキンはエースのおなかを指さしながら話しかける。
こんな弱そうなやつが悪の組織のボスを倒すヒーローの舞台なんておかしい。
演技とはいえ自分たちがエースに負けるなんて嫌だと言っているようだ。
「グルッ」ワルビルも手を組みながらズルズキンの話にうなずく。
「ミミ~~ッ!!」
その話にエースは怒って頭を前に出した。
とっしんをするようだ。
「こらっ!エース!喧嘩はやめなさい!」
Pが注意するもエースはPを無視しワルビルに狙いを定める。
「グルッ グルッ」ワルビルは来いよとでもいわんばかりにエースをちょうはつする。
「ミイィィィーーーッ!!!!!」そのちょうはつに我慢の限界がとかれた
エースはワルビルに向かって全力でとっしんした。
(つづく )
最終更新:2015年02月18日 20:35