Sköll's Episode#2

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-[[前>Sköll's Episode#1]] 「おまっ、ドアノブまでエタノール消毒とか、どんだけ嫌いなんだよ」 「獣人好きは感染症かもしれないだろ、獣人病がうつったら困る」 「毛嫌いしすぎ」  たしかに、これはやりすぎかもしれない。 まるで子供のイジメみたいだ。嫌いな人を菌呼ばわりし本当に消毒する。 いたしかたない、嫌いなものは嫌いなのだ。 「ほら、サンタローがこっち見てるぞ」 「あれはスコルだ。フェンリルじゃない」 「おっと、間違えた。 犬ヅラはどれも同じに見えて困る」 「そもそも色が違うだろう」 「いちいち覚えてねぇよ、獣人の毛の色なんて」  無機質な怪物は、無表情で無垢な表情をしていた。 感情が全く失われると、動物は慈悲深い微笑を浮かべるようになる。 なるほど感慨深い。 スコルは、記憶と言う苦しみから逃れ至高の幸せを感じているようだ。 「犬の世話はあんたの担当な」 「なんでだよ、いやだね」 「今はまだプラグで繋がってるから、面倒ならPCの方から強制終了にすれば良いよ」 「おい、それじゃスコルが死んじゃわないか?」 「死なないよ、生命維持は全て機械まかせになってるから」 「だーめ、全部が機械なわけじゃないんだから不死身じゃねーし。 せっかく苦労して作ったのに殺してたまるかっ」 「ずいぶん愛着が湧いてるじゃん、病気がうつったのか? あいつから」 相方は黙り込んだ。 気持ちは分からないでもない。 スコルの外形のデザインを決めて設計したのは相方だ。 徹夜で作った「作品」を壊されるのは、芸術家である相方には耐え難い屈辱。 とはいえ、行く行くはスコルの量産製造が始まる。 そうなればスコルへの愛情も徐々に薄れていき、我々は新しい課題に追われるようになるだろう。 今はまだ、スコル完成の余韻に浸るのも、まあ悪くはないかもしれない。 『なにか、ごようですか』 「なんでもない、スコルは休んでいなさい」 『御意にございます』 スコルはしばらくこちらを見つめた後、目を閉じた。 檻の隅のほうに座り、静かになった。 「ずいぶん流暢に言葉を話すもんだな」 「そりゃ、獣人の公用語は俺らと同じなんだよ、忌まわしいことに」 「違う違う、そうじゃなくて、こいつ、舌が無いんじゃなかったっけか?」 「俺の再生医療を舐めるなよ? 舌ぐらいいくらでも作ってやる」 「だから、オマエは二枚舌なんだな?」 「氏ね」 図星だった。舌の手術は確かに自分が担当したし、組織再生は自分の研究分野だが、 スコルに新しい舌を移植したのは別の研究員だ。 「氏ねはないだろー、氏ねって、おまww」 「じゃあ罰としてスコルの世話はあんたがしろ」 「あーもう、へいへいー」 「体臭もないし、行儀もいいだろうから楽だろ?」 「食事は?」 「今は少なくていい」 「食うってことは、するんだろ?」 「しらん」  スコルは本名が不明だったので、スコルと言う製品名が付く前は「おもらし君」とか「ミスターO」とか呼んでいた。 目を覚ますたびに恐怖で失禁していたことに由来する、まったく酷いあだ名である。 感情をプログラムで制御するようになってからは、未だ排泄すらしていない。 こういう食事排泄などの日常生活の部分に欠陥がある場合も、もういちど修復しなければならなくなる。 もし疾患がある場合は、その部分も機械化するか、もしくは新しく組織を移植する。 そうなった場合は、異常に資金を要してしまう。 すでに研究費は予算を大幅に超えているし、赤字が続けば、またあの獣人マニアの家から援助をしてもらわなければならなくなる。 なんとしても極力経費削減したい。 あるいみ、まだスコルは完成とは言えなかった。 「おい起きろ、今日から俺が世話係だ」 『スコルです。あらためまして、よろしくお願いします』 「おいー、言葉が固くてやだよ、なんか」 『申し訳ございません』 「ま、いいや。 スコル、ウンコは?」 『……』 「ウンコ出ないの?」 『便意はありません』  妙なやり取りに自分は失笑した。 念のためPCを起動する。スコルに異常があればすぐにわかる。 起動が遅い、重い、イライラする。 「苦しいところはないの?」 『どこにも異常はありません』 「あそう、好きな女のタイプは?」 『……』 「どんな雌と交尾したい、とか無いの?」 『質問の意味が分かりません、申し訳ありません』 「童貞?」 「記憶が無いので不明です」 「ムラムラしないの?」  PCが起動したので、スコルをスキャンしてみたが、オールグリーン。 思考部分のプログラム使用率が若干高かったが、異常無しだ。 「あんまり変なこと聞いて遊ぶなよ」 「面白くないなー、獣人って淫乱なんじゃないの?」 「それはサンタローだろ」  サンタローと言った瞬間、例の獣人マニアが部屋から出てきた。 気まずい雰囲気が研究室内に漂う。 スコルは感情のないまっすぐな目線で奴を見ていた。 奴は無言でこちらを睨みつけた後、足早に研究室を出て行った。 「怖っ!」 「もう一回消毒してくる」 ふと、スコルと目が合った。 感情が無いので、スコルは絶対に目を反らさない。 穴が開きそうなほど見つめられ続け面食らった。 「なに見つめ合ってんの! 病気うつったん?」 「うつったみたいだ、重篤な症状だ、明日は欠勤する」 「だめー、そんなのだめー」 「冗談だ、スコルは監視するぞ」 「え? なんで?」  厳密に言えばスコルを監視するのではなく、奴がここに入ってくるのを防ぎたい。 奴はスコルにも何をするかわからない。 スコルを台無しにするかも知れない。 スコルが改造される前、はじめて自分が麻酔科医と共に留置所に入ったとき見た。 奴は泣きながら、獣人に何かをしていた。 なにかは分からないが、獣人はひどく恐れ、嘔吐していた。 そのとき獣人が舌を噛み切ったのは、奴に精神をずたずたに傷つけられるような何かをされたからではないのか。 たとえば、死ぬほど苦痛で、性的で、屈辱的な。 「スコル」 『なにか、御用ですか』 「がんばれよ」 『ありがとうございます』  励ましてみた。励まさなければならないような気がした。 やはり自分は、奴からなにか病気を貰ったみたいだ。 スコルに愛着が湧いている自分が、たしかにここに居る。 スコルには、屈辱に負けず、戦場でしっかり任務をこなし頑張って欲しいと思う。 「今日は泊りだ、俺もスコルの世話係になる」 「も? も、ってなんだよ。俺は飽きたから、おまえにまかせる!」 「駄目。泊るぞ」 「どうしちゃったんだよ、急に、獣人嫌いが」 「嫌いだ」 「二枚舌め!」 「氏ね、俺は病気がうつったんだ、病人をいたわれ」 「そうか、消毒が足りなくて空気感染したんだな」 「スコルは獣人じゃない、俺たちの、作品だ」 「そか」  自分は獣人が好きになってしまったのだろうか? いずれにせよ、なにがあろうとも、スコルは奴の魔の手から守る。 -[[次>Sköll's Episode#3]]
-[[前>Sköll's Episode#1]] 「おまっ、ドアノブまでエタノール消毒とか、どんだけ嫌いなんだよ」 「獣人好きは感染症かもしれないだろ、獣人病がうつったら困る」 「毛嫌いしすぎ」  たしかに、これはやりすぎかもしれない。 まるで子供のイジメみたいだ。嫌いな人を菌呼ばわりし本当に消毒する。 いたしかたない、嫌いなものは嫌いなのだ。 「ほら、サンタローがこっち見てるぞ」 「あれはスコルだ。フェンリルじゃない」 「おっと、間違えた。 犬ヅラはどれも同じに見えて困る」 「そもそも色が違うだろう」 「いちいち覚えてねぇよ、獣人の毛の色なんて」  無機質な怪物は、無表情で無垢な表情をしていた。 感情が全く失われると、動物は慈悲深い微笑を浮かべるようになる。 なるほど感慨深い。 スコルは、記憶と言う苦しみから逃れ至高の幸せを感じているようだ。 「犬の世話はあんたの担当な」 「なんでだよ、いやだね」 「今はまだプラグで繋がってるから、面倒ならPCの方から強制終了にすれば良いよ」 「おい、それじゃスコルが死んじゃわないか?」 「死なないよ、生命維持は全て機械まかせになってるから」 「だーめ、全部が機械なわけじゃないんだから不死身じゃねーし。 せっかく苦労して作ったのに殺してたまるかっ」 「ずいぶん愛着が湧いてるじゃん、病気がうつったのか? あいつから」 相方は黙り込んだ。 気持ちは分からないでもない。 スコルの外形のデザインを決めて設計したのは相方だ。 徹夜で作った「作品」を壊されるのは、芸術家である相方には耐え難い屈辱。 とはいえ、行く行くはスコルの量産製造が始まる。 そうなればスコルへの愛情も徐々に薄れていき、我々は新しい課題に追われるようになるだろう。 今はまだ、スコル完成の余韻に浸るのも、まあ悪くはないかもしれない。 『なにか、ごようですか』 「なんでもない、スコルは休んでいなさい」 『御意にございます』 スコルはしばらくこちらを見つめた後、目を閉じた。 檻の隅のほうに座り、静かになった。 「ずいぶん流暢に言葉を話すもんだな」 「そりゃ、獣人の公用語は俺らと同じなんだよ、忌まわしいことに」 「違う違う、そうじゃなくて、こいつ、舌が無いんじゃなかったっけか?」 「俺の再生医療を舐めるなよ? 舌ぐらいいくらでも作ってやる」 「だから、オマエは二枚舌なんだな?」 「氏ね」 図星だった。舌の手術は確かに自分が担当したし、組織再生は自分の研究分野だが、 スコルに新しい舌を移植したのは別の研究員だ。 「氏ねはないだろー、氏ねって、おまww」 「じゃあ罰としてスコルの世話はあんたがしろ」 「あーもう、へいへいー」 「体臭もないし、行儀もいいだろうから楽だろ?」 「食事は?」 「今は少なくていい」 「食うってことは、するんだろ?」 「しらん」  スコルは本名が不明だったので、スコルと言う製品名が付く前は「おもらし君」とか「ミスターO」とか呼んでいた。 目を覚ますたびに恐怖で失禁していたことに由来する、まったく酷いあだ名である。 感情をプログラムで制御するようになってからは、未だ排泄すらしていない。 こういう食事排泄などの日常生活の部分に欠陥がある場合も、もういちど修復しなければならなくなる。 もし疾患がある場合は、その部分も機械化するか、もしくは新しく組織を移植する。 そうなった場合は、異常に資金を要してしまう。 すでに研究費は予算を大幅に超えているし、赤字が続けば、またあの獣人マニアの家から援助をしてもらわなければならなくなる。 なんとしても極力経費削減したい。 あるいみ、まだスコルは完成とは言えなかった。 「おい起きろ、今日から俺が世話係だ」 『スコルです。あらためまして、よろしくお願いします』 「おいー、言葉が固くてやだよ、なんか」 『申し訳ございません』 「ま、いいや。 スコル、ウンコは?」 『……』 「ウンコ出ないの?」 『便意はありません』  妙なやり取りに自分は失笑した。 念のためPCを起動する。スコルに異常があればすぐにわかる。 起動が遅い、重い、イライラする。 「苦しいところはないの?」 『どこにも異常はありません』 「あそう、好きな女のタイプは?」 『……』 「どんな雌と交尾したい、とか無いの?」 『質問の意味が分かりません、申し訳ありません』 「童貞?」 「記憶が無いので不明です」 「ムラムラしないの?」  PCが起動したので、スコルをスキャンしてみたが、オールグリーン。 思考部分のプログラム使用率が若干高かったが、異常無しだ。 「あんまり変なこと聞いて遊ぶなよ」 「面白くないなー、獣人って淫乱なんじゃないの?」 「それはサンタローだろ」  サンタローと言った瞬間、例の獣人マニアが部屋から出てきた。 気まずい雰囲気が研究室内に漂う。 スコルは感情のないまっすぐな目線で奴を見ていた。 奴は無言でこちらを睨みつけた後、足早に研究室を出て行った。 「怖っ!」 「もう一回消毒してくる」 ふと、スコルと目が合った。 感情が無いので、スコルは絶対に目を反らさない。 穴が開きそうなほど見つめられ続け面食らった。 「なに見つめ合ってんの! 病気うつったん?」 「うつったみたいだ、重篤な症状だ、明日は欠勤する」 「だめー、そんなのだめー」 「冗談だ、スコルは監視するぞ」 「え? なんで?」  厳密に言えばスコルを監視するのではなく、奴がここに入ってくるのを防ぎたい。 奴はスコルにも何をするかわからない。 スコルを台無しにするかも知れない。 スコルが改造される前、はじめて自分が麻酔科医と共に留置所に入ったとき見た。 奴は泣きながら、獣人に何かをしていた。 なにかは分からないが、獣人はひどく恐れ、嘔吐していた。 そのとき獣人が舌を噛み切ったのは、奴に精神をずたずたに傷つけられるような何かをされたからではないのか。 たとえば、死ぬほど苦痛で、性的で、屈辱的な。 「スコル」 『なにか、御用ですか』 「がんばれよ」 『ありがとうございます』  励ましてみた。励まさなければならないような気がした。 やはり自分は、奴からなにか病気を貰ったみたいだ。 スコルに愛着が湧いている自分が、たしかにここに居る。 スコルには、屈辱に負けず、戦場でしっかり任務をこなし頑張って欲しいと思う。 「今日は泊りだ、俺もスコルの世話係になる」 「も? も、ってなんだよ。俺は飽きたから、おまえにまかせる!」 「駄目。泊るぞ」 「どうしちゃったんだよ、急に、獣人嫌いが」 「嫌いだ」 「二枚舌め!」 「氏ね、俺は病気がうつったんだ、病人をいたわれ」 「そうか、消毒が足りなくて空気感染したんだな」 「スコルは獣人じゃない、俺たちの、作品だ」 「そか」  自分は獣人が好きになってしまったのだろうか? いずれにせよ、なにがあろうとも、スコルは奴の魔の手から守る。 -[[次>Sköll's Episode#3]] &tags_list()

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